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謝るなら、いつでもおいで/川名荘志

ニュースで佐世保小六女児同級生殺害事件を知った時
私は大学生だった。

 
酒鬼薔薇事件で犯人が中学生で、被害者が小学生だった時も驚いたが
今度は加害者も被害者も小学生で
しかも犯行現場は小学校、日中での出来事と知り
私は更に驚いた。

 
当時、連日報道され
新聞もテレビも佐世保小六女児同級生殺害事件についてこぞって取り上げた。

 
後に
被害者が
友達がたくさんいる人で明るく活発であり
加害者は逆のようなタイプだと報道された。

 
また、最初は仲良くしていたし
同じミニバス部にも所属していたが
後に関係がこじれたことも
ニュースを通じて知った。

 
そんな中
一緒にその事件のニュースを見ていた時に
母がポツリと「ともかとAちゃん(同級生)みたいだよね。あの頃、ともかがAちゃんを殺さなくてよかった。」と呟いた。

「そうだね。」と私は返した。

 
私は似ていると思った。
小学生の頃の私に。

 
 
佐世保小女児同級生殺害事件の被害者である御手洗さんは
二年前、小学校四年生の頃に転校してきた。

母親はその半年前に癌で亡くなっており
父、次男と新たな場所での生活をスタートさせた(長男は大学進学で独り暮らし)。

御手洗さんは活発な性格で、よく友達を家に招いており、交換日記を複数の方としたり、ミニバス部を楽しんでいたようだ。

 
一方、被害者の女児(ネットではNEVADAたん、というニックネームがつくほどの人気である。本名もネットには載っている。)は、生まれも育ちも佐世保で
祖母、両親、姉と暮らしていた。
話すことよりも書くことの方が得意だった。

父親は十年前に脳梗塞で倒れ、障害者となり
仕事が限られていた。
母親が働きに出るようになり
回復後は父親も夜遅くまで働くようになった。

加害女児が住む場所は辺鄙な場所で
学校にはバスを使って登下校しており
バスは一時間に一本しかなかった。

ミニバス部を続けていた頃は明るかったが
小学五年生時に退部してからは不穏な様子が見られたらしい。

加害女児はやがてバトロワ等怖いものを好むようになり
自分専用のパソコンではHPを作ったり、その二次創作をするようになる。

 
御手洗さんにはパソコンのやり方を教えたり
複数人で交換日記をし、交流をしていたが
加害女児は自分の書き方を真似されることを極端に嫌がり
それを友達にされたことに逆上する。
他の同級生は謝罪したが、御手洗さんは表現の自由を突きつける。

 
それをきっかけに加害女児は御手洗さんのHPを荒し(もともとは仲がよかったので、パスワードを教え合っていた)
御手洗さんはネット上で加害女児を揶揄し
腹を立てた加害女児がまたHPを荒し
また御手洗さんが応戦する。

事件の前はそんな状態だったようだ。

 
殺意を抱いた加害女児は殺害道具としてカッターを用意し
給食準備中という、職員の目が行き届かない時間帯を選び、学習室に呼び出し、殺害。
学習室は教室から離れており
犯行時はカーテンをしめていたという計画性だ。

加害女児は犯行をその場で認めた。

 
大きな事件だったから
今から18年前でも
覚えている人は多いだろう。

 
 
私の小学生時代が
この事件背景に似ていた理由はこちらだ。

①私が生まれも育ちも同じ場所で、住んでいる場所が田舎であること。

 
②そこにAちゃんという子が小学生四年生の時に引っ越してきて、仲良くなったこと。
ただし、Aちゃんは社交的で、仲が良い子は他にもいたこと。

 
③佐世保の小学校と同じく、全学年が一クラスしかなく、基本的には六年間同じ顔ぶれなこと。
そのため、レッテルを貼られたり、人間関係に亀裂が入ると、やり直しが難しいこと。

 
④クラスメートは半分以上がバスケ部に所属しており、バスケ部に入っていない人は疎外感を感じやすいこと。
私はバスケ部に途中で入部したが、退部している。Aちゃんはずっと入っていた。担任はバスケ部顧問であり、立場が弱かった。

 
⑤交換日記をしていた。
私が小学生の頃はまだネットが今ほど普及しておらず、パソコンは二人とも持っていなかった。

 
⑥漫画や小説が好きで、話すより書く方が得意だったこと。

 
⑦姉がいること。

 
私は加害女児とこのような類似点があったし
同級生Aちゃんと御手洗さんはこのような共通点があった。

 
私も最初はAちゃんと仲がよかったが
やがて見下されていることやハッキリとした物言いが嫌になり
大学生の頃に私から絶縁した。
私が初めて絶縁した友達だった。

 
だけど
絶縁する前も絶縁してからも
私はAちゃんの夢をよく見た。

 
Aちゃんが夢に出てくる時はいつも
私は叫んだり、泣きながら本音をぶつけたり
物を投げたり、危害を加えたり
何度も殺した。

 
小学生の頃は仲が良くても進学し
他の人と出会い
他の人と仲良くなり
新しい環境になることで
私はAちゃんとの関係性や思いが変わっていったのだ。

 
本書に書いてあるように
教員にアンケートをとると、「うちのクラスでも起こりうる。」と答えた方がたくさんいた。

 
小さい学校ならではの
小学生女子同士のこんな人間関係は
きっと珍しくないだろう。

 
だからこそ私は
この事件が気になった。
自分を重ねたのだ。

 
本書を書いたのは被害女児の御手洗さんの父親…
の部下にあたる方だ。
父親は新聞社で働いていた。

 
御手洗さん家族は新聞社がある建物の三階で暮らしていた。

 
著者である川名さんは独り暮らしで
よく御手洗さんちで夕飯をよばれていたし
被害女児である御手洗さんは
新聞社にもよく顔を出していたそうだ。

 
本書は川名さんからの目線で
事件はどんな風だっだか
御手洗さんやご家族がどんな風に過ごしていたかが描かれている。

 
また、新聞記者としてやらなければいけないことや一個人としてやりたくないこと…葛藤……が描かれていた。

 
それは新聞やテレビで知っていることもあれば
知らないこともあった。

 
父親である御手洗さんが息絶えた娘を抱きしめられなくて後悔している部分や
父親の手記
遺骨のシーンでは涙が止まらなかった。

 
本書は読みやすく
次のページをめくる手が止まらなかった。

 
私は一昨日夜から読み出したが
続きが気になり
昨日一気に読んでしまった。

 
後半では
被害者家族(父、兄)目線と加害者家族(父)目線でも描かれており
読んでいて切ない。

 
加害女児は事件後
我が県の児童自立支援施設にいたようだ。
アスペとの見方もあるが
それが殺害衝動につながったかは断言できない。

今は29歳。

どこに住んでおり
何を想っているのだろうか。

 
当時の担任の先生は殺害現場を見て
精神状態が悪くなり、入院したそうだ。

 
私の知っている福祉施設でも
血まみれの利用者を見てショックを受けて
それから出勤できない職員がいると聞いた。

 
担任の先生はその後どうなったのかも
私は秘かに気になった。

 
 
タイトルに込められた思いを知った時
なんとも言えない気持ちになった。

奪われた命は決して戻らない。

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