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元保護者と元利用者との再会

前の職場に勝ち気で美人な保護者がいた。
私の担当利用者の親だった。

 
立場が上だろうとなんだろうと
納得がいかない時はズバズバ意見を言ってきた。

 
隙を見せられない相手だと周りから警戒されていたが
私はその保護者が好きだった。信念があったから。

 
私が頑張れば、その分評価してくれた方でもある。
いいところも悪いところもよく見ている人だった。
私を信頼し、頼ってくれた人だった。
人情家でもあり、私をよく心配もしてくれた。
力にもなってくれた。

 
私が理不尽な人事異動で退職する時、泣いて悔しがり
「これで終わりなんて思わない。だからさよならは言わない。」と言い放った。

 
退職してから数ヶ月後
私がいなくなってから施設内部で色々あると動揺しながら電話をかけてきてくれたが
退職した元責任者の私にもはや力はなく
話を聞いても何もできなかった。

その保護者とは三年前のその電話を最後に話すことも会うこともなかった。

 
 
ある休日。
その日はあるイベントがやっていた。

 
そのイベントは元職場近くで私は出店してそこで誰かに再会したかったが
あえなく抽選にもれ
今の職場の出店はできなかった。

 
朝から晴れで、グループラインにリーダーからLINEが入る。

 
リーダーは今日利用者や他の同僚と別イベントに出店していた。
初出店の場所だ。

売れるといいなぁと思う。
今日の利用者の様子が写真で送られてきて微笑ましく思う。

 
その日は埼玉に行く予定だったが
埼玉に行く前にその、元職場近くのイベントに行き、様子を写真に撮ろうと思った。

 
おそらく集客は今日出店しているイベントより抽選に外れたイベントの方が上だから。
場合によっては来年また抽選に申し込む。

 
そのイベントは駐車場が満車で混んでいた。
駐車場探しにバタつきながらもなんとか会場に着いた。長蛇の列だ。人だ。

たくさんの人、人、人。

 
それなのに一人も、元職場の人は一人もいやしなかった。
私は何回も見て歩いた。

 
いるはずだ、一人くらいは。
毎年誰かしら行っているじゃないか、と。

でもいなかった。

 
暑いし、熱中症が気になるし
埼玉に行くしで
もう現地を出発しようと思い
会場を後にした、まさにその時だ。

 
道路の向かい側にいる人が元担当利用者に似ていた。
その隣にいたのは元保護者に似ていた。

もう一度目を凝らして見る。

 
向こうも見てくる。
目を見開く。やはり、やはりそうだ。似ているのではなく…

「ともかさん!」

元保護者と元利用者は私の元へ駆け寄った。
まさに三年ぶりの再会だった。

 
「元気ですか?」

お互いにキャッキャし合う。
髪型は変わったが、変わらない笑顔だ。

 
「私を覚えてる?」

元利用者に尋ねる。

 
「ともかさん。」

即答だった。

 
私は嬉しくて嬉しくて笑みが止まらない。
お互いに近況を話す。

 
「ともかさんは、今幸せなんですか?」

保護者の問いに私は首を傾げておどけた。
まだ即答はできなかった。
前の職場を思い出にできたわけではなかった。

 
「今、あの事業部はどうなっていますか?」

逆に私も尋ねた。
今度は元保護者が首をすくめた。

 
お互いに、なんとかやってはいるが、といったところか。

 
「真咲さんがいなくなってから私も娘も不安定な時期があって」

「今も職員の在り方に疑問は持つけどまぁ、やるしかないからね。」

「それよりともかさんが、元気そうでよかった。」

私も同じ気持ちだ。
元保護者と元利用者が元気そうでよかった。

 
「会えてよかったわ。お互いに頑張りましょうね。」

元保護者はそう言って去っていった。

 
「またね。」

私は元利用者とハイタッチをして別れた。

 
別れてから
一人になってから
私は泣いた。

 
もう私は戻りたいとは言えないし
元保護者ももう戻ってきてほしいとは言わなかった。

お互いにそれは無理だと分かっていたから。

 
あの頃担当としてあんなに近くにいたのに
もう私は元気でいて
こうしてたまに会ったら話すくらいしかできなくなった。
それが精一杯になった。

 
退職を決めたのは私だけど
もしも私に力があればと何度思ったか分からない。

もしも私に力があれば
まだあそこにいられたのに。

 
泣く私の元へ
リーダーから相変わらずLINEが届く。

販売を頑張る利用者の写真が微笑ましくて
フッと笑ってしまう。

笑えるくらいには私は元気だ。

 
今と昔が交差する。
あの頃と今。
退職と転職。

今。今。

 
もう少し時間が経てば
今よりもっと割り切れるだろうか。

美しい思い出になるだろうか。

 
退職を心から悔いがないと
いつか言い切れるだろうか。

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