傾聴は全然聴くだけではないよ。という話②

実現傾向

生きとし生けるものは、本来の自己になっていこうとする

カール・ロジャーズ

こんな言葉を残したロジャーズが現代のコーチングカウンセリングの原型となる考え方、やり方を作りました。


カール・ロジャーズは、自身のカウンセリングの行き詰まりの中で洞察を得ました

「もしかして、クライアントは、今の自分に何が必要なのか、本当はわかっているのではないか!!」

ここからクライアント中心療法と呼ばれるものが生まれたのです。

それまでのカウンセリングは、相手を患者とみなしていました。患者の話を聞いて、セラピストが見立てをする。そしてそれに基づいて指示をしていくというようなものでした。

それでうまくいかなかったロジャーズは、

そんなことをしなくても、クライアントは自分に何が必要なのか潜在的に知っている。だからクライアントの話を丁寧に聴いていけば、そこに辿り着けるし、そうなればクライアントは自分で変わっていける。

そういうことに気がついたわけです

これはすごいことです。ちなみにクライアント(依頼者)という言葉を使い始めたのもロジャーズです。

相手は治療を必要としている患者ではない。自分の人生を生きるための手助けをもとめてきている依頼者なのだ。

そう思ったロジャーズは、相手のことをクライアントと呼び始めたのです。

そして、クライアントは今の自分に何が必要かわかっているということの奥にあるのが、冒頭の

生きとし生けるものは、本来の自己になっていこうとする

なのです。ジャガイモがジャガイモになるように、犬が犬になるように、人間は人間になるのです。それも画一的な人間ではなく、それぞれ持って生まれたものを生かす形で、本来の自己になっていくのです。そして、そのために何が必要か自分で分かっている

これを実現傾向といいます。

そもそも人間は本来の自己になっていく傾向がある

このことを

私たちには実現傾向がある、というわけです

実現傾向を阻むもの

人間は基本的には、本来の自分へと向かって進んでいく傾向がある。

でも、そうなっていない人たちの方が多いように見える。それはどうしてでしょうか。

条件付き関心

条件付き関心がそれに関連しているというのがロジャーズの説です

子どもにとって重要な他者がいます。その筆頭は親ですね。親は良かれと思って子どもに、様々なことを伝えます。でもそのメッセージは、基本的に親の価値観に基づいているわけです。

だから子どもにとっては、条件付きの関わりに思えるわけです。

「勉強頑張ってえらいね」は

・勉強頑張る子は偉い、関心を向けてもらえる、居場所がある
・勉強頑張らないと、関心向けてもらえない、居場所がない

ということになってしまうのです。

でも子供にとって親の意向に応えることは大切です。

だから、自分がやりたいからどうか、楽しいかどうかとは別に、親の価値観に応えようとしてしまうし、できない場合は自暴自棄になったりしかねないのです。

こうなると、本来の自己に向かって進んでいく力は使いづらくなります。

本来の自分とは関係ない、親の価値観に基づく未来に向かって生きていくことが求められるからです。

そして、この路線でうまく頑張れても幸せになれるかどうかはわかりません。

自分が本来したかったことを無視して、周りに推奨される生き方をしていると辛くなる。

でも、もうその時には、自分が何を求めていたのか思い出すのも難しくなっている

自分の本当の気持ちなど感じないように生きてきたので、感情も感じられにくくなっている

とかになってしまいかねないのです。そうなるとますます実現傾向からは遠ざかります。

簡単な処方箋

だから、簡単な処方箋は無条件の肯定的関心を向けてもらうことなのです。

何をしてようとしていなかろうと
何を言っていようといなかろうと

無条件に、肯定的な視線を向けてもらえる。

そう言った環境に置かれることで、人間は安心して、自分の気持ちに意識を向けたり、そこで気づいたことを口にしたり、行動したりすることができるのです。

心理的安全性というのはこれのことですね。

だから別にコーチングカウンセリングを受けなくてもいいのです。

無条件の肯定的な関心をいつでも向けてくれる人と一緒にいたら、人は自然と変わっていくのです!!

本当にそれだけでいいのか?

人が変化していくための条件とは何か?

それを探求したロジャーズの結論が『治療的人格変化の必要十分条件』(1957)です。これは現在でも流派を超えて支持されている考え方です。


必要十分条件

二人の人がいる。一人はクライアント、もう一人をセラピストと呼ぼう。

①二人は物理的に同じ場にいるだけでなく、心理的にも接触している状態だ。

②クライアントは不一致の状態(自分の心が求めていることに気づいていない)で傷つきやすい。

③この二人でいるとき、セラピストは一致している(自分の心が求めること理解している、自分の心とともに生きている)

④セラピストはクライアントに対して、無条件の肯定的な関心をもっている

⑤セラピストは、クライアントの内側にある世界を、共感的に(相手の立場から、相手と同じように)理解し、そのことを相手に伝えようとしている

⑥クライアントには、セラピストの無条件の肯定的関心(受容)と、共感的に理解しようという姿勢が伝わっている

わかりやすいように、若干補足しながら書いてみました。無条件の肯定的関心は④に出てきましたね

そして、この6つの条件の中から、セラピスト(コーチ、カウンセラー)が意識的に取り組むべき3つを

中核3条件として抽出し、このような態度で関わることが大切である。という教えになって、現在まで伝わっているのです。

中核3条件はどうして効果するのか

本当に中核3条件を満たした関わりをすることで相手は変化するのでしょうか。

こう考えてみてください。

あなたが、迷っていて、自分を信じられなくなっているのを想像してみてください。

あなたの前に、コーチがやってきます

コーチは「迷っているんですね。自分が信じられなくなっているんですね」と言って、穏やかにあなたと一緒にいます。あなたを評価判断することは全くなく、あなたを変えようとすることもありません。それはあなたがことあとどんなことを言っても、言わなくても何も変わりません(無条件の肯定的関心)

そしてコーチはあなたの話を聞きながら「こういう理解でいいかな?」「あなたが言っている◯◯についてもう少しおしえてくれますか」などと、あなたが言いたかったことが明確になるように、丁寧に関わり続けてくれます。あなたが「そうか、自分の内側ではこんなことが起こっていたんだ」「自分は本当は◯◯したかったんだ/したくなかったんだ」などと気づくまでそれが続きます(共感的理解)

そして、それをしてくれているコーチは、自分らしく、自分の気持ちに正直に、自然体でリラックスして幸せそうに生きています。そして嘘なく、率直にあなたに関わっているのがわかります(一致)

どうでしょうか?
こんな人があなたのそばにいてくれたら、自然と自分の気持ちに気づいていくし、その気持ちに従って生きていくことを望むようになるのではないでしょうか?

奇妙なパラドックスだが、ありのままの自分を受け入れると人は変わることができるのです

カール・ロジャーズ

コーチがありのままの自分を受け入れて、理解しようとしてくれたらから、私もありのままの自分を受け入れて理解することができた。そのことで自分が本当に望んでいることがわかり、それに従って生きることが出来るとわかった。だから、自然と変化していく

こういうことなのです。

本当の自分を生きるには体験に開かれることが必要

カール・ロジャーズ

体験に開かれる。。。。自分の内側の世界(無意識)に向き合い、その世界を十分に体験すること。自分の外側の世界にも向き合い、その世界をありのまま体験してみること。その先に本当の自分を生きる人生があるというのです。

ここから傾聴が生まれた

この中核3条件に基づく技法が傾聴なのです。だから傾聴のスキルも大切ですが、そもそもの態度を自らのものにしたいのです。

・一致 コーチが自分らしく、今ここにいること
・無条件の肯定的関心 いつでも条件なしで肯定的に関わること
・共感的理解 わかった気にならず、正確な理解を言語化しようとすること

これが自分の基本的態度となるように、自分のコミュニケーションを顧みて、工夫を続けるのです

その上で、

傾聴の態度とスキル

その上で、上図に書かれているような関わりをしたいわけです。※『傾聴は全然聴くだけではないよ。という話①』では、下5つのスキルについて実例とともに解説しています

それ以外は簡単ですね。相手のムードやスピードに合わせるのは、相手が話しやすくなるためです。
相槌などのリアクションは、相手に対して肯定的に聴いている表れです。相手にあなたの肯定感が伝わるようにリアクションしてください!

正確な共感(共感的理解)のためには、わかったつもり、わかったふりが大敵です。わかっていないことに気づいて、確認しましょう。わかったふりせず、わからない顔をしてもいいのです。よい関係でいれば相手は説明してくれます

そして下の5つのスキルも共感的理解のためのスキルですね。

スキルをスキルとしてだけ使うとかえって逆効果です。

ずけずけ質問したり、一方的な解釈を投げかけるだけの人になってしまいかねないからです。どんなあり方のコーチカウンセラーが、このスキルを使うから効果的なのか?ということを考えていてもらいたいのです。

それが中核3条件なのだと思います。

人生を通じてプロセスをすすめる

傾聴というのは、人生で一度してもらえば良いものではありません。

傾聴をしてもらうことを通じて、だんだんと自分でも自分の心の声を聴きながら生きることができるようになることが大切なのです。

人間は成長します。周囲の環境も変化します。だからその時々に、私たちの心身は、次のメッセージを発してくるのです。

その都度、そのメッセージに開かれていること。それと一致して生きること。そうすることで、私たちはまた成長をつづけ、そうして本来の自己へと近づいていくのです。これは終わりのない旅なのです。

終わりなき自己発見と成長の旅が人生なのです。それを支えてくれるのが、傾聴の態度とスキルなのです。

そして、この傾聴を進化させた技法としてフォーカシングというものが生まれたのです。フォーカシングについてはこの記事をどうぞ↓

終わり

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