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読書感想文10『成功する人は偶然を味方にする』

久しぶりに読書感想文を書く。

今回は、ロバート H. フランク著『成功する人は偶然を味方にする:運の成功の経済学』。

成功する人は偶然を味方にする: 運と成功の経済学
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著者のフランク先生はコーネル大学で教鞭を取るバリバリの経済学者だ。教科書も書いていて、名前は知ってる。

この本は、著作のタイトルが内容を十全に反映していない気がする。和訳タイトルは特に。もちろんタイトル通りに成功と運の関係について述べているけれども、原著版のサブタイトルは “Good Fortune and the Myth of Meritocracy” となっていて、日本語に訳すなら「幸運と能力主義の神話」となる。

この本は、かなりの部分でこの能力主義について触れていて、能力主義のかなり本質的な問題点を指摘するとともに、その点を踏まえた上でより良い社会を作るための課税方法の目直しの提案まで行っている。

「成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学」というタイトルだけ見ると、成功する人の秘訣として運が大事だよ!という内容を想像してしまう人が多そうだが、実際はそういう本ではない。

主張の骨子はこうだ。大きな成功を収める人には共通する特徴がある。それは、成功の要因は自分の才能と努力であると考え、「運」の要素を軽視するということである。なぜなら、運は自分でコントロールすることはできないものであり、自分の能力の範囲外のものだからだ。あくまでも成功は自分の能力によるものであって、運などではないというわけである。

しかし、と著者は言う。生まれた国や住んでいる環境、人間関係、自分を見出してくれる人に出会えるかどうか、などはそもそも運だし、最近の研究では努力することができる遺伝子なんかも発見されており、能力の一部と思われているものだって運の影響を多く受けている。したがって、成功が自分の能力のみによるものとはとても言えない。

しかも、競争が厳しくなればなるほど、競争に勝てるかどうかということにおいて運の要素は実は強くなる。なぜなら、トップの争いでは能力差など実はほとんどないからだ。みな才能に溢れ、みな精一杯努力している。最終的に勝てるかどうかは運によって決まってしまう。2位以下だって素晴らしい能力の持ち主なのに、それでも勝者が全てを手に入れるような市場環境では1位以外にはスポットライトは当たらない。だからこそ、運の要素を認めようというわけだ。

内容的には、マイケル・サンデル先生の『実力も運のうち』と通ずるものがある。

実力も運のうち 能力主義は正義か? (ハヤカワ文庫NF)

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ただ、この本はこうした指摘をした上で、最終的に課税制度の提案に向かう。急にいきなりなんで税金の話?と思ってしまうが、著者の主張は一貫している。

運が重要な要素だとするなら、成功者の恩恵に浴すことができた社会が維持されることに責任を持つべきだし、社会インフラを整えるための支出に応分の負担をするべきだ。つまり、税金をもっと納めるべきなのである。なぜなら、自分以外のあらゆる人にも幸運に浴する権利があるからである。アメリカ(著者はアメリカ社会を想定している)という国に生まれただけでも運がいいし、努力したい分だけ努力できる環境で育つことができたことも運がいい。才能を伸ばす機会に恵まれたことも運がいいし、成功できる分野に導かれた出合いに恵まれたことも運がいい。だから、税制の改革が必要だ、という話になる。

この改革に必要な税制とは、「累進消費税」である。所得税とは違い、消費した額に累進的に税を課す。富裕層の方が当然消費額が大きいため、納める税金も大きくなり、これまでよりも公共投資の財源確保に資するというわけだ。

また、消費に税をかければ、不要な消費への抑制にもつながるので、単なるシンボル的な消費や浪費などが減って効率的な経済になるのではないかという話に向かっていく。

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