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銭湯の思い出

俺が小学生の頃住んでいた町は大きな繊維工場がありそ、そこの従業員向けにたくさんの店がずらっと並ぶ商店街だった。その工場から映画館まで色んな店があり、行き来するお姉さんたちによく寮に拉致された。
俺たちの親も大抵その工場で働いていた。そこは福利厚生もしっかりしていて、年端もいかない集団就職のお姉さんたちに、勉強を教えたり社会常識を教えたりしていた。盆踊り大会や映画大会もあり、よく遊びに行った。大きな浴場もあり、工場で働いている親たちもその風呂を利用できるので、家族でよく入りに行ったが、あまり記憶に残っていない。工場にでかい風呂があるので、俺たちの住む町の住宅は大抵風呂がなかった。

風呂屋も東京湯と栄湯というのがあり、町を2分してみんな利用していた。俺たちはエリア的に東京湯に行くことになる。
毎日学校帰りに公園で日が暮れるまで遊んで、そのまま東京湯へ。母ちゃんがお金を持って迎えに来るまで帰れないので東京湯でも散々遊んだ。遊びやすくするために水で湯温を下げたり、浴槽に潜ったりして知らないおっさんにしょっちゅう怒られた。
日曜とかは家から父ちゃんと東京湯へ行くことになる。帰りに必ず「とんちゃん」と書いた看板のホルモン屋へ寄って酒を飲むのを見ていた。その店は汚くてイスに座ったり壁に触ったりすると油でベチャベチャしていて、風呂に入った意味がなくなった。

東京湯のマーちゃん

東京湯はひとつ年上のマーちゃんの家で、良く一緒に風呂に入った。ある日、マーちゃんに「こんなでっかい風呂ってどうやって沸かすの」って聞いた。「今度見せてやる」と言って別の日に風呂を沸かす窯を見せてもらった。その時そこから男湯と女湯が見れる小窓があるのに気付いた。「マーちゃん、ここから女湯見えるんか?」「おー、見れるゾ。6年生になったら見せてやる」6年生がとても待ち遠しかったが、6年生になった頃にはすっかり忘れていた。

写真はイメージです

銭湯の方が友達が集まるので、次第に東京湯へばかり行くようになった。当然金がかかるが親は何も言わなかった。
風呂屋では俺たちがよくいじめていた同級生のアイツもやってくる。アイツが来るとみんなでからかう。冷水をかけたりした。でもアイツはへらへらと笑っているだけだった。つまらないので徐々にいじめなくなった。

東京湯が休みの日は

少し遠くの栄湯へ行くことになる。家からは倍も時間がかかるが、オヤジは毎日風呂に入るのが男だと言って連れて行かれた。栄湯は俺の同級生の女の子の家だったから、できるだけ行かないようにしていた。チンチンが見られたくなかったのだ。行く度に「アイツ番台に座ってねーかな」と怯えていた。
ついにある日アイツが番台に座ってた。「なんでオメーが座ってるんじゃ」と言ったら「あんたの裸なんか見んわのー」と言われた。それでも反対向いてパンツを脱いだ。出るときには忘れてチンチン放り出したままだったが・・・。

栄湯のアウェー感が・・・

東京湯と栄湯は何から何まで違う。お湯を出そうとすると水がでたりといろいろ逆なのだ。イスの高さも違っていてなんか体が洗いにくいし、桶もサイズや重さが違うのでうまく湯が汲めない。あまり行きたくなかった。
それに次の日にアイツが「昨日あの子風呂入りに来た」とか言われたらと思うと、なんか眠れなかった。

東京湯が火事に・・・

まだ低学年(だったと思う)の頃、母ちゃんと女湯に入ったことがある。別に恥ずかしくなかったし、女体に興味もなかった。でも父ちゃんと入る方がいろいろ教えてくれて楽しかった。母ちゃんはさっさと俺の体を洗い、「母ちゃんが体洗うまでお湯に浸かってなさい」と言ったので汗だくになりながら我慢していた。ふと風呂場の天井近くを見ると排煙用の窓ガラスが赤く揺れている。
「母ちゃん、あれ何?」と聞いたら母ちゃんは「あら、火事や」と言った次の瞬間ガラスが割れて火が降ってきた。風呂場は大騒ぎになり、女の人たちが逃げ出した。「母ちゃん逃げよう」と言ったら「あと50お湯に浸かったら逃げてもいい」
なんと恐ろしい親じゃ。必死で早口で50数えて素っ裸で外に出た。どうもみんな向かいの家に緊急避難したようだ。中に入ると素っ裸のねーちゃんやらおばはんがうじゃうじゃいて、オッサンたちは嬉しそうにしていた。消防車が来て必死で消火したが、結局全焼してしまった。火事の理由は未だに知らない。

画像はイメージです

家の風呂に入るということ

同級生の中には金持ちの子もいて、当然当時としては珍しいシャワー付きの風呂があった。羨ましかった。何で俺の家は貧乏なんじゃと思った。家の風呂に入ってみてー。ずっとそう思っていら、中2の時に家を建て替えることになった。当然風呂がある。嬉しかった。すごく嬉しかった。

家の風呂を使うようになってから、一人でのんびり入れはするが何か物足りない。話し相手や遊び相手がいないのだ。
「つまらん・・・」ただそう思った。銭湯に行きたかった。でもその頃になると友達の家も次々と新しくなり、みんな家の風呂に入るようになっていた。

楽しかった銭湯の時代はこうして消えていった。


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