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ある日、山の中。熊さんに…

出会った〜♪



なんて愉快な歌の様にはいかないのが現実…
というお話し。




あれは小学校4年生くらいだったか。
山形の田舎に生まれた俺は日常的に遊んでいたフィールドが山、川、海だった。
生まれ育った家の周りは山に囲まれた最上川の中流域地点。
とは言え、観光地だったので両隣りは旅館とホテル。
ちょっと歩けばドライブインが2箇所。
舟下りで有名な戸沢村という場所で行楽シーズンは人で賑わっていた。
国道沿いというのもあり常に車が行き来してるし家の裏には最上川と白糸の滝という日本の滝百選にも入ってるような大規模な滝も絶えず流れてる。
おまけに国道の横には陸羽西線という路線もあり田舎の山奥とはいえ賑やかな…いや、騒がしい環境だった。

学校帰りは大体、山に冒険に行ったり川で釣りをしたり。
同級生がスーファミで遊んでる中俺は自然の中で伸び伸びと遊んでいた。
"スーファミは他人の家でやるもん"
母親の教えはこうだった。

外で元気に遊べという風にも捉えられるけど経済的な理由ってのが1番大きかったと思う。
おかげでサバイバル能力高めで視力も今だに2.0だ。



まぁそんな環境で育ったので「山」というのが身近にあった。
俺が住んでる部落(昔はそう区別してた)には俺と弟を含め8人の子供が居た。
その中でもよく遊んでた歳上の兄弟2人と1個上のヒョロい奴、1個下の小太りの奴と5人でいつものように山に冒険に行こうと準備をしていた。
いつも遊んでた山とは別のちょっと離れたスキー場に行こうって話しになって春先ってのもあり一応熊さんには気をつけよう!と熊さん対策の鈴、爆竹、サバイバルナイフ、ナタなどの装備を揃えた。
その辺は山育ちのガキ共だったので知識としてみんな持ち合わせていた。
勿論、小学生のガキがサバイバルナイフとナタで熊さんに対抗出来る訳はないけどそこは子供の考え。

ナップザックに軽い食料と装備品、マウンテンバイクに跨り意気揚々と山へ向かった。
何故そんな装備を揃えるのかと言うとそれも含めて冒険してる気分になれるからだった。
スキー場の入口には駅があった。
冬場は電車で直接スキー場に行けるという便利さも売りにスキーブームの頃はかなりの人が押し寄せる場所だった。
勿論この時はオフシーズン、人っ子一人居ない。
草や木が生えまくって冬場とは全く別の景色。
階段を登って線路上の高架を渡るとスキー場の入口。
雑談しながらマウンテンバイクを押し山を登り始めた。
10分程登るとゲレンデが見えて来た。

おぉ〜冬と景色違う!

ロッジ行ってみようぜ!


誰かがそんな事を言ったのをきっかけにちょっと小走りに誰もいないロッジに向かった。
勿論鍵も掛かってるし中を覗いてもテーブルの上に椅子が置かれた状態。
まぁ当たり前の光景だけど普段営業中の時しか知らないから全てが新鮮に見えた。
たまに人が入って管理してるのかロッジの周りは草が刈ってあって謎の重機や資材も置いてあった。

ゲレンデは草ボーボーで子供の身長を余裕で超える高さにまで成長していた。
ここまで登って来るのに大分体力も消耗してたし先が見えない(物理的に)恐怖もあり俺はもうそろそろ帰りたかったが歳上兄弟の弟の方がもうちょい上登ろうと言ってゲレンデを渋々登り始めた。
草を掻き分けながら進んで行くと微かに何かのエンジン音?が聴こえて来た。


なんかバイクの音しね?


草刈機じゃね?


そんな会話をしながら登り続けた。
音がだんだん近くなってくる。てか音が近付いて来てる。
よくよく考えたらこんな山奥でバイクの音は考えにくい…
草刈機にしちゃ音が低い…

若干不安を覚え装備品の中の爆竹に火を付けた。
山に響き渡る爆発音。
火薬の匂いと白い煙が静かに風に流されてゆく…
一瞬無音になった感覚がした。
耳を澄ましてみる…
するとまた低いエンジン音が今度はより近くで鳴ってる。


え?マジ何の音?



音の正体、想像がだんだんみんな一致していく。
バイクじゃない。草刈機じゃない。人じゃない。
その時だった…





薮の隙間に黒い影が動いたのが見えた。
距離的に10メートル無いくらい。
音の正体が確信に変わった。




熊だ!!!





その瞬間全員がマウンテンバイクに跨り全力疾走で砂利道の山を下った。
実はその当時砂利道をチャリで下るのにまだ恐怖心がありビビりながら乗ってたんだけどその瞬間は全てが吹っ飛んで考えられないくらいのスピードで下っていた。
人間、恐怖心を克服するには更なる恐怖を味わえばいいんだとその時学んだ(笑)



何かのエンジン音だと思ってたのは熊の唸り声でこちらを威嚇してたんだと後から気付いてゾッとした。
よく動いちゃイケナイとか、ゆっくり後退りするとか言うけど…
熊さんに出会ったらスタコラサッサと逃げるしかない(チャリなら)という現実。


そんなサバイバルライフが日常だった小学生時代のお話し…

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