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指示の原因は勝利至上主義や縦社会か?

■はじめに


今回の日大アメフト部の元監督についてです。前のエントリでは、「リーダーであるという可能性に言及しましたが、実際にこの可能性は高いのではないかと思っています。そうであれ、元監督や日大アメフト部に対する今回の批判の多くは的外れになる可能性もでてきますので、このことについて、もう少し考えてみます。

今回の結論は、プレー自体は問題だし、元監督やコーチの伝え方自体に問題があると思いますが、「勝利至上主義」や「縦社会」といったことを批判しているのは的はずれだという可能性が高い、ということです。なお、このことは、あくまで一連のプレーにつながる指示や態度についてであって、「日大アメフト部は縦社会ではない」など部活全体についての言明ではありません。

なお、見出し画像はpngtreeの画像です。

■勝利至上主義?縦社会?


今回の騒動で、日大や元監督やコーチの対応に批判が集っています。その多くは「歪んだ勝利至上主義」や「上の命令には逆らえない縦社会」という立場のようです。

まず、前者の「勝利主義」について見ていきましょう。今回の(暗黙の)指示が勝利主義から来ているとしたら、以下のような疑問点がでてきます。
・定期戦であり、大きな大会の決勝戦等と比較して「絶対に勝ちたい」という試合なのか?
・勝利至上主義であれば、多くの選手に指示し、指示を確実に実行させることが自然では?
・反則プレーの後、退場になる可能性を考えると、日本代表に選出されるような選手ではなく、補欠のような選手にやらせたほうがいいのでは?

一般に部活などの集団が縦社会であることは(残念ながら)普通のことですが、今回の指示に限っていえば、「潰してこい」でよかったはずで、事前にスタメンをはずしたり、代表自体を強要したりといったある種の「準備」は不要ではないでしょうか?もちろん、このような事前の準備があったため、当該選手はある種のプレッシャーを感じており、「やらなきゃ」と追いつめられたと思うのですが、上意下達の縦社会であれば、もともとこういうプレッシャーはあるはずで、前準備をしてプレッシャーを与える必要はないように思います。

これらのことをあわせて考えると、「当該選手に対し、かなり準備をして、勝敗は度外視してもよい試合で潰してこいとの指示を出した」と言えます。

■リーダーシップは相手のメンタルを変えること


「メンタルを変えろ!」と口頭で指示しても、簡単に変わるわけではありません。元監督はそのことを感覚的には知っているんだろうと思います。そのため、上述したような事前の準備を与え、しかも、実戦の場で体験をさせることで、当該選手のメンタルを変えようとしたんだろうと推測されます。

実際、前回も引用した以下の記事から、元監督の発言を抜きだしてみると、

「僕、相当プレッシャー掛けてるから」
「やっぱ、今の子、待ちの姿勢になっちゃう。だから、それをどっかで変えてやんないと。練習でも試合でもミスをするなとは言わないですよ。ミスしちゃダメよ、反則しちゃダメよと言うのは簡単なんですよ。(中略)内田がやれって言ったって(記事に書いても)、ホントにいいですよ、全然」
「あのぐらいラフプレーにならない」と答えた上で、「宮川はよくやったと思いますよ」

とあり、当該選手のメンタルを変えようとしていたことが見えます。

つまり、元監督は「当該選手がメンタルを変えた後の状態」がビジョンとして見えていて、そうなったら(元々日本代表に選ばれるくらいなのに)もっと凄い選手になる、と思っていたのではないでしょうか。前回のエントリで書いたように、リーダーシップとは自分のイメージを相手のシステム1まで届けることで、その意味で、元監督はそうしていた可能性が高いと思います。

当該選手はすでに立派であり、そんなイメージの押しつけは余計なことだと思う人も多いかもしれませんが、基本的にリーダーシップは、このような押しつけがましい面があると思っています。例えば、面白い映画を見たので見てもらいたい、感動する音楽を聞いたので聞いてもらいたいというのと同じです。

■では、何が問題だったのか?


元監督とコーチが一緒に記者会見をしていましたが、コーチには時折苦しそうな表情が見られた一方、元監督はまったく自分が悪いと思っていない様子でした。まさにこの点が、より多くの批判を招いている原因だと思うのですが、上述したことが正しければ、悪いことをしたとはまったく思っていないのではないでしょうか。

今回の問題は、ただでさえ見えにくいビジョンやイメージを、コーチを経由して伝えたことではないかと思います。また、「アメフト」というものに対するイメージが関係者でかなり異なっていたのではないかと推測します。当該選手の記者会見から、彼はしっかりした真面目な青年であるとの印象を受けましたが、そこから推測すると彼の「アメフト」はクリーンなイメージなのでしょう。一方で、元監督は「これくらいのプレーはあたりまえ」と思っているふしがあり、このあたりの齟齬もイメージを伝える際に邪魔をしたのではないかと思います。

たまたま見たある情報番組では、一連の騒動とあわせて、過去の感動的なスポーツマンシップの場面、例えば、柔道の山下選手の右足を対戦相手が攻撃しなかったとか、陸上競技で転倒した二人が互いに支えあいながらールした、とかが流れていました。しかし、もし、上で書いた指摘が正しければ、このような映像はまったくナンセンスですし、多くの批判は的外れではないかと思います。つまり、上の指摘が正しければ、これらの批判は今回の問題の本質的な解決には役に立ちません。

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