「ベッキーと未知との対話」を観て人間偏差値が上がった話

フジテレビ系「ベッキーと未知との対話」というドキュメンタリー番組が2019年3月8日の深い時間に放送された。

現代は多様な背景や価値観を持った人々が交じり合うダイバーシティ社会。この番組は。同じ屋根の下で初めて顔を合わせた、全く立場の異なる6名が1泊2日で、1枚の巨大な絵を完成させるまでを追った75分間の記録です。

当番組の出演者は、

大学生で演劇を主宰する視覚障害者の関場理生さん、

大学で手話講師を務める聴覚障害者であり同性愛者のかえでさん、

車椅子ジャーナリストとしてマイノリティの取材を続ける徳永啓太さん、

3年前に歯肉がんを患った80歳の原田さん。

アメリカで生まれ、現在は日本の大学で英語を教えているディラノさんと

そしてご存知、ベッキー。

それぞれの立場を慮り(おもんぱかり)ながら少しずつ心の距離を縮める6人。2日目にはお互いに手を取り合いながら、6人7脚で皆が満足する作品を完成させることが出来ました。

私はこの番組を見て、ベッキーが持つ「相手と向き合う正しい姿勢」と「行動した後に起こり得る変化を想像する力」が、企画の成功へと導いたのではと思いました。そしてこの2つの要素は、今後のダイバーシティ社会をストレス無く推し進める上でとても重要な要素であると感じました。

1.相手と向き合う正しい姿勢

それは、番組冒頭の出演者同士の自己紹介から機能していました。

ベッキーは他の5名をテーブルに集めて、ベッキーを中心に各出演者へ質問をします。その際、その人の特色や個性の出るフレーズが出てきたら、「そうなんだ!」と強調するのです。この何気ない行動は、まるで一人ひとりにスポットライトを当てる照明さんの役割に感じました。スポットライトを当てられた当事者の周りの人はその人が「何者であるか」を頭の中でイメージさせやすくするのです。

何者であるかが具体化することで、周りの人の言動は積極的になります。
初対面の人でも、「出身はどちらですか?」と聞き地元が一緒!というキーフレーズが出るだけで、心の距離が一気に近づき積極的なコミュニケーションを取り始める。これと同じです。

自己紹介が終わり、6人でいざ創作を開始!という所で、一つ問題が起こります。

6人全員の立場が異なる為に、各出演者への配慮の仕方にそれぞれ悩み、動きが止まってしまったのです。

関場さんは目が見えない、かえでさんは耳が聞こえない、車椅子の啓太さんと180cmを超えるディラノさんの目線のギャップも大きい。

そんな問題多発の状況を、ベッキーは「行動した後に起こり得る変化を想像する力」で解決します。
彼女は皆の目の前で、一人ひとりへの正しい向き合い方を行動で示します

関場さんに対しては、優しく手を差し伸べてエスコートする。その際、少し低い体勢をとって発言に耳を傾ける。

かえでさんに対しては、皆に向けて発言する際も口元を大きく開けて声を出し、簡単な手話でコミュニケーションを取る。

アメリカ人のディラノさんの英語を和訳して、周りに伝えることで出演者の間を取り持つ。対話を通じて、車椅子の啓太さんが少し英語が出来ることを認識したベッキーは他の出演者との対話に集中する際は、啓太さんにディラノさんの対話役をお願いしていました。

この勇気のある行動姿勢は、ハイリスクハイリターンだと思います。

皆の前で配慮の仕方を間違えてしまえば、周りの不安を煽り、さらに動きが鈍くなります。よって制作を占うミスが許されない大事な場面です。そんな中、ベッキーは当事者の一挙手一投足を真剣に観察し、行動する方法を導き出します。更に行動したことで、相手がどのような反応をするか予想を建てた上で行動するのです。加えて笑顔を絶やさず率先して場の空気を盛り上げました。

ベッキーから「それぞれの配慮の仕方」「楽しめる雰囲気」を与えられた5人は安心して本来のチカラと個性を発揮し始めました。各々の立場と自ら進んで行動出来ない自分への葛藤もありながら、2日目、1日の昼間とは打って変わり、6人が一つになった行動を起こすことになります。

私の最も印象的だったシーンは、序盤消極的だった高齢者の原田さんが2日目から人が変わった様に積極的に発言した場面でした。



どうやってベッキーは原田さんのヤル気スイッチを押せたのかというと…。

6人の中で最年長である原田さんの「自尊心を大切にする」為に作品の重要な箇所の提案に対する決定権を彼に委ねていました。

原田さんはベッキーの姿勢に感化されたことで、2日目の「絶好調」へと繋がったのでしょう。
面白いことに、最年長が元気になると、場の空気は一気に和むんです。

もうここまで来るとお分かりだと思います。

ベッキーは一人ひとりに役割を持たせ、各々のアイデンティティを存分に出せる空間を作り出し、モチベーションを最大限にあげる「雰囲気作り」の達人だったのです。

なおかつ、当作品のデザインの大まかな企画・構成・ディレクションを独りで行なっているのですから、脱帽です。

ベッキーの持つこの2つの要素は、今後加速するダイバーシティ社会で人々の生活を助ける大事な要素になると考えられます。

私の実体験から、相手と向き合うことの必要性を感じていただければと思います。

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私が中学生の頃、知的障害を持った同じ学年の生徒と同じ教室で授業を受けていました。

周りの生徒は見て見ぬ振り、先生は知的障害を持った生徒と私たちの間でどの様に接すれば良いか方法を一切教えてくれませんでした。

今思えば、当時の学校は障害者と健常者が共存する空間安易な美徳感情を持っていたのだと思います。今思うと信じがたいです。

大学時代には、車椅子生活者の友人が出来ました。彼と一緒に食堂で昼食を取ろうとした所、段差に阻まれ自力で室内に入る事は出来ませんでした。この大学は前年に校舎のバリアフリーの対応を済ませたばかりでした。

当事者と向き合っているようで、実は向き合っていない。
僕は現代の世の中にこの感情を抱いています。

心が通じない、相手のことを思いやらず、自分にとって都合の良い解釈をして勝手に行動する。真の問題点を避け続けるのが今の社会だと思います。

私は、番組内のベッキーの行動全てに「正しく向き合う姿勢」を感じました。

視覚障害を持つ関根さんの手を自然に取り、特定の場所へ導く。
聴覚障害を持ち同性愛者であるかえでさんには、簡単な手話とオーバーに口を開いて会話をし、LGBTのシンボルである虹の絵に「素晴らしい!」と笑顔で伝える。
高齢者の原田さんには創作の重要な場面の決定権を渡し、車椅子生活者の啓太さんには、アイデンティティである車輪をデザインの一部として提案し作品の核としたり、英語教師のディラノさんには文化のギャップに新鮮なリアクションを取り、遠慮をせず自由に自己表現することを助長しました。

こんなに相手の事を想う女性を、見たことがありません。

ベッキーさんに心から感謝をしたいと思いました。
そして、その様子を美しく表現した「ベッキーと未知との対話」の制作者ならびに関係者に感謝の気持ちで一杯になりました。

こんな真正面に現代社会と向き合う番組が、これからも増えていく事を願っています。

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ダイバーシティなこの時代。
言葉にするとなんだか格好が良いけれど、正しく向き合うと手間がかかる時代だと思います。
それでもベッキーの様に「周りを巻き込む力」を番組を通して学んだり、気づきを持つ事ができると、心の壁が外されて、120%の笑顔が作り出せる世の中になるのではないかと本気で信じています。

彼女は最後にこの言葉で番組を締めました。

「結局、優しさは想像だと思う」と。

最後にこの番組を見ていない皆様へ

僕なりに番組のコピーを描いて見ました。

「75分だけ、

自分と向き合うのを辞めて、

この番組と向き合ってみて下さい」

岡本 政己

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