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歪んだ愛の物語「安珍清姫伝説」:あやしい絵展の予習にも!

 古今東西、恋愛を題材に多くの作品が作られ、その背景にはさまざまな物語や伝説があります。自由恋愛を望む奔放な神がいたり、一途に想い続ける男女がいたりとその種類は多岐にわたります。恋愛にはいろんな形がありますが、今回は歪んだ愛の物語、「安珍清姫伝説」を紹介致します。ちなみに、現在国立近代美術館で開催中の「あやしい絵展」の一角に、この伝説を題材にした作品群がございますので、展覧会の予習としても本記事を利用してください。

【安珍清姫伝説】

 平安時代のとある夏、安珍という名の僧が熊野へ参詣に来ておりました。道中、日が暮れ宿を探していたところ、独り身の女性、清姫の住まいへ一晩お世話になることになりました。すると清姫は安珍の美貌に惹かれ恋をします。そして彼女は安珍に夜這いをかけますが、参拝中の彼はそのような行為は出来ないと拒みます。そこで安珍は、参拝が済んだらまた立ち寄ると約束をして清姫の元を去りました。しかし参拝後、彼は清姫の元へ戻りませんでした。

 騙されたと知った彼女は、安珍を追います。一度追いつきますが、安珍は清姫を振り切り道成寺へ逃げ込むのです。その際、渡ってきた日高川の渡し守に「追手は渡さないでほしい」と頼んでおきます。それもあってか、清姫は日高川を自力で泳ぎ切ろうとしますが、叶わず、命尽き果てるのです。しかし、彼女の安珍への想いとその執念から”大蛇”に化け、川を渡りきるのです。

 恐ろしい大蛇になった清姫は、その見た目もさることながら、口から炎を出し、怒りに満ち溢れ、道成寺へたどり着きます。その頃安珍は寺の梵鐘(釣鐘)の中に隠れ、お経を唱えます。それに気づいた清姫はその巨体を使い、鐘に巻きつき、炎を出し続け、梵鐘の一体を焼き尽くします。その業火に耐えられず、安珍は絶命し、清姫もあとを追ったのでした。

【あやしい魅力、清姫】

 この伝説は道成寺に古くから伝承されており、いまもお寺へ行くと絵とき体験として、絵巻物で読めるようです。気になります、ぜひ現地へ行ってみたいです。

 このあやしい魅力を孕んだ清姫の物語は、能や歌舞伎などの題材になります。もちろん絵画にも描かれるようになり、西洋から取り入れた耽美主義も後押しし、明治から昭和初期にかけて多く描かれたそうです。その一部の作品が「あやしい絵展」で見る事ができます。この機会に、ぜひ国立近代美術館へ足を運んでみてくださいね。著作権の関係上、江戸後期に描かれた月岡芳年の清姫だけ載せておきます。執念と怨念が滲み出ております。

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月岡芳年『和漢百物語 清姫』1865年

 ちなみに、清姫のイメージは時代ごとに微妙に変化しており、その変遷を見れるのも本展の魅力です。このあやしい人物を画家がどのように受容し、色と形で表現したのか、見ものですよ。西洋で言うところのサロメも時代ごとに描かれ方が大きく変わってきました。そんな時代の移ろいを感じてみるのも一興ではないでしょうか。


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