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団地探訪#市営加島住宅

 少し坂になった道を、ペダルを漕ぐたびに尻のポケットに入れた財布が食い込んだ。ひと漕ぎ、ひと漕ぎすると、額から汗がふきでるのがわかった。

 頭上はうらめしいくらいに青だった。かすかな日陰をつなぎながら大阪市淀川区加島を訪れた。

 三津屋中央公園の前に地域地図があった。これを見るとわかるように、このあたりは工場が多く立ち並んでいる。中でも金属加工業が多く、大阪市内でありながらも古くからの職住近接地域だといえる。

 三津屋中央公園を南へ曲がると、加島の団地群が見えてきた。

 補修が進められているのか、団地の外観は美しかった。

遊具が少し傷んでいた。子供の数が減ってきているのかもしれない。この辺りをうろついていると、デイサービスの送迎車を見かけた。静かに落ち着いた団地もいいが、やはり子供の姿があると団地はわっと賑わいだす。

 野菜の移動販売のおじさんと、住民のおばあさんたちが日陰で談笑していた。


 まとわりつく熱気、静かな団地、蝉と遠くの電車の音。どこか別世界に入り込んだようだった。唯一現実感を持っているのは自分の体だけのような気がして、それでも団地の間を縫うように自転車を漕いでいると、どこかの角で曲がりきれずに体すら振り落としてしまいそうで。

 この住戸のひとつひとつに、誰かの人生がしまわれている。本当は人生なんてきれいに整理整頓できるものじゃないけど、団地はすっぽりと飲み込んでいる。自分はそこからはじき出されたのだろうか。団地の中が本当の世界なんだろうか。太陽は真上にいる。茫然とするほど青い。今いる場所はどこなのか、ぐるぐると自転車で回っているうちに、見失っていった。

 時折見かける住人の姿が、僕を正気に繋ぎとめていた。

 大きな高層団地がいくつもある。少し青みがかった外壁も、夏の青さに劣らず美しい。

この写真を見るとよくわかるけど、一部分が下から上までズドンと吹き抜けていて、中庭のようになっている。

こういう団地をみると、この中庭に面した部屋の中にいる自分を想像してしまう。直射日光ではないやわらかな光が、中庭をとおって部屋の中へ入ってくるようすを思い浮かべると、心から落ち着く。

 このあたりはかつては同和地区で、木造の古い民家が並んでいたという。この加島地区も大阪市の同和対策事業の一環で改良住宅の建設が進められていき、今では完全に混住が済んだ地域だ。もう同和地区の名残はなくて、よくある落ち着いた団地の風景が広がっていた。良い街だ。



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