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奈良修行の旅② 2021.09.25

二日目 2021.09.25
 今日は前鬼山修行の日。朝起きて、コーヒーを淹れて一服。スニッカーズを一つもらう。美味しい。そうこうするうちに朝の勤行へ行く6時10分の集合時間となり、片山さん、幸田さんと一佛堂へ。まず近くの大きな木の根のところへ連れて行ってもらう。大きな大きな木の根。どうして折れてしまったのかはわからないけれど、もし木がまだあったら、どんなに大きいか、と思う。一佛堂には片山さんの師僧がタッチの差で既に来ていた。すぐにのぞみさんという方も来た。神奈川の大学の看護科の先生をしている方で、今日の修行に参加されるらしい。挨拶をする。勤行が終わると、お宿のカムインヘ戻って朝食。柿の葉寿司と、うださんという男性が作ってくれた卵焼き、味噌汁、あと昨日もらったお餅。どれも美味しい。朝から精がついた。

 支度をして、待っていると、続々と山伏の格好をした行者さんたちが車で到着。出発前に女子達で記念撮影し、みんなで金峯山寺に向かってお経を唱え、車で出発。

 車で2時間くらいして、前鬼山(ぜんきざん)の小仲坊(おなかぼう)に到着。ここは役行者が従えた鬼の末裔が住む村と言われていて、1300年もの間、代々修行に来た山伏さんたちが宿泊する宿を営んでいる。今は最後の一件となった宿泊所、小仲坊で61代目の後鬼助さん夫婦が出迎えてくれた。荷物を置いて、小仲坊の縁側で昼食のお弁当をいただく。ボリューム満点で美味しかった。

 そしていよいよ出発。リュックを背負い、地下足袋を履いて、金剛杖を持って、一列に並んで小仲坊の裏からお山へ入る。山伏さんたちの吹く法螺貝の音がお山に響き渡る。歩き出して10分少しくらいで、右の膝の裏が痛む。どうやら慣れない山歩きで変な歩き方をして筋を痛めたらしい。わたしは日課のジョギングやヨガや筋トレで何度か足の筋を痛めたことがあるので、そんなにひどく痛めたわけではないとわかるが、これからの山歩きに響いてこないか心配になる。できるだけ右の膝を伸ばさないように、かつ不自然な力が入らないように意識する。メジャーな登山道と違い、道なき道を歩くので、急な傾斜の間にある幅が10センチ〜20センチほどの獣道がザラにある。慣れている人は普通の道と変わらないペースで歩いていくが、わたしはどうしても慎重になる。滑落したら大怪我をする。一歩一歩、足をつける場所を考えながら歩く。身体と頭を使う。
 少し歩くとお地蔵さんがあった。そこで立ち止まって勤行をする。修験のお経はいろんな宗派のお経が混ざっている。ギャーテーギャーテーハーラーギャーテーのくだりがわたしは好きだ。お経と共に吹かれる法螺の音も好きだ。お経が終わると、先達の先生(片山さんの師僧)がその場所の説明をしてくださる。そして喉を潤し、また出発。普段は少し長い階段でも息が上がるが、お山の中は酸素が濃いのか、そんなに息が上がらない。日頃の筋トレとジョギングの成果か、力強く地面を踏みしめて歩く。しばらく歩くと時々ちょっとした岩場が現れる。足を置く位置を慎重に考えて渡る。
 二年前の日帰りでの稲村ケ岳修行の時は、雑念が多かった。歩いていると心の中が煩かった。けれど今回は比較的静か。歩くことに集中できた。随分と歩いて、鎖場に出た。5メートルはゆうに超える崖を、ロープ一本で降りていく。わたしは命綱をつけてもらって、上から山伏さんが支えてくれた。上体を崖に対して垂直にし、少しずつ降りていく。木の枝が顔にかかっても、手は離さない。下の方は川の水で濡れて滑ったが、無事に降りることができた。

そこは垢離取り場(こりとりば)と言って、水行の場。帰りに水行をするという。水が透き通ったエメラルドグリーンに光って、底まで見えている。川を渡って、リュックを置いて、再び山の中を歩く。

 しばらく歩くと、また、鎖場があった。今度は登り。鎖の輪っかを手で握り、腕の力で登っていく。体重を支え、引き上げるので、筋力をかなり使った。
 それからさらに進む。「懺悔懺悔、六根清浄」というメロディのある掛け声が響く。これは、歩きながら言うことで息を吐き、吸って、腹式呼吸をしっかりするためだと言う。しんどくなってくると呼吸が疎かになりがちなので、掛け声を言った方が楽に歩けるそうだ。

 一つ目の滝に着く。この辺りの滝を前鬼不動七重の滝と呼ぶらしい。ものすごく大きい。日本でも有数の大きな滝らしい。涼しくて、疲れが和らぐ。滝の裏には仏様がいて、そこで勤行。終わったら杓子で滝の水を掬ってもらって飲んだ。冷たくて、柔らかい味がした。足元には見たことのないきのこが生えていた。

 また歩いて、二つ目の滝に着く。これも大きかった。滝壺のところに、虹ができていた。岩を渡って、滝の麓まで行く。そこで涼んでいると、足がすうっと軽くなった気がして、気がつくとさっきまで痛かった右足がすっかり治ってしまった。不思議だと思ったけれど、この滝のおかげだと自然と腑に落ちた。ありがたい。
 ここからは帰り道。主に来た道を歩いて帰る。時間が押したので、水行は無理かもしれない、と先達の先生が言う。私たちは残念に思ったが、垢離取り場に着いて、水行をしたいかと聞かれ、みんなしたいと答えたので、できることになった。男女に分かれて水行衣に着替え(わたしは水着を下に着た)、皆で川に沿って一列に並ぶ。作法に従って身体に水をかけていき、いざ、入水。今年の7月に天川で川泳ぎをしたので、冷たい水には慣れていた。天候も暑く、水温は比較的高かったのではないかと思う。氷水くらいだろうか。疲れた身体に水が冷たくて気持ちが良かった。でもやっぱり冷たい。水中で勤行する。わたしはお経を知らないので、手を合わせるだけだけれど、もしお経を唱えたら身体が温まったかもしれない。しだ好き女子のしだちゃんがわたしたちの様子をカメラで撮ってくれた。

 水行を終えて、下山。最後まで気が抜けない。歩きに歩いて足が疲れているので、足を滑らせないよう、しっかりと地面を踏みしめて歩く。斜面を歩くときなどは、行きよりも体幹がブレて慎重になった。わたしの前を歩く先達の先生とのぞみさんは、サクサクと先へ進んで、要所要所で待ってくれる。二人の脚と体幹は一体どうなっているのだろうと思った。疲れている時こそ、「懺悔懺悔…」を唱える。行きはよくわからなくて言わなかったけれど、帰りは唱えた。
 そしてとうとう小仲坊が見えて来て、やっと着いた!と思った。体力はまだあるけれど、余裕はない。これ以上歩いたら足がガクガクになったかもしれない。二年前は足ガクガクで下山したので、それよりは成長したかもしれない。今回、天気予報では15時から雨だったのに、実際のところは一滴も降らなかった。天候に恵まれていた。おかげで工程にある滝は二つとも見れたし、水行もなんとかできた。それをみんなで先達のガクリョウ先生の法力だ、と話していた。法力とかパワースポットとか、体験していなければ信じてなかったかもしれないけれど、今回目の当たりにしたわたしにはストンと腑に落ちた。徳の高い人には幸運がついてきて、それを法力と呼ぶのかもしれない。

 小仲坊では後鬼助夫妻が既にお風呂を準備してくださっていた。レディファーストでわたしたちから入らせてもらう。汗まみれ泥まみれの疲れきった身体と心に、熱いお湯が気持ちいい。垢も疲れも洗い流して、さっぱりしているところにビールが配られる。すぐに水のように飲んだ。
 皆がお風呂に入り終わったら、いよいよ宴会だ。みんなで円状に食膳を並べて、お疲れ様の乾杯。お母さんの後鬼助さんは料理の先生をしているそうで、とても美味しい。野菜中心のおかずが身体に染みる。御膳のご飯は比較的少量で、だけど食べ終わると次から次に追加のおつまみが運ばれてくる。さすが、酒呑みの気持ちをわかっていらっしゃる(笑)。お酒もたっぷりとあって、ビールにチューハイ、ハイボール、焼酎に日本酒。わたしは普段ダイエットの為にビールと日本酒は控えていたのだけど、久しぶりにたらふく飲んだ。特に日本酒が美味しかった。甘い冷酒が喉を柔らかく潤して流れていく感じがなんとも堪らなかった。
 宴もたけなわ、御膳を下げるのを手伝う。洗い物も皆でする。酔っ払っていても視界が朧げでも会話しながら食器を洗えた。片付けが終わるとすぐにわたしは布団にダイブした。日本酒を飲みすぎて、頭や肩が痛い。布団に溶けて沈むように、泥のように眠り込んだ。他の皆はまだ飲んでいたらしい。わたしも混ざりたかったが、体力の限界。仕方ない。そうして修行本番の日が終わった。

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