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おなじ

「ここ、いきたい」
パンを齧りながら送る
ことしの夏はふたりで走れなかったから
大阪のはずれの山のカフェ
お掃除とお買い物すましてスマホを見たら
起きたばかりのあなた
「いいよ」とひとつ返事
めずらしいなとおもって
なれないまとめ髪してたら
ちかづいてくる
おおきな地響きはいつもとおなじ
あなたにかりたヘルメットとサングラス
いつも似合わないって笑われる
まっくろな車体にピンクの座布団しいて
うしろからあなたのからだにしがみつく
地面のへこみを避けて走るあなた
うれしいわたしは
赤信号のたびに
くだらないことをしゃべりかける
「ねぇ、あったら楽しそうなおまつりってなに?
わたしは
ふとんまつりに
おこのみやきまつりに
ちゅうしゃじょうまつり」
こんなにちかいところに
山があった
あなたも背中でよろこんでる
ふたり、まるで正反対だけど
山を好きなのはおなじ
一時間待って入ったカフェは
広い森林のテラスにハンモックもあって
たべものにうるさいあなたも
おいしいって食べた
もういちど
ふたり、またがって
まだ四時前なのに陽が傾いて
風がひさしぶりに涼しくて
アクセルもブレーキもなしに走る
しらなかったよろこびを
あなたにいくつもおしえてもらった
おなじ鼻
傾いた陽は
香ばしい稲の匂い
おなじ耳
風のすきまから
エンジンと虫の音
おなじ瞳
光を
等間隔に並んだ木々が
いっしゅん
輝きさえぎる
おなじ肌で
かんじてるの
あなたの背中を世界から
世界の背中からあなたを
しりたい
そしてわすれないように
時々きれいにカチンと鳴る
ギアの交換される音も
いまわたしをつくる
あなたをつくる
長い夏のおわりも

2023.09.30

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