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小説「花降る王子の婚礼」 *20/8/20

面白くて止めどころがわからず、昼食もおざなりにうっかり丸一日かけてこの本を読んでしまいました。
電子書籍って、いまいち厚さがわからないから、なんの構えもなしに読みはじめちゃいますね。やばいな。これ新刊だったので本屋でも見たことなくて、もしかしてすごい分厚い…?

読書記録:
尾上与一/「花降る王子の婚礼」

あらすじ:
武力を持たない代わりに、強大な魔力で大国と渡り合う魔法国──。
身体の弱い姉王女の代わりに、隣国のグシオン王に嫁ぐことになった王子リディル。男だとバレて、しかも強い魔力も持たないと知られたらきっと殺される──!!悲愴な覚悟で婚礼の夜を迎えるけれど、王はリディルが男と知ってもなぜか驚かず…!?
忌まわしい呪いを受けた王と癒しの魔力を持つ王子の、花咲く異世界婚姻譚!!

たまに読書スイッチがはいると、一気に数冊本を読んでしまうところがあって、小説が続いてしまいました。

「1945シリーズ」でも紹介した尾上与一さんの新刊です。
発売直後から評価が高くて、yocoさんの綺麗なイラストと、ファンタジーが読みたい気分で珍しく新刊を購入しました。この美しい表紙、表紙をカバーで隠さなくてもBLだって気がつかれないだろうな。

BLには「結婚BL」というジャンルがあり…変な話ですが、様式美みたいなやつです。特に、女兄弟の身代わりで男の元に結婚に行かなくてはいけないっていうのが定石で、これはまさにそのパターンでした。
(最近だと、ためこう先生の「ララの結婚」とか。未読ですが)

とはいえ、その「結婚BL、身代わり」の様式美に、なんかいろいろプラスされて、かなり独特な味わいになっていました。でも、一度の作品の世界観に入ってしまうとなかなか戻ってこれない、読み始めてしまうと止まらない…という面白さは、さすがの尾上さんでした。
でも不思議と、設定がファンタジーで、王と結婚、周りからは反対されて、でも主人公が健気ないい子で、ってあたりでなのか、樋口美紗緒さんの小説読んでるんだっけ?って何度か錯覚してしまいました。「ムシシリーズ」を彷彿としましたが、戦争の戦闘シーンがあったり、「結婚BL」だけでない要素があるのが、大きな差でしょうか。

手のひらから花を生み出す王子

まず印象的だったのは、この主人公のリディル王子の能力です。魔法国に生まれ、ある事情で強くはないのですが、嬉しかったり、感情が高ぶると手のひらから花が生まれるという設定。魔法の花なので、すぐに消えちゃうもののようです。嬉しい時は明るく綺麗な色で、泣いている時はなみだ色、元気がない時は色も薄くすぐに消えてしまう儚い花…というような描写があります。花を降らして、動物たちと遊んでいたりもする。そんな王子の情景が、とても綺麗なのです。

その作品のイラストレーターさんに、従来のBLらしくないアーティスッティックなイラストを描くyocoさんを選ぶのも、すごいセンスがいいなーと思ってしまいます。

理不尽な運命と闘う少年少女たち

これに関しては、「1945シリーズ」もそうですし、尾上さんのお得意なところなんだと思います。今回も、親からの理不尽なとばっちりだったり、国家レベルの大きな理不尽に対してもがく青年〜少年少女のはなしでした。
物語は、リディル王子が身代わりとして他国へ行き、斬り殺されるつもりで婚礼に行くことが決まったところから始まります。恐怖を隠しながらも気丈に振る舞うリディル王子が健気です。
さらに印象的だったのは、婚礼の旅路に同行する側近としてすぐそばで支えるイドと、偽りの「王女」の女官として使えるイドの妹のアニカ。二人ともリディル王子が大好きで、王子が斬り殺されてしまうであろう旅路に同行するのをとても辛く思いながらも、「自分たちが最後のときまで王子を守り抜き、王子の働きを国王と国民に伝えます」と宣言し、兄妹の息のあった連携で逞しく気丈に振る舞う旅路の一連のシーンがとても好きでした。本当にいい兄妹。

そして、リディルやイドとアニカだけでなく、実は結婚先のグシオン王にも隠された事情があって、理不尽な運命と戦っていて…。

この作品に出てくる少年少女、青年たち、みんな自分は悪いことをしていないのに自分が落とし前をつけなくちゃいけないことばかりで、ぜひともハッピーエンドになってほしいと思いつつ、途中、これ終わるかな?ハッピーエンドになる?と一抹の不安が漂いましたが…、
少しご都合主義、設定詰め込みすぎな気もしましたが、基本的にはグシオン王はリディル王子(妃)溺愛だったので、幸せな読後感でした。


読み応えのあるファンタジー好きの方、あまい溺愛ものが好きな方にはおすすめです。
あと、止まらなくなるので、時間のある日にお手に取ることをおすすめします。ぐっと異世界に連れて行かれ、読後も余韻が強く残るので、なかなか戻ってこれなくなりました。現実逃避にはぴったりの一冊です(笑)


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