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日立市妻子六人殺害事件公判傍聴記・2023年1月27日(被告人:小松博文)

2023年1月27日
東京高裁第5刑事部
506号法廷
事件番号:令和3年(う)第1265号
罪名:殺人、非現住建造物等放火、有印私文書偽造・同行使、詐欺、詐欺未遂
被告人:小松博文
裁判長:伊藤雅人
右陪席裁判官:島戸純
左陪席裁判官:伊藤ゆう子
書記官:榮田真

10時30分の傍聴券の締め切りまでに、33枚の傍聴券に対し、37人ほどが並んだ。記者らしき人もいた。
傍聴希望者は、法廷前に並ばされる。マスクを着用するように、など注意が行われる。
検察官は、痩せた浅黒い、40代ぐらいの男性だった。風呂敷包みをもって入廷する。
記者席は8席指定され、すべて埋まる。
弁護人は、髪の短い青年、短髪の中年男性、ショートカットの3~40代ぐらいの女性の三名。書類を机の上に広げ、ファイルを積み上げている。
被害者参加人がいるのか、検察官側の席は、衝立で傍聴席から見えないように、遮られていた。
被告人は、一審よりもやや痩せたかもしれないが、それでもかなり太っていた。白いマスクが、顔の肉に食い込んでいる。頭は丸坊主である。髭が頬に生えているかもしれない。黒縁眼鏡をかけ、マスクからは鼻が出ている。黒い長袖の服、黒めの長ズボンを身に着けている。前を向いて入廷した。
こうして、11時より、小松博文被告人の控訴審初公判は、開廷した。

裁判長『開廷します。被告人は、証言台の前に立ってください』
被告人は、証言台の前に立つ。
裁判長『名前と生年月日を述べてください』
被告人『小松博文です。昭和59年11月17日生まれです』
一審と同様、鼻が詰まったような声だった。
裁判長『本籍に変更ない』
被告人『はい』
裁判長『住居に変更』
被告人『ないです』
裁判長『仕事はしていない』
被告人『はい』
裁判長『では、元の席に座ってください』
被告人は、被告席へと戻り、座る。
弁護人は、12月23日付控訴趣意書、1月3日付控訴趣意補充書、12月14日付の控訴趣意補充書、12月3日付の控訴趣意補充書を提出しており、それらを陳述する。また、要旨を口頭で説明することとする。イーゼルにパネルを立てて説明する。傍聴席からも見えるように、パネルの両面に文字が書かれていた。

<控訴趣意>
弁護人の控訴審での控訴趣意の要旨を述べます。
原判決は、破棄されるべきです。
弁護人の控訴趣意は四点あります。
まず、小松さんに事件当時の記憶がないにもかかわらず訴訟能力を認めた、訴訟手続きの法令違反。そして、小松さんが、事件当時の記憶が回復する可能性について、審理を尽くさなかった訴訟手続きの法令違反。小松さんが、事件の三日前から犯意を継続させたと認定した事実誤認。そして、死刑を選択した、量刑不当です。
そのうち、一点目と四点目について、主張の要旨を述べます。
まず一点目、訴訟能力を認めた訴訟手続きの法令違反について。
小松さんは、第一審の公判前整理手続きがすすめられていた時期に、心不全等で意識を失い、生死の境をさまよいました。そして、その後遺症によって、事件当時の記憶を失ってしまいました。小松さんの記憶は、今も、事件の数日前、まだ家族みんなで暮らしていた時期で途絶えてしまっています。
最高裁平成7年2月28日判決。(弁護人は、イーゼルにパネルを立てる)刑事裁判で求められる訴訟能力の意義について、次のように判示しています。被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って、相当な防御をする能力。
本件は、小松さんがかけがえのない6人の家族の命を奪ってしまった事件です。このような行為に及んだ当時、小松さんに間違いなく責任能力があったのか、そして、死刑の選択がまことにやむを得ないと判断するにあたっては、事件に至った経緯や動機を明らかにすることが不可欠です。しかし、事件当時の記憶が失われている状態では、事件に至った経緯や動機について、防御方針は立てようがありません。公判前整理手続きよりも前に作られた、自分名義の供述調書が、本当に自分の記憶に沿って作られたものかも判断しようがありません。録音録画媒体について、記憶通りに話しているのかどうかも判断しようがありません。そして、公判廷で、事件にいたった経緯や動機について、語ることは不可能です。
死刑という究極の刑罰が問題となる本件においては、このような状態では、相当の防御をする能力は認められないというべきです。弁護人は控訴審において、我が国における訴訟能力の第一人者である指宿教授の意見書の事実取り調べ、証人尋問を請求します。これらの事実取り調べを行えば、小松さんに訴訟能力が認められないことは明らかです。
死刑という究極の刑罰が問題となる本件において、適正手続き等、防御に万全を期すことが、何よりも優先されなければなりません。原判決を破棄して、第一審に差し戻し、そして、小松さんの記憶が回復するまで、公判手続きを停止するべきです。
続いて、死刑を選択した量刑不当について。本件は、6名の方の命が失われた事件です。最高裁は、平成27年2月3日付の判決で、千葉裁判官において、次のように判示しています。被害者の数を、死刑選択の絶対的な基準のように捉えるのは適切ではなく、最終的には総合考慮によるべきである。
最高裁平成26年7月24日判決、刑事裁判の量刑の在り方について、次のように判示しています。量刑が裁判の結果として是認されるには、結果が公平性を損なわないものであることが求められる。死刑選択が問題となる事案は、多くありません。死刑についての過去の量刑傾向を、グラフで示すことは困難です。そこで、死刑選択においては、過去の事案を参考に、公平性を損なわない量刑判断になっているかです。
本件は、被害者が多数の殺人事件の内で、無差別殺人事件と違い、家族という閉じられた人間関係の中で起こりました。家族という閉じられた人間関係の中で起きた被害者多数の事件として、これから述べる二つの事件があります。
まず、東京高裁平成2年12月19日判決の事案です。(二つ目のパネルを外し、三つ目のパネルを立てる)この事案の被告人は、妻、長女、実父、内妻の四名を殺害し、自宅に放火して死体を損壊しました。検察官は死刑を求刑したのに対し、一審及び控訴審は無期懲役を選択しました。そして、控訴審判決が確定しました。
もう一つの事案は、最高裁平成24年12月3日判決の事案です。(四つ目のパネルを立てる)この事案の被告人は、実母、長男、長女、孫二人の五名を殺害し、さらにもう一名、長女の夫を殺害しようとしています。検察官は死刑を求刑し、一審から上告審まで、いずれの判決も無期懲役を選択しました。これらの前例から明らかなことは、被害者が4名ないし5名と多数の事案でも、その他の事情により死刑が回避されるべき場合があるという事です。被害者の数は、絶対的な基準ではない。
(五つ目のパネルを立てる)小松さんの行為の犯情を具体的に判断するに際して、特に着目されるべきは、計画性がなく、殺害行為の一回性が高いという事です。死刑選択されるにあたっては、計画性の有無は重要です。小松さんは、事件の前日、これからは奥さんや子供たちと離れて別々に生きていく、ということを前提でいました。そして、事件の数時間前は、子どもたち一人一人にプレゼントを渡し、ママのいう事をちゃんと聞くんだよ、と言い聞かせています。小松さんが殺害を意図していなかったことを示唆します。事件時、衝動的に行われたものです。
また、被害者が複数の事件で、殺害行為が一回の機会で行われたのか、複数の機会に行われたのかも重要な考慮要素です。複数回にわたって殺害の決意を行われた場合は、より強い非難されるべきです。
衝動的に殺害し、同種の事案の中でも、特に殺害行為の一回性が高い。先ほどの家族という閉じられた関係の中で起きた同種の事案二つを踏まえたうえで、小松さんの行為について計画性がなく、殺害行為の一回性が高いことを踏まえ、小松さんについては、死刑を回避することこそが、結果の公平性を損なわない量刑判断となります。
最期に、再度指摘しますが、小松さんが事件当時の記憶を失っている、十分な防御を尽くすことができない状況にあるということです。裁判所がもし現時点において、死刑を回避する決断ができないのならば、小松さんが十分な防御を尽くすことができない状態にあったからです。死刑という究極の刑罰を確定させてしまう。決してあってはならないことです。原判決は、訴訟手続きの法令違反、破棄されるべきです。
以上です。

裁判長『検察官からは、10月25日付答弁書、陳述』
検察官『陳述します』
裁判長『加えていう事は』
検察官『ありません』
裁判長『弁護人から、令和3年12月23日付、令和4年5月6日付、令和4年9月5日付、事実取り調べ請求書が出ている』
検察官『いずれも不必要です』
裁判長『被告人質問のうち、現在の記憶の状況に限定して採用。他は却下します』
弁護人『異議。法令解釈の適用を誤ったものです。いずれもやむを得ない状況、詳細に明らかにしている』
裁判長『異議は棄却します。被告人質問は、今回行いますか』
弁護人『いや、後日』
裁判長『弁論、同日』
弁護人『同日で結構です』
裁判長『次回期日に、被告人質問と弁論を行います。2月15日14時は』
弁護人『もう少し前なら』
裁判長『被告人質問10分、検察官からも。あとは弁論どれくらいか』
弁護人『10分程度』
検察官『14時からで』
裁判長『40分程度で終わりますから。参加人、いいね』
参加人『はい』
裁判長『2月15日14時、解った』
被告人『はい』
裁判長『次回は、2月15日14時』
被告人『はい、はい』
裁判長『退廷を』
11時15分に閉廷となった。
被告人は前を向いて、控訴趣意の朗読を聞いていた。閉廷するとすぐに退廷し、退廷時の様子は解らなかった。


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