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遠ざかりゆく子供の頃の記憶【エッセイ】♯08



年惜しむ冬の風、
2023年に別れを告げるべく
今日も筆を執ります。

ダラ



となりのリカちゃん


5、6才の頃だろうか、
小学校に入る前の話しだ。


内股で前髪がくるんくるんしてる
女の子みたいな男の子。
名前はヒロワタリくん。

家が近かかったので、
たまに遊びに行っていた。

ヒロワタリくんは、
机の引き出しからノートとえんぴつを取り出し、
「リカちゃん人形のリカちゃんだよ」
と言って絵を描いて見せてくれた。

頭に大きなリボンをつけた女の子の絵だった。

私も見よう見まねで隣りページに
同じ絵を描いた。

とても上手くいった。

数日、同じ事をして遊んだ。

小学生になり、ヒロワタリくんとわたしは同じクラスになった。
話題が豊富な彼はすぐに人気者になった。
クラス全員の子供たちや先生をも笑顔にするユーモアが
小学一年生にしてあった。

先生に褒められて満足気な優等生には
憧れなかったが、クラスメイトを沸かせる
ヒロワタリくんにはとても憧れた。

彼は時どき学校を休んだ。
夏になり、水泳の授業が始まったが、
いつもポツンとひとりで見学していた。

「楽しいよ」

ビートバンに身体を浮かせながらわたしは言った。
その時、ヒロワタリくんの耳に見慣れない何かが見えた。

それから数日経ったある日、どこかの町へ転校した。


かなり後になってから、
耳に付いていたのは補聴器だったという事が分かった。

子供のわたしには、
「聞こえない」
という事がどういう事なのか分からなかった。


今頃どうしているだろう。

どんな環境にいても彼なら、
言葉を超えたコミュニケーションで、
周りの人を笑顔にしているに違いない。

そんな事を思い出しながら、
今も時々、リカちゃんを描いている。



ヒロワタリ少年
絵/ダラ

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