あなたほどの人なんて

どこに行ったって
誰に尋ねたって
あなたほどの人なんていないよ
見上げるほどの長身が
電車のドアをひょいとかがむ仕草が可愛い
ほいついでだから買ってきたと
あなたが私の煙草の銘柄を覚えていてくれてただけで
生れてきてよかったなんて大袈裟かな
私だって女にしては手が大きいんだよと
勇気を出してみたとき
じゃあ比べてみっかとその笑顔で
手と手を合わせる前にノックアウト
一生手を洗わないでおこうと決めた
それを知ったら芸能人じゃねえよと
またあの笑顔で笑うんだろうけど
友達は気楽
友達は苦しい
あなたほどの人だもの
いつ誰にさらわれちゃうか分からない
私がもっと美人だったら
ランチに誘う以上のことが可能だったのかな
時代に感謝しなきゃだけど
仲間うちで煙草を吸うのは私たち二人だけだから
一服するときだけは二人きりになれる
今までそのチャンスを何度逃してきただろう
ちらちら見上げる横顔は
どっかの韓流スターに似てる
鏡を見るのも嫌になる
並んで歩いたら月と鼈でしょ
でも一つだけ信じて欲しいことがある
かっこいいから好きになったわけじゃない
入試のときシャーペンが壊れて絶望的に焦ってた私の
机の上に研ぎ澄まされた鉛筆がスッと置かれた
何事かと見上げるとあの笑顔があったの
何も言わずにっこり頷くと
あなたは自分の席へ消えてった
あの鉛筆ね毎日引き出しから取り出して眺めちゃうの
あなたと私との出会い
でももしも違う出会いでも
同じようにあなたを好きになったよ
あなたほどの人なんてどこにもいない
煙草を吸い終えるまでの5分間
がんばれ私卑屈に負けるな
ねえ今夜空いてる
空いてるけど
次の言葉が続かない
下を向いて黙りこくってしまった私の肩をポンと叩いて
飲みにでも行くかって空耳じゃないよね
見上げると逆行より眩しい
あの笑顔があった

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