骸骨とロリータ

私は生まれつき全身の骨格が歪んでいる
関節を滅茶苦茶な方向へ折り曲げた骸骨の標本のようだ
歩くのも人の半分くらいのスピードがやっとで
なおかつあちこちがきしんで痛い
でもね私だって女の子ですもの
お洒落をする権利はバリバリにあると思うの
そして私は出会ってしまった
私が望んでも望んでも望み切れなかったもの
その名はロリータ
フリル満載リボン満載お人形さんのお洋服みたい
雑誌で見かけてとてもたまらずに
戸惑うママに支離滅裂な説得をして
ロリータの聖地ラフォーレ原宿へと降り立った
マヌカンさんはお似合いですよ~と言ってくれる
でも似合ってないことくらい自分が一番よくわかってる
こんな捻じ曲がった身体にこの世の可愛さを全部
詰め込んだようなお洋服がふさわしいわけがない
でもその日試着したものは全部買った
ロッキンホースバレリーナという恐ろしく厚底のお靴で
ただでさえまともに歩けない私は何度も何度も
無様に道端ですっ転ぶ
でもそれを恥じる気持ちは一切ない
ガイコツが変な服着てる~とすれ違うクソガキに笑われる
街を歩けば大人だってじろじろぶしつけな視線をよこす
転んで助けてもらったことは一度もない
そんなものいらないから
私は自分で立ち上がれるのだから
ママとパパは明らかに動揺してる
重度の身体障害を持って
出来れば家の中に隠しておきたいであろう娘が
毎日派手な格好をして出かけていくのだから
ロリータのお洋服はお値段が高いので
私は何の悪びれもなくパパとママの通帳を持ち出す
だって私がロリータを身に纏うことは運命なのだから
運命に逆らって地獄に堕ちるより
親の金を使い込むほうが100倍健全だ
でも何故言ってくれないんだろう
お前は障害者なんだからもっとつつましく生きなさいと
太った人が横じまの服を着てたら
周りは横じまの服は太って見えるからやめたほうがいいよと
言ってくれるのに
どうして私は歪んだガイコツだから派手な服はやめなさいと
誰も言ってくれないんだろう
ただただ不審な目を向けてくるだけで
誰もが通り過ぎていく
今日もロッキンホースバレリーナで3回
思いっきり転んだ
服の汚れを払っていると
クスクス笑い声が聞こえてきた
何あれめっちゃキモイんだけどウケる
通りすがりのカップルが私をじろじろ見て笑ってた
でもそんなことには負けるわけがない
私にはロリータのお洋服がついている
何と引き換えにしても手に入れなければならないものがある
それを人は宿命と呼ぶ
私の宿命にはフリルとリボンが沢山ついていただけの話だ
毎日ラフォーレ原宿へ通う
もちろん買わない日もたくさんある
でもロリータのお洋服に触れて眺めているだけで
私は恍惚とした気持ちになれる
私に女の子なんだから女の子になっていいんだよと
背中を押してくれた勇気の源
ロリータのお洋服は戦闘服
意地悪な世の中と一人で戦うための完全武装
私が負けるはずない
力がみなぎって来るの
パパとママの貯金が尽きたら
借金してでもロリータのお洋服を買うつもりでいる
人には譲れないものがある
私の場合それにフリルとリボンが沢山ついていた
だけのことだ




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