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Auf dem See

Johann Wolfgang von Goethe “Auf dem See”
 
Und frische Nahrung, neuer Blut
Saug' ich aus freier Welt;
Wie ist Natur so hold und gut,
Die mich am Busen hält!
 
Die Welle wieget unsern Kahn
Im Rudertakt hinauf,
Und Berge, wolkig himmelan,
Begegnen unserm Lauf.
 
Aug', mein Aug', was sinkst du nieder?
Goldne Träume, kommt ihr wieder?
Weg, du Traum! so gold du bist;
Hier auch Lieb' und Leben ist.
 
Auf der Welle blinken
Tausend schwebende Sterne,
Weiche Nebel trinken
Rings die türmende Ferne;
 
Morgenwind umflügelt
Die beschattete Bucht,
Und im See bespiegelt
Sich die reifende Frucht.


『湖上にて』
 
そして新鮮な養分を、新しい血潮を
広大な世界から私は吸い込む。
なんと自然は優美で素晴らしいのだろう、
私をその胸に抱き込むのだ!
 
波がわれわれの小舟を
舵切るごとに揺らし、
雲に覆われて天まで届くような山々が
われわれの行く手に立ちはだかっている。
 
眼よ、わが眼よ、なぜおまえは閉じるのか?
金色の夢よ、なぜ再びやって来るのか?
夢よ退け!おまえがいかに輝いていても、
ここにさえ愛と生はある。
 
波の上で輝く
幾千もの揺らめく星々、
やわらかな霧が飲み込む、
彼方に積み重なる山々。
 
朝の風が飛び回る
翳りゆく入江、
湖面が映し出す
熟れた果実。


・ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe、1749年8月28日 - 1832年3月22日)
ドイツの詩人、劇作家、小説家、自然科学者(色彩論、形態学、生物学、地質学、自然哲学、汎神論)、政治家、法律家。代表作に小説『若きウェルテルの悩み』『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』、叙事詩『ヘルマンとドロテーア』、詩劇『ファウスト』がある。

・第2連、第4連では偶数行と奇数行で、第3連では1行目と2行目、3行目と4行目で脚韻を踏んでいる。第1連では偶数行と奇数行で「ut」「lt」で脚韻を踏みながら、さらにすべての行が「t」の音で揃えられている。第5連も同様の構造である。
・本作は、1775年にゲーテがスイスを旅行した際に書かれた詩。湖はチューリヒ湖だと言われている。1817年、シューベルトによって曲が作られている。
・第1連から第2連の中で、ゲーテは自然を讃えているが、「私をその胸に抱き込む」優美な姿だけで無く、「われわれの行く手にたちはだか」るような、時には恐怖に転じかねない雄大で圧倒的な姿をも描いている。ともすればわれわれは「眼」を「閉じ」て「金色の夢」の世界に逃避しがちである。輝く夢の中では誰も傷つかないからだ。しかし、そのような閉塞的な世界で作り出されるものは、飽くまで幻想の産物に過ぎない。ここ=自然の如き厳しい常世に於いても「愛と生はある」。その証拠でもあるかのように、第4連と第5連では、詩人の開かれた眼は次々と美しい自然の様子を泳ぐように自由に映じる。それは星々の輝く夜から、飛び回るような風の吹く朝まで閉じられることは無い。

無職を救って下さい。