見出し画像

町田康『猫のよびごえ』感想

※2022年10月執筆。

久しぶりに丸山ゴンザレス周り以外の人の本を読んだ。町田康なら小説も読めるかも知れない。が、無理して苦しむ必要も無いのでこの後もエッセイを読もうかと思う。
猫のエッセイは能町みね子氏以来で、かつその前に読んだのは町田康の『猫にかまけて』だった。猫は好きだが、積極的に他人の猫のことを知ろうとしていない。SNSやYouTube等に於ける殊更に贔屓している猫アカウントなども存在しない。しかしこうして猫のエッセイを読むと、改めて猫という生き物の美しさを思い知り、我が家に居る猫に対する愛情がより深まっていくのを感じる。

可愛いね。

『猫にかまけて』の時もそうだったが(これと本著との間に出版された『猫のあしあと』『猫とあほんだら』は何となく飛ばしてしまった。順番に読めばいいのに。あとで読む…)、町田家の猫は一貫して元野良猫や保護猫である。警戒心の強い彼らを多頭飼いする大変さは、想像を絶するものだった。環境を整えるために大掛かりなリフォームをする。普段から小まめに掃除をする。餌代や病院代も馬鹿にならない。元野良猫だった子は、病気を持っている可能性が高い。
その上、猫同士の対人(猫)関係にも気を配らねばならない。新入り猫が来て、先住猫たちがストレスによりマーキングを始めたり病気に罹ってしまったりした際のエピソードでは、一日中付きっきりで世話をしており、冗談抜きで仕事をする暇も無かっただろう。
可愛がり愛情を持って接するならば猫の存在が「ペット」であろうと「家族」であろうとその他何であろうと、その人の勝手であるが、どのようなスタンスであれ、命の重さや世話をする立場である人間に求められる責任は変わらない。猫は生きていて、確たる意志があり、そしてとても悲しい事実だが、いつかは寿命が訪れる。──そのどれもを、あるいはどれかたった一つであっても、人間の望む通りにはは出来ない。だから、彼らが生きている間に、人間は能う限りのことをしなくてはならない。

贔屓の猫アカウントのようなものは無いと書いたが、それでもSNSでフォローしている人の猫や友人の猫、リツイートで他人の猫の画像を見ることはよくある。
皆それぞれめちゃくちゃ可愛いのは言うまでも無いのだが、かねてより気になっていたことがある。それは皆さんのご自宅が大変綺麗であること。整理整頓的な観点やインテリアのセンスなんぞはもとより(これはわたしの能力の問題なので)、壁紙も綺麗だし、床に猫の毛の塊一つ写っていない。画像を拡大しても(そんなことをするな)やはり、フローリングに毛の一本すら落ちていない。

一応、わたしも対策は講じてきた。壁紙に関しては、まず壁紙を保護するシートを貼った。しかしシートごと突き破られて無駄だった。爪研ぎのおもちゃも買った。それ自体は使ってくれるのだが、壁紙で爪を研ぎたいという強い気持ち・強い愛はまた別の問題らしい。現在は完全に諦め、というか慣れてしまい、愛猫のなすがままにしている。
床掃除に関しては、無職のくせに毎日出来ていない。これは100%わたしの罪だ。でも、どんなに隅々まで徹底的に掃除しても、ものの数時間で毛の塊が床に落ちていないだろうか?そんなこと無いから綺麗なのか。皆さん毎日床掃除しているのか。わたしは3日置きくらい。無職で、大して広くも無い家のくせに。責任がどうこうとか偉そうに書きやがったくせに。今日は掃除機かけるぞ。今は深夜4時で近隣住民に迷惑なので、後で。そう、完全に夜型になっているのも良くない。もう何もかも良くない。猫よ、ごめんなさい。
町田家も整理整頓やインテリア的な観点ではとても綺麗だったのだが、襖はビリビリだし、フローリングに毛の塊も確認出来て、内心安堵した。とはいえ、我が家の猫は1匹、町田家は常に10匹前後の猫が居り、それにしては綺麗なのだが。毎日掃除機を2回かけていると書いてあった。悔い改めます。

町田家の愛猫の1匹であるシャンティーが、高価でお気に入りだった茶碗を割ってしまった時の話が好きだ。事件現場を発見した町田康は「二秒間、絶句」するのだが、その後「『シャン、シャン』と優しく言ってシャンティーの咽と頸の後ろを撫でた。絹のような手触りであった。ずっと撫でていたいと思った。シャンティーは咽を鳴らしていた。そんなことをしてシャンティーと私は生きていた。」と続く。理解(わか)る……。
我が家の猫は、まだ2歳とヤンチャ盛りのはずだが、赤ん坊の頃から非常に穏やかな性格で、物を破壊したことは一度も無い。それでもたまに、ちょっとした悪戯や、人間にとって困るような行動をとることはある。困るには困るのだが、可愛くて、怒る気には到底なれない。悪戯をした後に澄んだ大きな瞳でこちらを見上げ「フゥン?」と言われると(愛猫は、『ちいかわ』のうさぎのような鳴き方をする)、可愛くて愛おしくて頭をナデナデしてしまう。
この子のために、わたしも善い生き物でありたいと思う。

この記事が参加している募集

読書感想文

猫のいるしあわせ

無職を救って下さい。