見出し画像

「ゴールデンカムイではなく ゴールデン亀井 後編」

「箱根に行くんなら、家永さんと一緒に行ってやってくれ」
家永さんというのは旅館のお客さんで、口元にあるほくろが 妖艶なお姉さんという感じを醸している。白石は早くも くっつかんばかりになって話を聞いている。
「家永さんは箱根に何しに行くんですか?」
「手術 首をちょっと」
「あ そうなんですか 良くなるといいですね」
「? ええ ありがとう」

「白石 あのお姉さんと何話してたんだ?」
「ああ 病気で手術を受けるらしい。」
「そうか 顔色悪そうだもんな」
その家永さんが車で箱根まで送ってくれると言う。
一人で平塚まで来たにしては大きな車だ。おかげでオレたち四人も乗ることができるわけだが
話を聞くと、普段から車中泊をしているので、このくらいでちょうどいいのだと言う。ノマドな人なんだろうか

海沿いを離れると周囲は山ばかりになる。箱根が近づいたという感じだ。
亀井は日本の土地勘がないのか 質問ばかりだ。
「もう箱根なのか?」
「さっき小田原を過ぎたから、広い意味では箱根だよ」
なぜか亀井の隣に座った上杉が丁寧に答えている。
白石は助手席に座って家永さんの方ばかり見ている。
なぜ俺の隣は誰もいないのか。
「関所のあたりでいいのよね?」
「はい お願いしますう」
白石が気持ちの悪い猫なで声で話している。

関所に着くと家永さんはすぐに引き返して行ってしまった。
上杉のおじさんが話を付けてくれているというので、考古学者らしき一群をざっと探すけれど、見渡す限り観光客ばかりで、それらしき人はいない。
あそこの土方の人に訊こう。
工事現場が近くにあるのか 作業着姿の人が何人か座ってお茶を飲んでいる。
俺が考古学者を探していると言うと、リーダーらしき白髪の長身男性がギロッと鋭い目つきで睨んできた。
「平塚中継所から来たのか」
「は はい」
「俺は鶴見から来た」
「駅伝観てたんですね」
「ああ オレも箱根を走ったことがあるからな」
鶴見でたすきリレーをしたことがあるので、毎年鶴見に応援に行くのだと言う。
「復路は観なくていいんですか?」
「あのタイム差じゃもう優勝は決まりだろ」
たしかに そのせいでオレたちも埋蔵金の方に興味が移りかけている。
「お前たちは徳川の埋蔵金でも探しに来たか」
「え はい」
この土方さんは考古学者の手伝いをしているのだと言う。

考古学者の恩田氏はおじさんの大学時代の友人だと言う。
「アルバイト代出すから そこらへんを掘って」
適当なようだけれど、土器や柱の跡を探すわけではないので、刷毛で丁寧にという作業は必要ないらしい。頑丈な函か壺にスコップの先が当たればそれでいいという考えのようだ。
3時間も掘っていると腰が疲れてくる。
「明日 筋肉痛だな」
「だね」
上杉は楽しそうだ。
身体を動かすのが好きなんだろう。
「あ」
亀井の声がしたので、なんだなんだとみんなが集まってくる。
恩田氏がどれどれとそれを手に取ってからしげしげと眺めている
ふうっと息を吐くと
「終わりだな」

規制線の手前で 一通り警察に話を訊かれた。
亀井のスコップに当たったものは、ホテルに女性と泊まった後 行方不明になった男性の白骨化した遺体だったらしい。そんなことまで知らせてくれなくていいのだが、首を刃物で切られていたそうだ。女性の写真を見せられた時 総毛立つというのはこういうことなのかと冷静に考えたことを今でも思い出す。家永さんだった。
(了)



解題
家永 ゴールデンカムイに出てくる殺人ホテルの医師
鶴見中継所 鶴見中尉
土方(どかた) 土方(ひじかた)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?