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タボのご縁②~ロツァワ~

タボ僧院は、約1000年前にロツァワ・リンチェン・サンポ(958~1055)によって開基された108の僧院の1つである。
108のうち、最初に建設されたものであると聞く。

「ロツァワ」とは翻訳官の意味。
「リンチェン・サンポ」が彼自身の名前である。

彼のことを「ロチェン」と呼ぶこともあるが、これは「ロツァワ・チェンポ」の省略形。
「チェンポ」とはチベット語で「大きい」の意味で、
それに対応する「チュンチュン(小さい)」という言葉もある。

ロチェン・リンチェン・サンポと同期にロデン・シェラブという翻訳官がおり、
ロデン・シェラブは「ロチュン」と呼ばれた。

「ロチュン」と呼ばれるロデン・シェラブであるが、
彼も非常に頭脳明晰、記憶力に優れた人で、
ハリバトラ(獅子賢)の著された『現観荘厳論注釈(’grel ba don gsal)』を1日で暗記するほどの賢さであったという。

このロチュン・ロデン・シェラブが、ロチェン・リンチェン・サンポを褒め称える言葉を残していると、タボ僧院の院長先生が教えてくれた。

「ヴァイロチャナは果てしない空のよう。
チョクロと○○(翻訳官名)は太陽と月のよう。
リンチェン・サンポは金星のよう。
自分は地上を飛ぶホタルのようなものだ。」

ヴァイロチャナ、チョクロ、○○も、全て世に名を知られる翻訳官で、彼らの学識や智見を讃える詩である。

リンチェン・サンポとロデン・シェラブは、同期の人である。
当時、チベットには既に仏教が伝わっていたが、一時期衰退していた。
仏教を再度インドから招喚しようと、ガリ国の王は頭の良さそうな若者を27人選び、カシミール地方に派遣した。
暑さや生活環境の悪さで、25人は病に罹るなどして、死んでしまった。
たった2人生き残り、故郷へ帰還したのが、リンチェン・サンポとロデン・シェラブである。

27人の賢い若者を見出すために、当時のガリ王ハラマ・イェシェウは自ら馬に乗り、国中を探して回った。

国王が従者とともに馬に乗って村々を廻れば、多くの村人はそれを見物に来る。
子ども達も同様である。

ある村で、他の子ども達は王様の行列を見に駆け寄ってくる中、小さな10歳くらいの子どもが1人、他の子どもに同調せず独り遊びを続けていた。
王が近寄って話しかけると、子どもは恐れる様子もなく答えた。

「1人なのか?お父さんはどうした?お母さんはどうした?」
「お父さんは、話すものを取りに行った。お母さんは、見るものを取りに行った。」

「家にちゃんと帰れるか?」

「帰れる。」

「おまえの家は何処だい?」
「この山の上。」

子どもは目の前の道が続く小さな山を指差した。
そこには山頂の方向へ向かう道と、別の方向へ向かうく道が2本ある。

「どの道を行けばいい?」
「こっち(山頂方向)は時間がかかる。こっち(別の方向)の方が早く着く。」

たわいない会話で、子どもの言うことだと思い、王の一行は山頂へ向かう道を進んだ。

道の途中で地面にぬかるみがあり、更には泥沼のようになって、
馬ごと泥にハマった一行は非常に難儀した。
やっとのことで泥から這い上がり、坂道を上って山頂に着くと、
別ルートを通った子どもは既に山頂に着いていた。
遠回りはするが、泥沼のない歩きやすい道だったのである。

しばらくすると、子どもの父親が酒でいっぱいになった壺をしょって帰ってきた。
もうしばらくすると、母親が油をいっぱいにした壺をしょって帰ってきた。

子どもは、酒を「話すもの」と言っていた。
何故なら、お父さんは酒を飲むと饒舌になり、沢山話すから。

子どもは、油を「見るもの」と言っていた。
何故なら、お母さんは油で灯明を作り、針に糸を通して裁縫仕事をするから。

これを悟った王は、この子どもを只者でないと思い、
カシミールへの派遣員としてスカウトした。
その子どもがリンチェン・サンポである。

この物語も、タボ僧院の院長先生が教えてくれた。

サンスクリット語からチベット語への訳書を時期的に分ける時、旧訳と新訳に分けるが、
リンチェン・サンポより前の訳書は旧訳、
リンチェン・サンポ以降の訳書は新訳といわれる。

リンチェン・サンポはカシミールで仏教の顕密両教、医学などをよく修め、
偉大な翻訳官となり、更には多くの僧院を立てた。
彼はカシミールを2度訪れているが、2度目の滞在の最後に、多くの仏教や医学などのテキストとともに、32人のカシミール人絵師を故郷に連れ帰っている。
この絵師たちの描いた壁画が、現在我々が目にする、他の何処とも違うスタイルの仏画群である。

ロツァワ・リンチェン・サンポの生まれ変わりのリンポチェは、現在もいらっしゃる。
「ロチェン・リンポチェ」と慕われ、
多くの人々に法を伝えておられる。


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