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エピソード番外編 2023(1)30年前の週刊誌掲載の自分のコメントを振り返る「身体が喜ぶ健康法 西野流呼吸法」

読者は不思議に思われるだろう。
なぜこうした西野流呼吸法の内容を「こころをからだに繋ぐ呼吸法Bodywork」としてnote に連載しているのか?
今回は番外編でその背景を記したい。
 
先日部屋を片付けていて、もう捨てたと思っていた1994年8月7日の「サンデー毎日」が見つかった。この中に「健康法師の世界」という欄があり、荒井魏氏が医師から取材を続けるシリーズがあった。その中の西野流呼吸法の部分がこの号である。
 
因みにこのシリーズは1995年「名医の語る健康法」として社会思想社から出版された。当時の錚錚たる50名超の医師の面々が自身実践の健康法を述べておられる。現在もアマゾンで古書は入手可能である(URL)。
 
記憶ははっきりしないが、おそらく西野皓三先生が東北大学加齢医学研究所に赴任したばかりの若輩医師貫和を荒井氏に紹介なさったと思われる。
そして私の回のタイトルは「体が喜ぶ健康法 西野流呼吸法」である。ほぼ30年をへて、このタイトル内容「身体が喜ぶ」は現在も、全く実感として変わらない。
タイトルのみではない。私の語った内容も現在とほぼ変わらない事実を、久しぶりに再読して気がついた。
エピソード番外編として noteに再録をしておこうと考えた所以である。
 
そもそも西野流呼吸法、あるいは太極拳とか日本の合気道、相撲などの東洋的bodyworkや武道には、一見不可思議な稽古や現象がある。しかし自分で実践してみると、不思議でもない明々白々な現象で、催眠術やまやかしの類ではない。
これだけ明白な現象は20世紀の科学で必ず、10年 程度で解明されると当時は考えていた。
しかし20年、30年を経ても、少しも理解が進まない。
70歳を過ぎた頃「自分の人生の宿題」として、真面目に考えはじめた。
参考まで:その思考過程の一部は、電子ジャーナル「呼吸臨床」に連載した(リンク、https://note.com/deepbody_nukiwat/n/ncdad10974499)。
 
そうした経緯の原点として、この「サンデー毎日」掲載の内容を note に記して、現在の考え方も追加したい思う。

先ずは荒井氏のイントロダクション:
気で人が飛ぶ現象など、気の不思議さを考えさせるものの1つが西野流呼吸法。これを実践しながら医学、健康上の意味を考えている東北大学加齢医学研究所教授、貫和敏博さんに、その“未知なる可能性”について聞いてみた。

そして質疑が始まる:
-どんな呼吸法ですか?
貫和:私たちの身体はある時ポーンと出てきたわけでなく、38億年という生命進化の気の遠くなるような時間の上に成り立ったもの。本当は私たちの身体自体に想像もつかないような可能性、能力があるんです。それを引き出すものの1つが西野流だと思います。

このコメントで面白いと思うのは、30年を振り返って、当初から西野流呼吸法を考える上で「進化」という過去の身体時間を考える必要があると述べている点だ。我々の身体の内部に進化の古いシステムが残っているのではないか、という予感を述べている。
そして西野流呼吸法のような東洋系bodyworkはその旧いシステムにアクセスし、そこに潜む能力を引き出す可能性を指摘している。
 
だが一体、身体の中の「進化」の旧い部分とは何か?
それをどう研究するのか?
この30年間、踏み込めなかった理由である。
 
しかしコロナ期の偶然の気づきで、現在は一部が解明された。
それは20世紀後半の分子生物学研究が、神経細胞同定に応用され、脊髄中の神経細胞群の同定が一つの研究方向である。実際には神経細胞の同定に、その細胞が発現する遺伝子をマーカーとする研究である(先の連載URLの第12-3回に詳細記述、参考まで)。
実は遺伝子も進化で当然変化する。しかし同系機能の遺伝子(専門的にはOrthologとかHomologという)を調べると、同じ機能の神経細胞群と類推して進化を辿れるわけである。こういう方法論で、ようやく21世紀に移る頃、理解が進み始めた。

-なぜそれが可能?
貫和:西野先生( 西野皓三氏、同呼吸法の創始者)がもともと身体でメッセージを伝えるというバレエをやっていた、いわば身体のプロで、身体から体得されたところがあると思いますね。頭でなく身体で表現する、むしろ頭は抑制的な面があるでしょう。私自身やり始めてから身体がどんどん変わって行く。その1つが(終わって)うちに帰ってシャツを脱ぐと身体が喜んでモコモコッと膨れてくるような感じがあるんですよ(笑)。それはまさに頭じゃなくて身体が喜んでいるわけですよね。

このコメントにある、西野流呼吸法の基礎にあるバレエの30年前の気づきは面白い。
西野流呼吸法には、西野皓三先生の天才的身体性把握が基礎にあることは、実際に西野流呼吸法の基礎を実践するとヒシヒシ実感される。ときには3年、あるいは10年ぐらいして、この動作の意味はこういう点にあるのかと気づくことも多い。
 
こうした身体性は、一部「対気」という稽古を見ると一見武道のように見えるが、実は西野先生の身体脳力としてのバレエ身体操法がその基礎に取り込まれていると私は感じている。
この点が西野流呼吸法がほかのbodyworkとは異なる、大きな特徴であるとも考えている。
 
バレエの身体とは何か?あるいは広く舞踏の身体とは何か?
医師としてはあまり考えたこともないが、西野流呼吸法を実践しながら考えてきて、現在は呼吸と体幹の連携を考えている。この体幹操作がバレエや日舞などの舞踊には豊富に取り込まれている。読者も得心されるのでないか。

-呼吸運動の特徴は?
貫和:準備運動の「華輪」、それに続く(足芯呼吸=後述=応用の)運動に共通しているのは背骨を捻り、緩める動作が多いこと。バレエの要素が入っているのだと思います。背骨は関節の集合体ともいえるところですが、要するにそこをストレッチしている。それから呼吸には、ガス交換プラスアルファーがある。そのプラスがなにかよくわからないのですが、1つは全身運動であるということですね。横隔膜を下げ息を吸い込むわけですが、横から見ると、背骨がしなって動く。自律的な呼吸運動が同時に全身を動かしているわけです。

この部のコメントの気づきで重要な点は、呼吸運動が全身運動であるという理解である。
私は医師として呼吸器内科が専門であり、その担当臓器は肺である。
肺の機能は「ガス交換(酸素を取り込み、二酸化炭素を排出)」である。したがって肺の収縮・拡張という局所の運動を「呼吸運動」と考えるコンセプトは、呼吸器科医には根強く存在する。
しかしここのコメントにあるように、横隔膜運動だけでなく、側面から見ると呼吸運動は脊柱全体、さらにFasciaを通して全身に拡がっている。
 
Fasciaとは何か?
いまだに市民権のない医学用語である。近世医学で死体解剖すると、まず目につく大型の臓器を中心に医学研究が進んだ(だから腑分けともいった)。それ以外の身体のほとんどを占めるFasciaは学問からは放置されてきた。
一応は「筋膜」と訳されているが、「間質組織」とか「膠原組織」でもある。一方、広くは我々の形態そのものである。
現代医学における「木を見て森を見ず」の領域のようである。
また東洋が2000年にわたり気づいていた「経絡」概念も含まれる。21世紀の発展が期待できる領域とも言える。
 
ガス交換プラスアルファとしてのBodyworkは、一体、我々の身体に何をもたらすのか?
呼吸の動きは我々の身体の何にアクセスしているのか?
呼吸器科専門医の知らない「呼吸」にこそ東洋系Bodyworkの大きな意味がある。


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