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【基礎ゼミレポート】レヴィナス「不眠」#1(3/21)【ソトのガクエン】

前回まで読み進めてきた新田義弘論考が、ある程度区切りがつきましたので、今回からテキストを変更することにいたしました。新田論考にも言及され、現代思想でも頻出するトピックである他者論が興味深いということで、レヴィナスを読んでみようということになり、『実存から実存者へ』(ちくま学芸文庫)からの抜粋をテキストに選定いたしました。

「実詞化」の「1不眠」の箇所を読んでいきます。
これまで読んできた論文調の書き物ではなく、哲学者が実際に自らの思索を書き綴ったテキストですので、もちろん相当に難解ではありますが、参加者のみなさんが、新田論考を読んで現象学の素地がある程度できているため、楽しく読み・議論することができたように思います。以下、パラグラフごとのメモ書きです。


・実存のざわめきは「眠りが私たちの求めをかすめて逃れ去るそんな時に明らかになる。」(141)
・この現前は「事物や意識をともどもに抱擁する〈ある〉という普遍の事実なのだ」(141)

眠ろうとするけれども眠りに落ちることができない不眠の状況では、普段意識することのない時計の秒針の音、外を通り過ぎる車の音が気になり、なによりも空気中の稠密さ、ざわざわする騒めきの圧迫が差し迫ってきます。もちろん、厳密には、このように「音」や「騒めき」と名指すことすらできませんが、レヴィナスが実存のざわめきと呼ぶものは、経験的にはこうしたものであると思われます。

・現前という裸の事実が圧迫する(141)と「ひとには存在の義務がある」(141)

こうした実存のざわめきの現前と、「ひとには存在の義務がある」と書くこととのあいだには、やはり飛躍があるように思います。ただ、考えられる可能性としては、ホロコースト前後を経験し、とりわけ戦後を「生き残ってしまった」思想家・哲学者の多くが自らが生かされてしまったことを義務として反省する傾向、父子による血縁の継承というユダヤ的な意味での義務、あるいは、それらを超えたより形而上学的な存在そのものに対する義務といった観点からこの跳躍については考えることができるかもしれません。


・夜の〈警戒〉⇔対象に向けられる注意

日常的な意識は対象に向けられる注意であり、これと、実存のざわめきの現前に対する「夜の〈警戒〉」が対比されています。後者において自我は運び出され、内も外もないとレヴィナスは述べます。この部分は、フロイトやハイデガーの言う、恐怖と不安の対比に近い議論のように読めます。夜の〈警戒〉は、(不安と同様)対象を持ちませんが、それは無の体験でもない、むしろ、実存のざわめきである「存在」の現前、その体験であると言えるでしょうか。
こう考えると、思考する主体の意識とは「存在から引き籠もるための避難所をもつ可能性」(142)であるとレヴィナスは述べています。ならば、眠りの不可能性とは、そのような思考する主体の可能性(ないし自由)の妨害としての不可能性であると言える。また、レヴィナスは、実存のざわめき、存在そのものの現前を〈ある〉と言い換え、〈ある〉にはリズムがないと言います。逆に言えば、思考する主体が定位されてはじめて、〈ある〉に対して拍をとることができ、入眠も可能になると考えられます。

3 
・「こうして私たちは、〈ある〉という非人称的な出来事のなかに、意識の概念ではなく、意識が融即する〈目醒め〉の概念を導入する」(143)
・意識は目醒めの(☜この場合は、非人称的な目覚め?)一部なのだ」(143)
・意識とは「すっかり酔い醒めした、あの存在から身を避ける避難所なのだ。」(143)

通常、〈目醒め〉は、意識的な主体の側に位置づけられるわけですが、レヴィナスはここで、むしろ〈ある〉の側に、当の意識が融即する〈目醒め〉を位置づけます。意識は、自らが同一となって(かつ区別されて)いる存在、〈ある〉から身を引き離すことで定位されるということです。


今回は3パラグラフを読み進めました。以降、より明確になっていきますが、意識や主体を起点に置く現象学への批判的論点が端々に垣間見られる箇所であると思われます。

当初は、冒頭5頁ほど読んだら別のテキストに移る予定をしていましたが、レヴィナスのテキストが結構面白く、また、この先が気になるということで皆さんの意見が一致したため、しばらくこちらを読み進めていくことになりました。

次回は、3月28日(火)22時より、143頁の最後のパラグラフから読んでいきましょう。

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