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行き当たりばったり日帰り尾道旅

旅をするときはたいていノープラン。大雑把に行きたい方面だけ決めて、あとは気の向くままにその場その場で行きたいところを決める。

いつからかわからないけれど「せっかく旅行だから」と、これでもかというほど予定を詰め込むことがなくなった。

去年の夏と秋の間に広島出張が入り、翌日1日だけ現地で休みが取れた。レンタカーを借りて、ずっと行ってみたかった尾道という街へ行ってみようと思っていた。それ以外は決めていないし、調べてもいない。

とりあえずどこへ行ったら良いかわからず、お昼を食べそびれていたこともあって、どこでも良いから尾道ラーメンを食べることにした。

ラーメン屋に入るため、グルグル回ってやっと停めた駐車場から、ロープウェイがすぐ近くにあると気づく。何があるかわからないけど、とりあえず乗ってみることにする。

大掛かりな乗り場を予想していたが、たどり着いたのは小柄なビルの狭いエレベーター。降りたところがもうロープウェイの入り口だった。風が吹く度にとても強く金木犀が香る。東京ではまだ今秋の金木犀は感じていなかったから、嬉しさも増した。上っていくロープウェイの開きっぱなしの窓からは、山の斜面に並ぶ家々が可愛らしく見える。

頂上まで登り切ると、連なる山が見えた。少し遠くに様々な濃淡で並ぶ青い山々が昔から好きだ。きっと昨日と今日、今日と明日では色合いが全然違うんだろう。雲の形から、まだ夏も終わってないんだなと思う。

展望台のようなところを少し歩くと、反対側には瀬戸内海と向かいの島がすぐそばに見えた。海というより、太い川のようにも見える。もっと晴れてたらよかったのに、と思わないでもないが、一面を雲が覆っているおかげで、東京では感じられない空の平べったさが感じられた。

下りはロープウェイを使わず歩くことにした。ところどころに俳句が石碑に書かれていたりする。信じられないサイズに巨岩も多い。相変わらず金木犀の匂いが強すぎるほど香る。詠みたくなってしまうものがそこら中に散りばめられているから、ここで俳句や短歌が多く生まれたのも頷ける。

ゆっくり降りていくと、猫がたくさんいた。警戒心ゼロでのんびり昼寝をしているのを見て、こちらまで気が緩む。

一番下まで降り切ると、神社があった。一見普通の神社だけれど、よく見ると何か違和感がある。狛犬だ。こま...いぬ...?で合ってる...?

片方だけ風雨に曝されて劣化してしまったのだろうか、と思ってもう片方も見る。ん......?もしかして最初からこういうデザインなのか......?

あまりにも「概念」という感じの佇まいに思わず笑ってしまう。だけど足元を固定しているコンクリートが足枷のようにも見えて、ちょっとかわいそうな気持ちにもなる。

駐車場に戻る途中、気になる看板を見た。情報量が多い。「階上喫茶」ってなんだろう、初めて聞いた。

近辺で他に見るところも思いつかず、とりあえず車に乗って移動することにした。尾道といえば、一ヶ所だけ行ってみたいと思っていた場所があったのを思い出した。

道中、気になる地名を目にした。「歌」という場所があるなんて聞いたこともなかった。でもさっきのロープウェイ周辺のことを思えば、歌に詠みたくなる題材が豊富な場所だったんじゃないかと思う。

橋を渡って隣の「向島」という島へ行く。きっとさっき、ロープウェイで見えた、海を挟んですぐそこにあった島だ。鬱蒼と茂った森の中を車でどんどん進んでいく。

行きたかったのは「USHIO CHOCOLATL」。東京でもここのチョコレートは何度か食べたことがあったし、パッケージも可愛くて気に入っていた。本店が尾道にあると聞いていたので訪れてみた。辿り着いたのは廃校のような大きな建物だった。学校の階段のような懐かしさのある古い階段を上り、2階へ。外観からは全く予想できない空間がその一部屋に広がっていた。

不揃いでチグハグな椅子も愛嬌があるし、どの席に座ろうか迷ってしまう。窓の外には、まさに思い描いていたような「瀬戸内海」の景色が広がっていた。

もちろんチョコレートを買って、のんびり微睡ながらお気に入りの小説を読む。仕事の疲れが溜まっていたのか、本を開く度にうたた寝してしまい、起きてはチョコをひと齧り、という繰り返しで、静かでゆったりした時間を過ごした。

ゆっくりしたけど、まだ帰りの飛行機までは時間がある。さらにこの向島から橋を渡って、もう一つ隣の「因島」へ行ってみることにする。もちろん何も調べていない。

とりあえずナビの地図を見て適当に灯台を目的地に設定する。車を走らせて因島に入ってすぐ「海賊のなんとか(後半読めなかった)」という案内が目に入った気がした。不勉強なのでなんのことかわからなかったけど、灯台よりそっちの方が面白そう。そう思い、ナビを無視して、標識に沿って進んでいく。

何やらわからぬまま向かっていた先は村上水軍の城だったようで、到着する頃には閉館時間が迫っていた。天気が崩れてきているのか、日が暮れてきているからか、空は濃いグレーに染まっている。そんな背景も相まって、水軍城の存在感が際立つ。

結局外から眺めることしかできなかったけれど、たしかに瀬戸内海を攻めていくには見晴らしの良い場所だった。日本に海賊がいた、ということ自体も最近うっすら小耳に挟んで知った程度で、今も恥ずかしながらあまり知識はない。

だけど行き当たりばったりな旅だったからこそ、この水軍城に来て、はるか昔の海賊に想いを馳せることができた。きっと尾道のおしゃれなカフェをたくさんリストアップして用意周到な旅だったら、もしかすると人生で一度もこの因島に上陸することすらなかったかもしれない。

ノープランな旅だと、次の予定が決まっていないから、今いるこの場所を心おきなく堪能できる。そして焦ることなく、のんびり次の目的地を目指すことができる。なにかと忙しない社会人生活の束の間の旅だからこそ、行き当たりばったり、というくらいが、疲れることもなくゆったりリフレッシュできて良いのかもしれない。

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