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すばらしすぎる書き順

長男が小学1年生のときの話だ。

勉強は学校に入学してから教わればいいと思っていたので、入学前にひらがなすら教えなかった。幼稚園ものびのび保育が基本だったので「勉強を教える」というのは園の方針から遠かった。

だから、長男は入学当初、まったく字が書けなかった。

ところが、たいていの子は幼稚園や幼児教室でひらがなは習っているから、学校もそれを前提に進める。それは、まあ、しかたないのだけど。困ったのは、連絡帳だ。

みんな字が書けるから、先生は宿題を連絡帳に書かせる。長男はひらがなも書けないので、連絡帳には、ミミズが踊っているような曲線が描かれていて、判読不能。はあ。

それだけではない。
長男にはノートを1ページめから順に使うという意識も常識もなかった。
ぱっと開いたページに書く。だから、今日の連絡がどこに書いてあるのかも、わからない。はああ。

もちろん、本人に訊いても、首をかしげるばかりだ。はあああ。

私は早々にあきらめた。同じクラスの女の子の家に電話して、毎回、連絡帳の内容を教えてもらうことにした。

ある日の宿題に、漢字の「出」を書くというのがあった。

1年生のおけいこ帳は、大きなマス目で字の形がとりやすいように十字の点線が入っている。つまり、1マスが4分割されている。

長男は、いつも、ダイニングのテーブルで宿題をした。
その日も、いつものようにダイニングでおけいこ帳を広げ、私が長男の向いの席に座った。「出」を書くのだな、と思って見ていると。

鉛筆の先は、マス目の中心に降り立った。
 >めっちゃ小さい『出』を書くのかな?

すると、鉛筆はなんと真上に進み、マス目の外周とぶつかると、ぴたっと、そこで止まった。

長男は、よく、線を下から上に引くことがあった。
幼稚園の先生から「すごいんですよ。機関車を描くんですけど。向かいに座っている私の方が正面になるように描くんです」と言われたこともあった。

だから、下から上に向かって鉛筆が進んだのも、いつものことだと思い、上半分に小さい「出」を書くのかな、と思ったのだ。

ところが、鉛筆はまた、マス目の中心に降りた。
 >えっ?
そこから、右に進み外周とぶつかると、直角に折れて上に向かったのだ。
 >ええーっ!

また、中心に戻ってきた鉛筆は、今度は左に進み、マス目の端で直角に折れた。「出」の上半分の完成だ。
 >ええええーっ!

次は中心から真下に進みマス目とぶつかると、今度は止まらず、そのまま右に折れ、外周までたどり着くと、直角に上がった。
 >おお!

あとは、同じように最後の一画(?)をコキコキと書いてできあがった。
 >おおおおお!!

もう、びっくりで声も出なかった。

長男の書き方は、なんだか芽の出るみようすを見ているようで。
「出る」という動き、そのものだった。子どもの頭のやわらかさ、発想の自由さに、ただ感心し、感嘆した。

こんな書き方を目の当たりにすると、「書き順」なんていう前に、この豊かな発想を守ってやりたいと思った。



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