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恐ろしく、美しい、祝祭

映画【ミッドサマー】を見た感想

※ネタバレを含みます。









はじめから言葉に形容しがたい音が、ぐっと不安な気持ちにさせていき、暗い景色から一転、明るい祝祭が目の前に広がった。

BGMをかき消すほどの大きな電話の音や、逆さまの道、自分の目が錯覚を起こしているのでは、と何度も確かめてしまう揺れる背景。

バッドトリップする主人公・ダニーが走っているのを見て

「これは…三半規管弱い人は酔う映画だ…!」


「明るいポスターに騙されてみた人が、途中退場するぐらいのヤバい宗教映画」

という事前情報を得た私は、「どうせならディレクターズカット版や!」と意気込んで鑑賞。メンタルは鋼、日に日に増す自己肯定感、総じてそれを【能天気】と自他ともに認める私は颯爽と劇場に。

既に鑑賞した人からは「ハッピーエンドではない。もう1度見ろと言われたら断る。」と聞いていたので、邦画「怒り」を鑑賞した後のような気持ちになるのでは、と推測。


結果:私にはハッピーエンド映画だった。


結論については、この映画を「ハッピーエンドではない」と答える人の気持ちもよくわかるし、ハッピーエンドだと思っている人のほうが少数なのではないか、という思いもある。

(宗教や、歴史的な観点から、ルーン文字等についての考察が述べられているが、私はそういうのよく分からないので、そういうのが知りたい方は別の方の記事を見るのがオススメ)

物語は冒頭の主人公・ダニーの妹が自殺をし、それに両親を巻き込んだところから始まる。双極性障害を持ち、日頃から精神的に不安定だった妹と連絡がとれなくなったことから、自身も抗不安剤を飲み、恋人・クリスチャンに救いを求めるダニー。

まずこの時点で、「妹が精神的に不安定で、っていうわりに自分もだいぶ不安定やないかーい」と突っ込みを入れざるを得ない。

そもそも「心理学専攻」と聞くと、「じゃあ他人の心読めるの?」と聞いてくる人がいるが、そんな簡単に人の心が読めたら苦労はしてない。(心理学科卒業生の愚痴)

どちらかというと私が行っていた学科の半分ぐらいの生徒は、自身も精神的に不安定な人が多く、「人の心を知りたい」よりかは「自分の心を深く理解したい」というスタンスの人が多かった気がする。

だから、ダニーが心理学科を専攻している、と聞いても、両親や妹の死に限らず、「うん、そんな感じだね」と納得。不安が顔に現れて、「怒ってない」っていうわりに相手を責め、最終的に「私が悪いの、ごめんなさい」という流れや、それをもって相手に罪悪感を擦り付けるようなダニーの姿は、どこか見覚えがある。

自分の意見を言うけれど、周りの言葉に影響されて、簡単に覆してしまうダニーの姿は、何とか保っている不安定さが滲み出る。


ディレクターズカット版は約170分あるが、最後の20分ぐらいまでは、ダニーは心からの笑顔を見せない。

メイ・クイーンを選ぶダンスで、トリップ後にただ「踊る」という動作で、すっきりしたような表情を見せる。(そのあと、どん底に突き落とされるが。)

そして、最後の儀式の後の、あの笑顔だけだ。

両親と妹を亡くした後も、彼女が唯一心を許せるのであろうクリスチャンでさえも、【心の拠り所】にはならない。

一緒に嘆き、一緒に喜び、一緒に哀しむことができる、そんな人を求めていたダニーにとって、あの祝祭で起きることや、あのコミューン自体に【共鳴】してしまうことは、求めていたものすべてなのだろう。


それにしても、クリスチャンとマヤのあの儀式を見たら、わらっちまったけどな~~~~!!!

鑑賞したという友人たちに聞いても、みなあのシーンでは(何を見せられているんだ?)という疑問が浮かんだ、と言っていた。

私は笑いながらも「これが独創的なエンターテイメントの頂点!!!」と思わずにはいられなかった。

ルーン文字しかり歴史的な背景を踏まえたうえで、このようなストーリーを生み出す頭の構造が見てみたい…

常識をも覆すエンターテイメントの誕生に、スタンディングオベーション。


恐ろしく、美しい祝祭は、毒々しく、眩しすぎるぐらいだった。


ちょっといいもの食べて、もっといいヒトになりたい。