見出し画像

既読の文字が返事の代わり

遡ること、約10年前。

どんな流れだったのか忘れてしまったけれど、彼氏が出来た。
そこそこ楽しい高校生活を共にして、1年ぐらいでお別れした。

別れてから1年ぐらいは連絡をとることもなかったが、友人の自宅に集まった事から再会し、それ以来、私が弱音を吐ける相手だ。

先日、「なぜ私たちは付き合ったんだっけ?」と聞いたら、彼もまたその流れを覚えていなかったので、きっと似たもの同士なんだろう。

私の住む地方都市の、臭くて、くたびれて、淀んだ雰囲気を纏った夜の街で、彼は卒業後、働いていた。

当時は、「夜の仕事なんて」と思っていたけど、付き合っていた時から、アンダーグラウンドの世界に、どこか憧れを持っているような人だったので、彼が生きていくのはそこしかないのだろう、と思った。

別れて、再会してから、私は彼の携帯に何度も何度も連絡した。

「今日は、ココイチでトッピング全部乗せを食べた。会計がえぐい。」

「スノボー行ったら、派手に転んだ。筋肉痛やばい。」

「【いまを生きる】って映画でめちゃくちゃ泣いた。オススメ。」

大学生をやっていた私と、いったん大学へ行ったものの、すぐに中退して夜の街に飛び込んだ彼では、見ている世界が極端に違った。

嘘を並べて、彼を騙してしまう大人がいるのでは、という不安を抱えながら、もしそうなっても驚かないだろうな、と思っている自分がいた。

私がどれだけラインを送っても、彼から連絡が来ることはほとんどなかったが、落ち込んでいたのは最初だけ。

私が送ったメッセージに「既読」のマークがつくことで、彼が生きているのだと安堵するようになった。

そんな関係が何年も続いた。

(ただし私に彼氏ができた時は、彼氏以上に気にかけている存在がいる、というのは可哀想な気がして控えるのが、私なりの鉄則だった。)


今では、既読のマークの後に、しっかりと連絡がくる。

「なぜあの時返事をくれなかったのか」と聞いたことはない。

私自身もなぜ、あんなにしつこく、彼に連絡をとっていたのか、最近まで分からなかった。

でも、先日、twitterで流れてきた、もちぎさんの話を読んで、腑に落ちたのだ。


付き合っていた当初から、彼は連絡をマメに返す人ではなく、夜の世界へ入ってしまったら、さらに学生時代の友人たちと連絡はとらないのでは、と気付いていた。


人生は全て順風満帆に運ぶとは限らない。

彼がずっと夜の世界で生きていけるのか、どこかで不安になってやめてしまうのではないか、夜の世界の人を信じたくないときがくるのではないか。

やっぱり昼の仕事をしようか、と彼が考えたとき、彼はひとりになってしまうのではないか。

そんな時、自分に対して変わらない態度の人がいてくれたら、ここに自分の居場所があるのではないか、とちょっと救われるのではないだろうか、と。


今でも彼は、夜の仕事から抜け出せないでいる。

しかしそれは彼が望んでいることで、もうそこが居場所のような気がする。

それでも以前に比べて、学生時代の友人たちとお酒を酌み交わし、将来のビジョンを語り、学生時代の話を何度も何度も笑って話す。


既読のマークが返事の代わりだと、安堵するぐらい連絡をしていた当時、流行っていたmixiには「紹介文」といって、相手が自分のことを他の人に紹介する文がアップできた。

そこに彼から私宛てに書かれていたのは「親友で、真友で、心友。」という、いかにも平成生まれの学生たちが口にしてきた言葉だ。


それから、10年が経つが、彼と私の関係はいまだに代わっていない。

そして、彼は当時好きだった映画を、今でも1番好きな映画に挙げる。

それが私は、今でもちょっと嬉しい。


ちょっといいもの食べて、もっといいヒトになりたい。