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読書ログ【うたかたの日々、わたしを離さないで など】

 読書欲というのは、私には随分と波のあるもので、一か月も本を読まないでけろっとしていることもあれば、一日に一、二冊と読んでそれが一週間続いたりする。これが締切のあるときに来ると大変で、折角の読書のやる気を無理矢理削がなければならなくなる。今回は助かった。近日中に何も予定が無かったので、安心して本を選べた。
 今回タイトルにある「うたかたの日々」と「わたしを離さないで」は、友人におすすめしてもらった本だ。特に、私はフランス映画がどうにも苦手なので、人に教えてもらわなければ小説も読まなかっただろう。

うたかたの日々

「うたかたの日々」はボリス・ヴィアンのフランス文学。原題は "L'Ecume Des Jours". 直訳すれば「日々の泡」だ。
 この小説は、無邪気な子供のような残酷さと、タイトル通り夢の中のようなファンタジーさで構成されている。日本文学で近い雰囲気と言えば、すぐに太宰治の「斜陽」が思い浮かぶ。愛し合う若い男女の二組が、徐々に、それこそ陽が傾いていくように崩れていく物語だ。
 なんて堅苦しく書いてみたけれど、この本は面白い。最初は、不慣れな私のせいで、冗長にも思えるフランス独特の描写に合わなかったが、読んでいくうちに気付いたら世界に引き込まれている。この訳の分からない、けれど幻想的な。ストーリーだけではなくて、この本に浸れる。夜ふと本を捲っていたら、気付いたら夢の中で本を読み終えていたような。そういった本は珍しいだろう。
 物語は、ヒロインが「まぶたの端をぱちりとカットする」シーンから始まる。まぶた? と最初に全員が思う。瞼だ。眉でも睫毛でもなくて、瞼だ。
 この不可解さを登場人物は気にも留めない。この私たちの生きている現実世界と、彼女らの生きている泡沫の世界は、随分違うように見えて、実はとてつもなく似ている。

わたしを離さないで

「わたしを離さないで」も残酷な物語だ。これは、どこまでネタバレしていいか分からない。最初から全てが謎に包まれているからだ。「ヘールシャム」「ポシブル」、一見しただけでピンとくる人はかなり少ないのではないか。何だこれ、と辞書をとることは、個人的にはお勧めしない。主人公たちも何も分かっていないのではないか。
 物語自体は随分とテイストは違うけれど、「うたかたの日々」と根底に流れる空気感、というか、何かしら通じるものがあると思う。詳しくは言えないけれど「約束のネバーランド」が好きな人には絶対におすすめだ。
 細部まで緻密に描かれた表現、ふと回収される伏線、明快だけれど説明調ではない設定、この本を読み終えたとき、なんてこの人は素晴らしい小説を書くのだろうと感動してしまった。

 他にも、人生で初めて恋愛小説を買ったりもした。書き途中の小説の資料にと短編集ということで「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」という本を見つけた。ものの一、二時間ほどで読み終わってしまったけれど、この本にお金を払ってよかった、と満足した。テーマとしては「木曜日にはココアを」あたりが近いだろうか。頷けて、寄り添えて、寄り添ってもらえて。この本は、今恋をしている人には、そして今恋を探している人には、ぴったりな本じゃないかしら、なんて。

 今は「ノルウェイの森」を読んでいます。恥ずかしいことに村上春樹は「ねじまき鳥クロニクル」しか読んだことがなくて、以前知り合いが面白いと言っていたので借りてみました。まだ上巻の四分の一くらいだけれど既に面白い。こういう退廃的とも言える恋愛、最高だ……。

P.S.
ノルウェイの森、読了しました。天才……!
起承転結が激しいわけではないのに、どうしてこんなに惹かれるのだろうか。純文学における読後の余韻はピカイチだと思います。


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