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【連載:地域交通のカタチ】脱炭素は不可避、40年先の未来を共に考える 〜ENEOSホールディングス 長沼亨 & 電脳交通 近藤洋祐

電脳交通は2023年4月4日、複数の新規投資家および既存投資家を引受先とした総額約12億円の資金調達を実施しました。創業から7年以上経った現在、株主の方々や提携企業の皆様は、地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などをどう捉えているのでしょうか。

弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談を通じ、各社にそのお考えを伺っていきます。

第2回はENEOSホールディングス未来事業推進部長でありENEOSイノベーションパートナーズ合同会社社長を兼任する長沼亨氏(ながぬま・とおる)をお迎えしました。エネルギー業界、タクシー業界共に避けて通れない「脱炭素」への向き合い方について語るとともに、大企業とスタートアップが協業していくうえで必要な姿勢についても意見を交わしました。


脱炭素は、ガソリン車が電気自動車に入れ替わるレベルの話ではない

電脳交通 近藤(以下、近藤):脱炭素に関する関心がここ数年で急激に高まり、多くの企業がビジネスモデルの見直しを迫られています。弊社は化石燃料を使うタクシーなど地域交通業界、御社はそれらを供給するエネルギー業界に位置していますが、この社会的な変化をどう捉えていますでしょうか。

ENEOSイノベーションパートナーズ 長沼氏(以下、長沼氏):脱炭素は受け止めなければいけない課題であり、それに向かって何らかの手を打っていくということに尽きると思います。単純にガソリン車がEV(電気自動車)に入れ替わるというレベルの話ではありません。

シェアエコノミーの実装や、部材も含めて環境負荷をどう減らしていくのかなど、多面的に取り組んでいかないと企業としての成長はないと思います。我々は元々、エネルギー・素材の会社ですが、それらにとらわれず、いろいろな可能性を探っていきたいと考えています。

近藤:ありがとうございます。我々も生き延びるためにもがいてきた結果、今のビジネスモデルがあります。徳島県というタクシー業界の売り上げが最も小さいとされる地域で誕生し、少ない人数で会社経営する仕組みが必要でした。自分たちが必要な省力化・省人化パッケージを開発してきましたが、当時から高齢化が進む日本全体で同じ状況になるという仮説を持っていました。

タクシーに限らず、あらゆる産業で同じことが起こっていると感じます。脱炭素社会を実現しつつ、人権の一つと数えられることもある「移動体験」を担保するためにはどうするのか。従来のタクシー業界に足りない機能を、我々のようなプレーヤーが基幹システムを提供する形で持ち込み、外部の人たち力も借りながら「こうやって公共交通を新しくしていこう」といった話がしたいと考えています。

長沼氏:現状では移動というニーズに対する取り組みの話をしていますが、我々としてもその先に何があるのかまで含めて話をしていきたいんです。タクシーが新たな事業に発展すれば、これまで行きにくかった場所に行けるようになって新たな観光地が生まれる可能性がある。それは必然的に経済全体の発展にもつながる。そういったリミットレスな話を一緒にさせてほしいと考えています。

将来は予測できないので、「こういう世界があったらいいな」で終わらず、意思をもってそういう方向にもっていきたいんです。ただそれは、我々だけではできない話なので、協業の中でヒントを頂きながら進めていきたいと思います。

産業を支える方々のハブになりたい

近藤:今回の出資の件になりますが、地域交通のプレーヤーがたくさんいる中で、どういった点を電脳交通に期待して頂いたのでしょうか。

長沼氏:弊社は売り上げの8割が石油製品を中心とするエネルギー事業で構成されており、これからの新しい事業を考えるのが我々の命題です。検討していく上で事業エリアを絞っており、中でも大きいのがモビリティです。全国1万2000を超えるサービスステーションというネットワークがあり、エネルギー供給を通じてモビリティのインフラを支えてきましたので5~10年先ではなく、30~40年先もモビリティインフラを支えていたいという想いがあります。

少子高齢化が進む日本では運び手の省力化・省人化は不可避であり、それらに対するソリューションを持っている電脳交通とであれば未来のインフラが作れるのではないかと考えました。

近藤:資金調達の際に重要視していたのは、日本の経済界を根底から支えているような企業様と共に歩むということです。経営環境が年々厳しくなるタクシー業界や地域公共交通の中で我々がハブとなり、様々な業界で活躍されている方々が参入し、知恵やノウハウを提供いただいて共に地域交通を支えることを実現する。だから、資本業務提携という形で、資金面だけではない形で多くの企業にかかわってもらえるようにしたんです。

我々も“選んでもらった”

近藤:一方で、大企業とスタートアップが協業する際の関係性には難しい面もあります。相乗効果を最大化していくため、両社がどのように向き合っていくのがいいと考えていますか?

長沼氏:あくまで私見ですが、大企業が自分たちの利益を求めすぎると課題が生じるのではないでしょうか。我々はCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ですので単純な財務リターンだけが目的ではありませんが、出資先がまず事業を軌道に乗せられないと、その後での我々とのコラボレーションもないでしょう。ご一緒させていただく際の思いは、「(出資先の)皆さんのために何ができるのか」ということから入っていくのが良いのではと考えています。

近藤:スタートアップ側としても、株主と協業面で約束したことを実現するフェーズまでしっかり取り組みたいと考えています。一方で難しさがあるとすれば、例えば大きなプロジェクトに挑戦する際に、様々な利害関係の調整が発生します。その調整に時間がかかることが多く、当然計画通りのスケジュールが動かないこともある。そういう状況でも最低限約束した水準まで到達するよう、両者とも必死に対応する姿勢が大事だと考えています。

長沼氏:我々も「選んでもらった」と考えています。大企業側もバリューを出して、お互いに価値を提供し続けないといけないのではないでしょうか。御社に対しても、ちゃんと言うべきは言いますが(笑 そんな風に、お互いにモノが言える関係性が必要ですよね。

大きな設備投資がなくても「化学反応」は起こせる

近藤:デマンド交通や自動運転など新しいテクノロジーやサービスについてはどうお考えですか?

長沼氏:将来的に移動の課題を解決するためには自動運転やデマンド交通は避けて通れないし、そこに向かっていくのかなと思います。世の中のみなさんが不便なく自分の乗りたいときに乗れるのが心地いい社会ですよね。それを実現するための手段がデマンド交通だと思いますし、その萌芽をつかめるのが電脳交通ではないかと考えています。

我々もサービスステーションというリソースがあるので、これがデマンド交通の拠点になる等、何らかの形で接点が持てればいいと考えています。弊社として運営しているステーションはなく、どれも地元に根付いてらっしゃる特約店・販売店の皆さまが経営しています。最後の最後まで生活を支える拠点として残るのがサービスステーションだと考えており、電脳交通とはお互いのプラスになるような施策が考えられるのではと思います。

近藤:我々は地域で事業展開をしており、巨大なインフラを全国展開している企業と組むことで、そこまでお金をかけずに地域住民の生活の質を高めたり、高齢者の行動を活発したりするなど業種を超えたコラボレーションが生み出せると思います。そしてそれが、スタートアップと大企業のCVCとで追及するべき課題であり、軽快なフットワークで動けるスタートアップが全国で起こすべき化学反応だと個人的に考えています。

これまでは業種や業界団体を超える枠組みでの情報共有や課題感のすり合わせはあまり多くありませんでしたが、協業する分野が広がれば必然的にこれまでは届かなかった社会課題も解決できるように発展していけます。デマンド交通が拡がれば、地域交通の運行コストを下げられるなど解決に向けて進む課題がどんどん増えていきますし、その更に先には、例えばタクシーが救急医療の稼働をサポートするなどマルチタスク的な世界もあり得ると思います。

長沼氏:電脳交通はそうしたコラボを生むための素地になりうると考えています。地域交通が廃れれば、地域住民は必要最低限の移動しかなくなる可能性がある。そうなれば地域の経済活動は縮小せざるを得ません。単なる「移動」だけではなく、そこにプラスアルファが生じるといろんな業界とのコラボレーションが生まれる可能性が高まります。電脳交通の活動が広がると社会が明るくなる可能性があると期待しています。

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最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。
次回の記事も楽しみにお待ち下さい。

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