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【連載:地域交通のカタチ】課題の最先端「徳島」だからこそ、日本で一番になれる可能性がある〜徳島大正銀行 板東豊彦氏 & 電脳交通 近藤洋祐〜

電脳交通は地域交通の維持・存続を目指し創業から7年以上経過、累計3度の資金調達を実施し、多くの企業と資本業務提携を締結しました。

わたしたちが向き合う地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などを株主の方々や提携企業の皆様はどう捉えているのか?弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談を通じて浮き彫りにする連載【地域交通のカタチ】

第8回は徳島大正銀行頭取の板東豊彦氏(ばんどう・とよひこ)をお迎えしました。中小企業のデジタル化を支援するため専門部署を立ち上げた徳島大正銀行のDX戦略をお伺いするとともに、徳島の地域交通の現状や地域を支える地方銀行の在り方などについて議論を深めました。

12年前に徳島で見た景色を、全国の課題解決に生かす

電脳交通 近藤(以下、近藤):少子高齢化の進む徳島の金融機関として、地域交通の現状をどう見ていますか?

徳島大正銀行 板東氏(以下、板東氏):徳島は電車が走っていない唯一の県ということもあって公共交通機関が限られています。バス路線も早い時間に終わったり、1日に3本しかなかったり、というルートが沢山あります。そういうところに住んでいる人からしたら、自家用車以外に交通手段がありません。

タクシーもドライバーが減って人手不足がさらに想定される中で、ライドシェアも含めて、地域の人たちが地域の中で守ることになっていくと思います。そのために、電脳交通のような仕組みがないとネットワーク維持は難しいと思います。

より効率的にどういうふうに集客をしていくのか。それも全部をボランティアで埋めていくことはできず、地方公共団体が全て税金で賄うことも難しい。ある程度の収益を上げながら、公共事業者的な機能をどうやって維持するのかというところに焦点があると思っています。

そして、徳島県の行政も含めて、そういう高齢化・人口減少の深刻なマーケットだからこそ、それを克服することで日本全体のトップリーダーになっていきましょうということを周囲から言われています。まさにピンチはチャンスなんです。そんな中で、電脳交通は徳島という地域で生まれたビジネスモデルだからこそ、全国で一番になれる可能性があるコア事業になっているんだと私は認識しています。

近藤:ありがとうございます。2010年に私がタクシー業界に入った当時から、徳島で供給不足問題に向き合ってきました。既に担い手不足が進行し、市場自体も他地域に比べると規模が小さい状態だったので。とはいえ、タクシーをライフラインのように利用されている方々もいらっしゃったので、そうした人たちに対して、経済性を担保しながら持続性を高め、より利便性を高めていくための仕組み作りを考えてきました。今現在、全国的に供給不足が問題視されている状況で一定のポジションを取れているのは、そういったテーマにいち早く取り組んできたことが大きいと思います。

供給をどう安定させるかと考えると、結局は集客と配車の最適化に尽きます。事業者の多い都市部のデータは比較的取りやすいですが、地方は難しい。電脳交通は2023年末時点で46都道府県にサービス展開しているので、いち早くデータを収集・抽出して解析できる体制が取れます。徳島で事業を始めた約12年前に見ていた景色が、そのまま全国の課題解決に展開できているのは強みですね。

自前主義ではなく、DXのハブになりたい

近藤:御行の取り組みを拝見していると「デジタル化」を非常に重視されているように感じます。2023年には専門部署も立ち上げていますが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

板東氏:まず中小企業にとってデジタル化は避けて通れない課題です。大正銀行と徳島銀行が合併した直後に、コロナ禍で大阪と徳島の往来ができなくなりました。このインパクトが非常に大きく、予定していたリアルの研修が全部ZOOMに切り替わるなど、様々な局面で意識を変える必要がありました。

この経験をしたことで、まずは行内のデジタル化が必要だと思いました。中小企業の経営者は「デジタル化」って取引先から言われても、何から手つけていいか分からないという声が聞こえてきています。そこで我々がお客様を支援してデジタル化を進めようとしても、まず銀行自体がすごく遅れていてアドバイスができていなかったので、それができるような体制を整えました。

間接金融かつソリューションビジネスの一環としてデジタル化についても本気になって取り組んでいます。基本的な知識や提携先の紹介などを通じてハブ的な機能を提供していきたいと考えています。全部を自前でやろうとは考えていなくて、入口を幅広くしてジェネラリスト的に「専門的なところに繋げていく」という役割を果たしていきたいんです。

近藤:頭取のお話を伺っていると、電脳交通もずっと家業でやっていた典型的な中小企業がデジタルを軸に、自社のビジネスモデルをトランスフォーメーションした一例という見方ができますね。

板東氏:まさにその点に個人的に共感して、電脳交通から刺激をもらっていました。徳島銀行と大正銀行の合併から丸4年が経過しましたが、2023年4月から新しい経営計画を始めています。普通だと営業戦略であるとか縦軸で考えるんですけど、初めてデジタル戦略という横軸を刺しました。全ての戦略に横断していくイメージですね。コロナ禍という激変した外部環境に加え、合併という内部環境の激変も経て、デジタルが欠かせないということを体感しました。その結果、地銀としてデジタルを軸に社内外に対して提供できる価値を増やしていきたいという意識でいます。

リスクを取って前に進もうとしている人たちを応援

近藤:電脳交通は徳島の中で移転する形で新しい本拠地を設けました。大きな資本を集めたり、ビジネスプランをより精緻化したりするためには、東京の経営者の人たちと切磋琢磨しなきゃいけないっていう固定観念が、若い起業家の間にあるように感じています。

ですが、私自身は「世の中に必要な存在になって、たくさんの雇用を生み出し、税金を納めて、地域に貢献していく」っていうのが、実業家のあるべき姿だと思っています。そして、たとえ地方でも優れたビジネスモデルと、それを応援してくれる金融機関、シナジーを産んでくれる事業会社との連携みたいなものが揃っていけば、十分成り立つと考えています。

板東氏:ありがたい限りですね。私達はどこまでいってもドミナント経営で、だからこそ地方銀行なんですよね。そこに根を張ってくれる企業が、経営者も従業員も含めて現地にいてくれることでしか経済貢献できない面があります。そういう企業は地方銀行にとってありがたい限りですし、どこまでも応援していくという使命も抱いています。

第二地方銀行は無尽会社や相互銀行を経てきた、チャレンジ型の金融機関です。1県1行しかなかった時代の後に始めているので、当然シェアもゼロから地元密着でやってきて今があります。我々自体がチャレンジしてきた歴史なので、お客様のチャレンジを支援していくのは元々得意なんです。創業支援に関しては、何でも相談に乗れるしフットワークが軽いよねっていうのが我々のカルチャーでもあったりするので。

近藤:我々はスタートアップなので、「崖から落ちている最中に飛行機を組み立てて、墜落しないようにしなきゃいけない」っていう状況がよくあります。一つ一つの意思決定が不安ですし、「本当にできるんだろうか」という悩みは形を変えながら創業からずっと続いています。そういったスリルと緊張を味わいながら1日1日を過ごしているんです。関係者が多いので案件の詳細を述べることは控えますが、ある難しい局面にあった時に頭取から「全面的にバックアップしますから」というメッセージを頂いたことがあり、それが何よりの励みになりました。

徳島大正銀からは融資も出資も頂いています。その結果を受けて、私としては自社の利益として捉えるだけではなくて、これから生まれてくる次世代の経営人材の方々にこのストーリーを伝えていきたいと思っています。本当に適したタイミングで資本投下することによって企業が成長したっていう実績もお伝えすることができますし、それ以上に、投融資の裏側で、経営者を奮い立たせるようなメッセージを送って頂いたことで大きく成長したという経緯も伝えていきたいです。銀行に対して「怖い人たち」とか「借金は悪いもの」といった固定概念を抱いている方もいると思いますが、頭取からのメッセージで「リスクを取って前に進もうとしていることを応援してくれているバンカーが確かにいる」と実感させて頂いたことが、経営者として後に生きる大事な教養になったと実感しています。

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最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。
次回の記事も楽しみにお待ち下さい。

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