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切手を解読して宇宙開発に詳しくなる

米ソ冷戦期の宇宙開発競争の話が好きだ。
好きだけど詳しくないので、切手の力を借りて無理やり詳しくなってみたい。

1950年代から70年代、アメリカとソ連の間で熾烈な宇宙開発競争があった。人工衛星も月面着陸も宇宙ステーションも火星探査も、2大国の軍事的、政治的対立(あるいは内政問題)から生み出された偉業である。
ご存知のとおり、映画をはじめとする大衆文化に与えた影響も計り知れない。今年はアメリカの月面着陸50周年ということで、アームストロング船長の伝記映画『ファーストマン』が公開されたりと界隈は沸き立っている。

僕も宇宙開発のエピソードは大好物なのだが、詳しくはない。昔から人名や年代を覚えるのが苦手で、ようするに「体系立てて歴史を学ぶ」ことを避けてきたのです。文系なのに。
ただ、モノがあると話は違う。料理を作りながらレシピを身につけるように、手に取れるモノをいじくりまわすことで体系的な知識を得られるのではないか。
ということで、手始めにネットオークションでソ連の宇宙切手を100枚ほど落札してみた。

レターパックで届いた。
これにさらにオマケがついてセットでワンコイン以下の落札額だった。オークションサイトには宇宙にかかわらず切手の出品が多い。いにしえから愛される趣味だけに、手放された経緯に想いを馳せてしまう。趣味人のみなさんは各自思うところあるのではないでしょうか。

一枚一枚のシートのレイアウトがシンメトリーになっていて、こだわりを感じる。前所有者の手つきか、もしくはもともとこの状態でセット売りされたものだったのかもしれない。

ちなみに、この時点では僕は一枚一枚の切手に描かれたモチーフが何なのかほぼ分かっていない。今回入手できたのがソ連国内で発行された切手のセットなので、ソ連が打ち上げたロケット、人工衛星、宇宙飛行士には間違いないだろう、という程度。アポロ11号はアメリカなので入っていません。

切手の情報を解読する

とりあえず、一枚拡大してみよう。

モチーフは人工衛星的なものということしかわからないけど、黒、マゼンタ、金のカラーリングと版画のような質感、ダイナミックな構図がたまらん。そうそう、自分の琴線に触れるわかりやすい魅力があると、俄然やる気が出てくるのだ。「もえたん」(ゼロ年代に一斉を風靡した「萌える英単語帳」)の手法である。
で、文字情報として何が書いてあるかというと、まず左下は切手の発行年(1968)、国名(CCCP=ソ連)、額面(6カペイカ、0.06ルーブルだそうです)で間違いないだろう。
金刷りの部分は、地球のまわりをまわるふたつの人工衛星(186と188)、30.X.1967は1967年10月30日のことかな?
一番上のピンク文字はロシア語わからんちんなのでグーグル翻訳アプリに読んでもらった。

おおっ、すごい!
「世界初。自動:衛星接続」!
古くて細かい印刷なのでちゃんと翻訳されるか不安だったけど、バッチリやないか!

ということで、この切手は1967年10月30日に世界で初めて宇宙空間で全自動ドッキングに成功した無人宇宙探査機コスモス186号、コスモス188号なのでした(ウィキペディアで裏を取った)。
し、知らねえ〜!

先述の映画『ファーストマン』でアメリカが有人でのドッキングになんとか成功するのが1966年だった。ドッキング自体は成功するも、機体が回転しだしてしまい、ライアン・ゴズリング演じるアームストロングが洗濯機に放り込まれたみたいになって観ている僕もちょっと三半規管にキた。
このドッキングというのが、当時一刻も早く月に行くために不可欠の技術で、それまでムーン・レースでソ連に遅れを取っていたアメリカがこの時にようやくソ連を巻き返したのだ。ソ連も翌年に全自動でやってのけるんだから、どっちもすごい。
で、アポロ11号の月着陸はたった2年後の1969年である。人類おそるべし(すべてウィキペディア情報)。
そして、一枚の切手から知識が広がるの、楽しいぞ。

切手でソ連宇宙開発史を振り返る

ここからは手持ちの切手を解読しつつ、ソ連宇宙開発史の重要なポイントを押さえていきたい。

世界初の人工衛星、スプートニク1号(1957)

宇宙開発競争の火蓋を切った世界初の人工衛星。宇宙空間から電波信号を発するというだけの代物だったが、敵対するアメリカを恐怖に陥れるには十分だった(スプートニク・ショック)。
1972年の切手には「宇宙時代15年」とある。このほかにも、区切りとなる年の切手にはレーニンの肖像と同じぐらいの頻度でスプートニク1号が描かれているので、ソ連宇宙開発の象徴であることがわかる。形が単純なのもイコンとしては都合がいいのかも。

宇宙犬ライカとスプートニク2号(1957)

界隈では人気者の宇宙犬ライカ(クドリャフカ)。世界で初めて軌道飛行をおこなった生き物であるが、ロシア革命40周年に間に合わせるという人間側の都合により、帰還する手段のない片道切符の宇宙旅行だった。1960年には後輩のベルカ、ストレルカが宇宙に行って、初めて無事帰還している。この頃までの宇宙開発レースは、ソ連がアメリカを大きくリードしていた。
切手は、実は最初に落札したソ連のセットに入っておらず、どうしても欲しかったので追加で落札したモンゴル製。模様のあしらいがアジアっぽい。

人類、宇宙へ(1961)

ご存知ユーリィ・ガガーリンが世界初の宇宙飛行をおこなったのは、犬が初めて無事に帰って来れた8カ月後。ちょっと急ぎすぎでは?? と思ったら、アメリカも約1ヶ月遅れで有人宇宙飛行に成功している。このあたりで両国が肩を並べたのだ。

切手は10周年のもの。描かれているのはガガーリンと打ち上げに使われたボストークロケット。ソ連とアメリカではロケットの形が違って、ソ連のロケットのほうがドシンとしていてかっこいい。飛んでるこけしみたいなのがガガーリンが乗っていた宇宙船ボストーク1号だが、あまり似てない。
円形に並んだ文字はグーグル翻訳アプリで読み取れないということがわかった。

世界初の宇宙遊泳(1965)

アレクセイ・レオーノフによる世界初の宇宙遊泳(船外活動)。宇宙船ボスホート2号の扉がガバーッと開いてるけど実際はそんなことはなかっただろう。宇宙船自体も実物に似てないし、なんかちょっとユルい。
ちょっと脇に逸れていいでしょうか。下の画像はライカの切手と一緒についてきたキューバの切手。

レオーノフの名前が入っていて、アッとなった。調べてみると実は彼、絵を描くのが趣味で、のちにプロの画家ソコロフと組んで宇宙切手のデザインをおこなっていたのだ。この切手は史実の宇宙開発というより、SF的イメージによる宇宙ステーションと思われる。
次行きます。

世界初の月面軟着陸(1966)

画面中央の横長の切手が、月面軟着陸に成功したルナ9号。月面から撮影したパノラマ写真を地球に送った。ソ連はこの後も無人の月面探査機を送り込んでいるが、現在に至るまで人間を月面に立たせることはできていない。
一方で、アメリカのアポロ11号でアームストロングが月に降り立ったのが1969年。これはとにかく映画『ファーストマン』を観てほしい。降り立つから。
切手が横長なのはパノラマ写真のイメージなのか。左半分で地球から遥々、月面の「嵐の大洋」に降り立ったコースが図解されていてグッとくる。

世界初の宇宙ステーション(1971)

月面レースの決着がついても、まだまだソ連の世界初は止まらない。世界初の宇宙ステーション、サリュート1号だ。宇宙船ソユーズ11号とドッキングに成功し、3人の宇宙飛行士を迎えるが
、地球帰還準備中の事故で3人は亡くなってしまう。
切手の上部には、「世紀の英雄として永遠に生き続ける」という感じの献辞が添えられている。
宇宙開発は多数の犠牲を払いながら進歩してきた。そのあたりも映画『ファーストマン』を観るといいとおもう。

火星探査M-73計画(1973〜74)

月の次のゴールは火星だ。60年代から火星への無人探査が試みられ、火星周回軌道への投入はアメリカが、火星への着陸はソ連が先んじた。1971年のことだ。
切手は1973〜74年、火星探査機マルス4〜7号(M-73計画)のもの。4、5号は周回軌道から、6、7号は着陸して探査を行う予定だった。6、7号は目的を果たせず、5号が一番仕事をしたらしい。観念的なデザインだが、なんだかアメコミのチーム感があってこれはこれで良いんじゃないでしょうか(ソ連だけど)。

アポロ・ソユーズテスト計画(1975)

1972年、将来の共同研究を見据えてソ連のソユーズとアメリカのアポロをドッキングする計画が、両国の間で調印された。緊張緩和の象徴的イベントである。実際のドッキングは1975年に行われた。20年弱にわたる冷戦下の米ソ宇宙開発競争にひとつの区切りをつけるものであった。
最後は、両国の宇宙飛行士が肩を並べる和気藹々とした感じの切手で締めくくりたい。

まとめ

今回まとめたのはウィキペディアを読めば書いてある話ばかりで、これで宇宙開発に詳しくなれたというとちょっとおこがましいだろう。だけど、実際に当時のモノを手元に置いて時系列を辿ると勉強の楽しさが増すことはわかった。当時の人と同じ目線で宇宙のワクワクを追体験できる気がする。

未解読の切手はまだまだあるし、アメリカのほうも入手したい。しばらく遊びに困ることはなさそうです。


#エッセイ #宇宙 #切手 #ソ連 #とは

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