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高齢者を対象とする聞き取り調査で注意すべきこと・その3(トラブルシューティング編)

さて、その2では我々の苦い体験についてお話ししました。高齢者対応の一般原則はその1にまとめておりますが、実際に「寄贈」という行為が発生したとき、考えられるトラブルシューティングについて考察しようと思います。

紹介者が公的機関でも信用しない

今回、京都文化博物館からの紹介でしたが、このような残念な結果になっています。学芸員さんもコレクションの持ち主がどんな人かまでは理解できていなかったようです。また、場合により、扱いにくい人を押し付けられるということもあります。判断は個人で、もしくは団体の合意で行うべきです。また、博物館などの紹介だからといって、不本意な対応に我慢するのは、少し違うと思います。

書類は各段階で取る・詳細な内容にする

今回、寄贈の段階で同意書をいただきましたが、それでも「目録の作り方が悪い」などのクレームがありました。目録の様式については、寄贈先に一任する、などの一筆を追加しても良いと思います。
また、寄贈品の整理手順についてもこちらの段取りがあるので、それについても記載すべきだと思います。一旦手放したものにそこまで指図を受ける筋合いは本来ありません。そして、人は本来、契約内容について自分サイドの解釈をするものです。高齢になるとそれが一層進むように思われます。
加えて書類はただ渡すだけでなく、読み合わせも必要であると思いました。

高齢者一人と相談しない

今回のⅠさんは一人住まいということで、付き添いの方がありませんでした。本法人の顧問を長くお願いしていた貞永定子さんは、付き添いというよりファンに近いお友達があり、どこに行くにも車で送迎されて私どもも大変助かりました。
お一人の方と話をすると、「言った・言っていない」でもめることがあります。Ⅰさんはしっかり話されるときもありましたが、記憶がつながっていないのでは?と思うときもありました。
急に機嫌が悪くなられたりすることもありました。寄贈もひとつの法律行為なので、認知症を疑う方を相手にする場合は要注意です。

認知症であれば寄贈が無効に

民法上、認知症を患った人は「意思能力のない者」=意思無能力者として扱われます。意思能力がない人の契約行為などは「無効」又は「取り消せる」ことになっています。
もし医師から「認知症である」と診断を受けると、法律行為が無効とされるのです。これはその1でも書きましたが、寄贈についてはやはり2名以上の方、それも寄贈品について何らかの関与ができる方(将来の相続人など)と相談するのが良いと思います。この問題への対策は、最初にいただく書類に、「寄贈者の都合による返却の場合には、返却にかかる費用をご負担いただきます」などの記載をしておくのも良いかと思います。
また、小さい法人や団体でも、法律の専門職の方に相談できる体制を作ることが必要でしょう。

高齢者のわがままに付き合う必要はない

こうしたことは誠に言いにくいのですが、人にかまってもらうためにコレクション提供を申し出る方があります。Ⅰさんもその一人ではなかったかと思います。お一人暮らしで、生活にも困っていないとすれば、求めるものは賞賛や名誉です。学芸員や法人職員がコレクションを褒めたりするのは、楽しいことであったと思います。
私共への寄贈が白紙になった後で、所蔵の子供服を服飾専攻の大学の教員の方に貸し出されたと伺いました。その方には同様に褒められたりで良い気持ちを持たれたことと思います。
半面、思い通りにならないこと(4箱の中身がすべて古雑巾であったことの指摘など)があると、一転して敵意を持たれるようになります。我々も他の作業をしながら、目録作りや整理を引き受けているので、何もかも希望通りにはできません。
もしこれをお読みの方がこうしたことでお悩みなら、迅速にお返しするのが一番です。問題を起こす人はずっと起こし続けます。その時間を、点数は少ないが好意的な寄贈者に向けた方がずっと有意義です。
寄贈を受けるというのは、頂くことですが、何もかも相手の言うなりになるのとは違うと思います。今回のように、お金があるから、有力者(政治家や有名作家など)の親戚だから何をしてもいいという人に出会ってしまうこともあります。その時もさっさと逃げるのが賢明な方法です。

良い相手と良い結果をつくる

追悼を兼ねて、本法人の顧問を長くお願いしていた貞永定子さんのお写真を掲載させていただきたいと思います。これは法人事務所が銀閣寺にあったときの模様です。神戸ファッション美術館の展示「華やぐこころ・大正昭和のお出かけ着物」展の準備をしています。監修にわざわさ宇治市からきて下さり、いろいろ指導していただきました。

展示品整理の様子

今では懐かしい画像で、筆者の宝物です。

華やかな着物と帯

貞永さんは97歳というご高齢で、令和2年にご逝去されました。謹んでご冥福を祈りたいと思います。

展示品の管理という作業もこのように忍耐の連続です。皆様が良い調査先に出会われ、良い結果が得られますようお祈りしております。

似内惠子(特定非営利活動法人京都古布保存会 代表理事)
(この文章の著作権はNPO法人京都古布保存会に属します。無断転載・引用を禁じます)
その3からお読みの方は、その1とその2も御覧ください。ご理解が深まると思います。
https://note.com/denshoubunka/n/n6a6425a1a0a6

【関連サイト】
NPO法人京都古布保存会HP
http://www.kyoto-tsubomi.sakura.ne.jp/

NPO法人京都古布保存会FB
https://www.facebook.com/kyoutokofu


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