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「数学」にみる「クリエイティブ」の緒(いとぐち)

こんにちは、Dentsu Lab Tokyoの尾崎賢司です。
プランニングからプロデュースまで、広告から事業まで、短期的なものから長期的なものまで幅広い領域・業種の仕事を役職関係なく自由にさせてもらっています。

今回、私の好きなものの一つである「数学」の話を書きたいと思います。

思い返せば、数学好きの祖父が数遊びの問題を出してきた小学生の頃から夢中で、図形の問題などは解けるまで徹夜していたくらいでした。今でも、1本の補助線であっという間に解けたりしたときの感動を覚えています。

広告の仕事に就いて、しばらく「数学」に触れていませんでしたが、何年か前に長期休暇を取った際に、「数学の文化史」という本に出会い、再び「数学」愛が再燃しました。そこから、様々な数学の書籍に出会い、ロマンティック数学ナイトのようなマニアックなイベントに足を運んで、様々な愛あふれる人たちの話を聞いているうちに、「数学」と今仕事として携わっている「クリエイティブ」に親和性や繋がりがあるのではないかと思い始めたのです。

ここからは、完全に持論になりますが、「クリエイティブ」に生かせるかもしれない「数学」の考え方を、“数学の問題”と“過去実施した事例や私が嫉妬した事例”を紐付けて書いていきます。全6問の問題集形式で書いていきますが、数学の答えではなく、その考え方が大事なので、数学的な解法は一切覚えていただかなくて大丈夫です。

Q1.  2⁵⁶と5²⁴ どちらが大きいでしょうか?

答えは「2⁵⁶」です。【因数分解】を使えば、2⁵⁶–5²⁴>0が導けるからです。ある対象を、それを構成する要素に分解する【因数分解】の考え方は、物事や企画を考える際に非常に役立ちます。

Q1-2 流れ星新幹線 を因数分解せよ。

回答例)
流れ星新幹線=「九州一体から10周年」×「コロナ禍」×「星に願いを」×「速さ」

私が最近最も嫉妬した事例でもある「流れ星新幹線」。九州新幹線10周年を記念して実施されたもので、空に向かって光を放つ流れ星新幹線が一夜限りで九州を縦断する、というシンプルだけどハートウォーミングな企画です。直感的にも素晴らしい企画なのですが、なぜ素晴らしいのかが因数分解すると見えてきたりします。上記の回答は私の個人的解釈です。因数分解の仕方は人それぞれだと思いますので、ぜひ考えてみてください。

JR九州 流れ星新幹線

Q2.  1+3+5+・・・・・+199=?

答えは「10,000」です。地道な計算でももちろん答えられますが、実は図形への【変換】を使えば、答えがひと目でわかります。1からn番目の奇数までの奇数の和は、一辺がnの正方形の面積に等しいのです。

図形変換

Q2-2 漫画コンテンツのエンタメ以外の使い方を考えてください。

回答例)
英語多読のための教材

集英社のスタートアップアクセレータープログラムにて採択され、最近ローンチされた英語多読学習サービス「LANGAKU」。英文を大量に読み込む多読学習を楽しく続けられるサービスとして注目されている。今までの面白いエンタメ読み物としての漫画から楽しく続けられる英語教材へ。視点を変え、用途を【変換】することで新しいビジネスを作った羨ましい事例です。

集英社スタートアップアクセレータープログラム 英語多読学習サービスLANGAKU

Q3.  立体をつくるための軸の数は?

答えは「3」です。これはイージーでしたね。1軸(1次元)だと線、2軸(2次元)だと面、そして、3軸(3次元)だと立体ができます。【3】という数字には実に多くの意味や言い伝えがあり、歴史的に見ても非常に重要視されてきました。ここでは、その説明は割愛しますが、生活の中でも【3】という数字を意識すると良いことがあるかもしれません。

Q3-2 「3」が特別な数字である理由を教えてください。

回答例)
直感的に把握できる最大の数であり、立体的に表現できる最小の数だから。

人間は少数の物について、その個数を瞬時に把握する能力(心理学の世界でスービタイゼイションと呼ばれる能力)があり、近年の認知神経科学の研究によると、三個以下の物の個数を把握するときには、それ以上の個数を把握するときとは違う固有のメカニズムが働いているみたいです。つまり、直感的に把握できる最大の数ともいえます。それでいて、上記Q3で数学的にも言及したように立体を構成する最小の数で、物事を立体的に表現することができます。そういうこともあって、かの有名なスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチのように【3】はスピーチやプレゼンテーションで大事な数として、よく活用されています。

Q4.  オイラーの等式を証明せよ。

「eⁱπ=-1」(πは上付き)という【オイラーの等式】と呼ばれる式があります。永遠に割り切れない数である自然対数eと円周率π、そして人間が想像で作り上げた数imaginary numberである虚数iという、生まれも全く違う3つの数の関係性を美しく導いたこの等式は、数学史上最も有名で美しい等式の一つとされています。ここでは、この等式の証明よりも、この美しい等式の存在自体を知っていただきたくて問題を出してみました。

Q4-2  Win-Win-Win、三方よしな事例を挙げよ。

回答例)
どこかにマイル

JALが提供するサービス“どこかにマイル”は、“中途半端にマイルが余った顧客”と“空席を埋めたい航空会社”と“地方活性のために足を運んで欲しい地域”という三者を、『余ったマイルでどこかに行けるかもしれない体験』で美しく繋ぎ合わせ、三者にとって嬉しい結果をもたらしたサービス。相容れなそうに見える3者にとって嬉しい状態、Win-Win-Winや三方よしとも呼ばれる状態を、実にシンプルなやり方で実現させた【オイラーの等式】のような企画をぜひやってみたいものです。

JAL どこかにマイル

Q5.  素数が無限に存在することを証明せよ。

この問題、正面から挑んでも解決の道は開けません。ここでは、【背理法】という独特の考え方を使います。詳しい解法は割愛しますが、「素数が無限に存在することを証明する」ために「素数が有限個に存在することの矛盾を導く」のです。“直接的”に解けない場合はその逆などの“間接的”に考えてみる。それが【背理法】の真骨頂です。

Q5-2 未来の海は美しくない(守らないといけない)ことを効果的に伝えよ。

回答例)
2050年の海が本当に美しいかを問いかける。

2019年仙台、2022年青山にて開催した“名画になった”海展という八景島さん主催の展示会を企画・制作させていただきました。あの名画が描かれた時代が2050年だったら、という空想をAIの力を借りて表現した絵画や実際の海洋プラスチックをフレークとして使って未来の海を表現したスノードームを制作・展示しました。「海を守ろう」と正面から直接言うのではなく、「未来の海を表現してみましたが、美しいですか?」とアートを通して間接的に伝えてみることにチャレンジした案件です。ニュースやSNSでも取り上げられ、多くの方に共感いただきました。【背理法】がクラフト表現と結びついて、効果的なコミュニケーションに昇華できた事例だと思っています。

株式会社横浜八景島 ”名画になった”海展

Q6.  完全数が無限に存在することを証明せよ。

「6」は1+2+3である。こういう、その数以外の約数の和がその数自身に等しくなる数字を完全数と言います。「28」も完全数で、小説「博士の愛した数式」では博士が好きだった数字でもあります。この完全数が無限に存在することを証明する第6問。第5問と同じく背理法で解けるのでは?と一瞬思うのですが、実はこの問題は解けていません。数学ではよくあることですが、新しい体系や数を規定できると、そこにまた新しい疑問が生まれる。まさに迷宮、なんだか【禅問答】のようです。

Q6-2  情とは何か。

問いかけに答える、すると新しい問いが生まれ、また問いかける。この数学の【禅問答】のような側面に迫っていった数学者の多くは、数学に対して「情緒」という一見数学とは真逆にありそうな言葉を使っています。一つの本質や定理をつかめたと思ったら、新しい疑問や未知の一面が見えてきて、また考える。この見つけては問いかけ、考え続けることが、自分や他人と向き合うことに似ているからじゃないでしょうか。そして、クリエイティブも自分や他人と向き合い、考え続けることだとすると、それは遠い話ではなく、むしろ数学と深く結びついているはず。数学にはクリエイティブの緒(いとぐち)になることがたくさん眠っているはず。そう信じています。


いかがでしたでしょうか?
少し入り組んだ話もあったかもですが、お伝えしたかったのは、「数学」は受験や計算のためだけではなく、もっと豊かな暮らしのための一つの武器になりうるんじゃないかということ。いち数学好きとして、単なる受験科目を飛び越えた形で数学が楽しんでもらえる世界の実現をこっそり企んでいます。

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尾崎  賢司
エクスペリエンス・デザイナー/ビジネス・プロデューサー

大学では制御工学を、大学院では海洋環境学を専攻。並行して桑沢デザイン研究所夜間部でプロダクトデザインを学ぶ。新規事業、イベント、スペース、プロダクトなど新しい体験・ビジネスやそれに伴うコミュニティといった広告領域に閉じない具体アウトプットのディレクションとプロデュースを得意とする。主な仕事に、音声AR事業、仙台うみの杜水族館「“名画になった”海展」、仮囲いウォールアート「A DAY IN THE LIFE SHIBUYA」など。

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Dentsu Lab Tokyoは、研究・企画・開発が一体となったクリエーティブのR&D組織です。日々自主開発からクライアントワークまで、幅広い領域のプロジェクトに取り組んでいます。是非サイトにもお越しいただき、私たちの活動を知っていただけると幸いです。

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