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幽霊のように生きろ。

これは「確かにな」と思った。

幽霊のように生きろ。おまえを目にする人間が少なければ少ないほど、自由に生きられる。

「猿の罰」より

世界中のサスペンスファンを魅力した三部作の長編小説「悪の猿」シリーズ。その完結編で、シリアルキラーが子供の頃に父親から送られた言葉として出てくる名言だ。
物語としては、連続殺人鬼vs警察という、いわば王道のサスペンスなのだが、そこには人間ドラマやミステリー要素に加え意外な展開も各所に用意されており、ストーリーに絶妙なスパイスを与えて読者を飽きさせないクオリティとなっている。

興味のある方はぜひ一作目の「悪の猿」から楽しんでいただきたいが、今日はそんなことはどうでもいい。(
「幽霊のように生きろ」。これは非常に真理をついた言葉ではないだろうか。
つまり、人は目立てば目立つほど人目につきやすくなり、行動の自由がなくなっていく、ということだ。

それは世間の芸能人やインフルエンサーたちを見ても一目瞭然だろう。目立てば目立つほどに興味をかきたてられ、どうでもいいような小さなことでもスキャンダルとして取り上げられ、アンチやパパラッチたちの標的となってしまう。
恋愛はおろか、不倫や浮気はもってのほか、キャバクラから風俗、その他もろもろ。またはその過去の黒歴史に渡るまで徹底的に粗探しをされることになるのだ。

それのなにが困るのか。
人気商売に一番の要となる商品は、タレントの「イメージ」だからだ。

どんなイメージで売ろうが、人間には必ず人には言えない「裏の顔」が存在する。
もちろん、それ自体は悪いことでもなく、むしろその裏の顔があってこそ「人間」であるのだが、やはり秘密にしておきたい密かな楽しみは暴かれたくはないだろう。
人には、「自分はこういう人間に見られたい」という願望があり、そのイメージを崩されることに絶大な恐怖感を抱いているのだ。

僕も以前はその華やかな世界に憧れて、ひとつの夢に向かって必死に走り続けたことがあるのだが、徐々になんとなく違和感を感じ始めていた。
その違和感に気付かされたのは、ユダヤ商人たちの金言「目立たずに稼げ」だ。

なんの本だったのかは忘れてしまったが、これは歴史が生んだ真理ではないかと体中が痺れたのを今でも覚えている。
どこへ行っても迫害を受けてきたユダヤ人たちの生きる術はすべてこの言葉に集約しているではないか。目立てば目立つほど、それは命の危険までをもおびやかす種となってしまうのだ。

注目を集めれば富や名声、羨望の眼差しに陶酔できたり選りすぐりのパートナーに出会う可能性も高くなる。そんな各種の欲望を満たすことが容易になるものの、それはそれに伴った代償が用意されている。 

まさにmore money,more problems.
ゲットー出身のHIPHOPアーティストたちが最初に痛感するのはこの格言なのだと言う。
金があればすべての問題が解決するのかと思いきや、金で解決できない問題がさらに膨れ上がっていくのだ。

ということで、僕にも暴かれたくない秘密のひとつやふたつはあるので、ユダヤ商人たちのように、目立たずにひっそりと稼ぐ方向へシフトチェンジしました、というお話でした。

幽霊のように、あたかも存在していないようなたたずまいで、企業やインフルエンサーへ投資し、そのキックバックをじわじわと積み上げながら自由を謳歌する。
それが一番、歴史が証明した効率的で頭の良い生き方なのだろう。

そして、そうやって積み上がる富を手に僕は今日も幽霊のように、シリアルキラーのように、ユダヤ商人たちのように、誰にも知られずに入店するのだろう。



マニアックなアダルトショップに。

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