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外腸骨動脈内線維化症で手術した話

これまでのあらすじ

オッス!オラはるか!
自転車大好きすぎて、走りまくってたら右脚の血管がなんか細くなっちまったぞ!すぐに脚が窒息して脚が終わるから、全然走れなくなっちまった!まだまだ天下一武道会でつえぇ奴と戦いたかったのに、やっべぇぞ!
治すには手術しかねぇみてぇだ
いっちょやってみっか!!

検査と手術

↑のnoteを書いてから1か月後くらいに、血管外科医に詳しい話と更なる精密検査をして、典型的な「外腸骨動脈内線維化症」ということで無事(?)診断がおりました。
手術日は9月中旬で、過去に同症状の手術をした経験のある先生が執刀してくれるとのことだったので、安心して臨むことができました。

手術の方法としては、症状のある部分の外腸骨動脈を縦に切り、牛の心膜で作成したパッチを貼りつけて血管を物理的に広げるというものでした。下肢動脈閉塞等の患者と同様の手術の様です。

当初5時間と言われていた手術ですが、MRIで確認した時よりも、症状のある血管が長かったようで、7時間にも及びました。全身麻酔だったので私は寝ているだけで済みましたが、先生を始めとする手術スタッフの方や、待合室で待っていてくれた旦那と家族はさぞ大変だったかと思います。

先生曰く、動脈に直に触れただけで動脈が攣縮(痙攣して縮こまる事)を起こしていたとのことでした。攣縮すると数mmくらいに血管が細くなってしまうので、そりゃあ血液通らなくなるよね、とのこと。攣縮してしまう明確な原因はやはりわかりませんが、自転車に乗ることで繰り返される刺激に、それだけ血管が過敏になってしまっているのでは?とのことでした。

結局、外腸骨動脈(腸腰筋近くの動脈)と総大腿動脈(太ももの動脈)を16cmほど切って、攣縮しても血流が阻害されないくらいに血管を広げてもらいました。傷もお腹と股関節の2つになり、目立つ位置にはありますが、もうビキニ着る年齢でもなくなったし、永遠の廚二病を患っている身としては、結構お気に入りの傷ですw

念のため、手術後はICUで一夜を明かしました。一晩中大声で叫んでいる老人の声と、鳴りやまない奇妙な音色のナースコールは、今でも夢に出てきて魘されそうです。

手術翌日には無事一般病棟に戻されました。
看護師さんに、沢山歩いてくださいね!!としきりに言われましたが、お腹を切られているため、腹筋を使うとものすごい激痛が走るのでベッドから起き上がることもできませんでしたwいつの間に入れられていた尿道カテーテルが、唯一の安心できるお友達でした。
というか、目が覚めたら陰毛も全て剃られ、カテーテルも入れられて、おむつまで履かされていて心底ビックリしました。しかも大学病院なので、看護師が全員若くて可愛いらしい女性なのです。申し訳ないやら恥ずかしいやら。

手術2日目には、なんとか頑張って立ち上がり、同じ病棟のおじいさんよりも遅い速度で病棟内を歩き回りました。
まだトボトボとしか歩けず、くしゃみも咳も傷口が激痛でできないのに、「もう大丈夫そうなので、明後日退院しちゃいましょう!」となんと手術から4日目で退院させてもらえました。
当初1週間~10日と言われていた入院期間ですが、あまりにも早すぎる退院に戸惑いました。自力で家に帰れるかもわからない女を追い出すんか…と衝撃でしたが、このスパルタが、結果的に良かったと思います。
あと私より重症な患者さんの為にも、大事な血管外科の病床をいつまでも塞いでおくわけにはいきませんからね。

その後は、様々な面で不自由を感じながらも、日に日に出来ることが増えていくのが楽しかったです。ソファから立ち上がったり、寝返りを打ったり、くしゃみができたり笑えるようになったり、小さいことが時間を追う毎にできるようになりました。
睡眠中にお腹や太もも辺りが痙攣する謎の現象がしばらく続いていましたが、それもだんだん落ち着いてきました。

リハビリ

医者には、6週間を越えるまでは激しい運動や腹部に圧がかかる運動は避けてと言われていましたが、どの程度が一般的にいう「激しい運動」に該当するのかわからないのがローディーあるあるだと思います。

ただ先生は専門が血管外科な為、いまいち明確な答えは得られなかったので、自らネットで外腸骨動脈内線維化症のリハビリについて色々探してみました。
日本語で検索したところでもちろん情報はほぼ皆無なので、英語で"endofibiosis"と検索するとまあまあ情報が出てきました。

探し出したリハビリ計画によると、自転車は術後6週間を過ぎるまで禁じられているので、ウォーキングに精を出しました。
車や電車の代わりに徒歩で移動することが増えました。恐らく人生の中で一番歩いた期間だと思います。
ただ、階段を昇ったり、沢山歩いた後、またあの太ももに嫌な感じを覚えました。ギューッと太ももが縛り付けられるような痛みと痺れです。もしかして、まだ治ってない?と一抹の不安を覚えました。

安静時には症状が出ない障害な為、治ったか治ってないかを厳密に知るには、自転車で追い込む必要があります。まだ自転車に乗って追い込むことができない今はそれを知る術もありません。
治っていなかった時の事を考えると辛すぎましたが、あまり期待はし過ぎない様自分に言い聞かせながら、6週間後を待ちました。

ライド開始

そして術後6週間目。いよいよ自転車解禁です。
まずは試しにローラーで自転車に乗ってみましたが、右脚をうまく引き上げる事ができません。とにかく右脚が邪魔をして、30w出すのも精いっぱいで、逆に笑えてきました。
寧ろ左脚だけで漕いだ方がスムーズに漕げました。
歩くことは普通にできるし、もう普通に生活できているはずなのに、太ももを持ち上げる動作がこんなに難しいとは思いませんでした。
いよいよ心配になってくるばかりです。

リハビリ計画書によると、まだ負荷をかけて乗ることはできないらしいので坂は登らない様に気を付けました。が、まあ家の周りは坂しかないので物理的に無理でした。
しばらくは家の周りをぐるぐる30分程度走るに留め、自転車復帰5日後は、尾根幹を通ってゆっくりゆっくりcross coffeeまでの往復30kmほど走りました。
あまりにもゆっくりとしか走れなかった為、道中で前にいた、初心者風のマダムの後ろ姿すら遠のいて行った時は結構ショックでした。

最初はそんな不安なスタートでしたが、1週間ごとに徐々に乗る時間を延ばしていったところ、1日走るごとにどんどん力強く走れるようになりました。誇張じゃなく、1週間でFTPが10Wくらいは上がっているような感覚でしたw絶賛成長期です!

そして自転車復帰後19日目、ようやく山デビューです!
昔は山という認識すらなかった奥多摩湖ですが、その頃の私には超級山岳に思えました。ただ一緒に行ってくれたお友達のお陰もあり、無理のないペースで楽しく走りきることができて感動しました。
L2強度ですら足を回し続けることができなかった手術前と比べると、雲泥の差です。

術後10週目からは全ての制限が解禁。
好きな距離、時間、強度で乗ることが許され、更には体幹トレーニングをはじめ、ウェイトトレーニングも制限なくできることになりました。
そこから強度、距離、獲得標高を順調に伸ばしていくことができました。

3,000mup超のライドも2回ほど完走することができました。こんなに登れたのは、症状が完全に出始めて走れなくなった1年ほど前以来です。流石に3000mも登ると気力も体力も空になって後半は虚無状態でしたが、以前の様に脚が全く動かなくなって泣いて帰ってくるということはなくなりましたw

テンポ~閾値走で走っても、脚が窒息する様な痛みが起こりそれ以上踏めなくなるという事もなくなりました。
辛くて大好きでたまらなかった、高強度ロングライドもできるようになりました。好きな峠、好きなコースを好きなペースで走れるあの幸せな日々がまた戻ってきたのです。順調すぎて怖いくらいです。

一時期は治っていないんじゃないかと本気で思っていましたが、自転車に乗り始めてから、どんどん調子がよくなってきた気がします。
傷は塞がっているといっても、患部の運動能力が即座に完全に戻るわけではないんですね。
当然と言えば当然なんでしょうが、大きい怪我や手術をしたことがない私にとっては全くの未知の世界でした…。

術後100日目

そして今日で術後100日目です。

腸腰筋回りと股関節部分をザックリ切っているので、ペダリングはやはり少しぎこちなさを感じるし、ハードなライドをすると右体幹部~脚の力が入らなくなることはあるし、大パワーがまだ出しづらかったりと気になる点はいくつかありますが、まだ術後100日ということなので、時間が解決してくれるのではないかと前向きに考えています。

twitterでは、#100日後に復活する女 のタグを使っていましたが、何を以って復活なのかということは考えていませんでした。
ただ自分にとって、かつての自分のレベルになるのは当たり前の事で(その為に手術を選択したのだし)、過去の自分を越えられて初めて復活だと思ってます。欲張りです。

大変だった事

この障害の大変な所は、原因の判明がしづらいこと、診断&治療をしてくれる医師がほとんどいないことはもちろんなのですが、治療ができたとしても、その後のリハビリについては情報がないことでした。
この外腸骨動脈内線維化症は、血管障害&アスリート障害である以上、血管外科とスポーツ整形や理学療法の知識を幅広く持った人でないと、治療からリハビリまで的確に指導してもらうのは難しいと感じました。骨や関節系に強いスポーツドクターはよく聞きますが、血管系って聞いたことがない。
私としては、自転車を競技レベルにまで乗れるようになるのが目的の為、日常生活が送れるようになるレベルよりも、更に上のレベルでの運動機能の回復を求めてしまうので、担当して下さった血管外科医の方とは齟齬もありました。

そして病院(特に大学病院)は治療後のアフターケアを重視する様な機関ではない為、術後は非常に孤独な闘いでした。
偶然見つけたfacebookの外腸骨動脈内線維化症のグループで世界中の同じ障害を持つ人達による情報に非常に助けられたし、また、世界の自転車競技界隈の事情に精通していらっしゃるENNEスポーツマッサージ治療院の中野喜文さんにもお話を聞きに行きました。
マッサージを受けながら親身にお話しを聞いていただけたり、ご存知の情報を教えていただけてとてもありがたかったです。

おわりに

マイナスだった場所から、1年を経て今ようやく再びスタート地点に立てました。ここからは本当に自分頑張り次第です。
まだまだ挑戦したいことは沢山あります。
この障害になって、やり残したことが沢山あることに気づき、自転車が自分の人生においていかに重要か気づきました。

また苦痛なく自転車を漕げる様になった事も嬉しいですが、また何かに挑戦できる身体になった事を非常に嬉しく思います。

続ける事しか能がない、運動能力的な才能は何もない私ですが、アスリート障害である外腸骨動脈内線維化症になれるくらい追い込めた、打ち込めたという(謎な)自信を持って、これから立ちはだかってくるだろう沢山の壁に挑んでいこうと思います。

長文にお付き合い下さり、本当にありがとうございました。

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