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『抽象―ワカラナイを楽しむ』川越市立美術館にて日本の抽象美術に触れる

川越駅からバスで15分。
小江戸を抜けた先に見えるのは川越市立美術館。

この美術館では、常設展示室の展示テーマが四半期ごとに変わる。(入場料は200円)

今回開催されているのは『抽象―ワカラナイを楽しむ』。鑑賞者に寄り添ったタイトルで、気になっていた展示だ。

抽象絵画はその見た目の美しさだけで楽しむのは難しいときがある。マーク・ロスコなど直感的に好きな絵画はあるが、それをより楽しむには美術史における文脈、人物を知ることが必要だろう。

しかし、この展示では「分かることをやめて心のざわめきを考える」ことを提案する。初めて美術館に行ったとき、前提知識なしでなんだか好きな作品があった。その素直な心のざわめきに耳を傾けて、なぜ好きかを話してみようというのが今回の展示である。

写真撮影不可のため、気になった作品のタイトルだけ紹介する。

・《黒地に丸》吉原治良(1960)
・《渦》池田幹雄(1966)
・《表示形式》石川順恵(1996)
・《G30-10 彫刻》関根伸夫(1998)

2023年度 第3期 常設展 出品目録

今回の展示でよかったのは、一部の作品に付いている一言コメントだ。抽象絵画を目の前にしたときに、背景を知らないまま自由に楽しんでと言われても、困惑してしまうことがあるだろう。(子供心を忘れてしまっている..?)

例えば「作家はこう言っているが、あなたはどう思いますか?」「小学生がワークショップで訪れた際に左上の円を梅干しみたいと言っていました。同じような特徴がありますね。」など、まるで他の鑑賞者と対話をしている(ワークショップに参加している?)ような気分になった。ちょっとした問いかけがあるだけで、一気に展示が身近に感じるのは驚きだ。

もう一つよかったのは、戦後の日本の抽象絵画を見られることだ。私が今まで行った企画展では、欧米の作品がメインになっていることが多かったので、日本の抽象絵画を知るきっかけになった。

森美術館の『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』でも展示されていた李禹煥や『位相-大地』の関根伸夫など。『もの派』の作家同士の交流についても詳しく調べたくなった。


さらに日本を知るという観点で楽しかったのは、同じチケットで鑑賞できる相原求一朗記念室だ。相原求一朗(1918-99)は洋画家(川越市名誉市民)である。実際に川越に住んでいたからか、作家どう考えてどのように作品を作っていたかを詳しく知ることができる。

1950年代は、ヨーロッパ・アメリカ美術の新動向が次々と伝えられ、日本美術界がめまぐるしく変化した時代です。「具象」と「抽象」の問題について悩んだ相原は、絵筆のとれない日々を過ごしました。

相原求一朗記念室

戦後鑑賞者だけでなく作家も悩んでいたことを知ることができるのは新鮮で、より身近に感じた。戦後欧米から様々な美術が雪崩込んできた中で、キュビスムなどにも取り組み「ピカソ・ブラックは難解すぎた」と言葉も過去の図録に書かれていた。めくるめく変わる時代の中で、作者が最終的に取り組んだ北海道の風景画は見事だった。(私の故郷、北海道の風景が川越で見られるとは・・)

川越に根差した美術館だからこそ、これまでとは違う視点で美術に触れることができる。次回の常設展は2月21日(木曜)より「日本画の革新―橋本雅邦から滝沢具幸まで―」が開催される。ぜひ川越市立美術館へ。

開館時間:午前9時から午後5時(入場は午後4時30分まで)

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