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【イベントレポート】プロダクト開発のデザインプロセス -後編-

後編では、出演者3人によるトークセッションのレポートをお届けします。
前編中編はこちらからご覧ください。

DESIGN BASEのメンバーが出演し、過去から現在の取り組み、未来への展望など、現場のリアルを語るトークイベント「DESIGN WAVE Vol.4」。
 
本イベントでは、Uzabase CDO/プロダクトデザイナー平野友規とNewsPicksのプロダクトデザイナー鳥居大が、前職クックパッドにて組織横断でデザイン戦略を推進していたKRAFTS&Co.倉光美和氏をお迎えし、「現場目線」でのリアルなデザインプロセスの力とその実践知を探ります。

【パネルトーク】デザインプロセスが「動く」仕組みと「動かない」仕組みの違いとは? 

仕組みを動かす人にクリエーションの余地があるものは「よい仕組み」である

鳥居:先ほど倉光さんから失敗した例をお話いただきましたが、仕組みがうまく働かなかった例に共通点はあるのでしょうか。
 
倉光:まず、きちんと動くよい仕組みというのは、その仕組みを動かす人にクリエーションの余地があるかどうかだと思っています。たとえば、Aを右から左に動かして、Bを上に上げてといった指示通りに実行していくだけの作業はどちらかというとオペレーションだと考えています。
デザイン領域で創造的なプロセスが求められるときには、実行する人が主体性を持ってクリエーションを生み出せることが大事ではないかと思います。 

平野:そうですね。たとえば、私はデザインシンキングをベースでは信じているのですが、あのフローで行ったところでうまくいくとは限りません。デザインシンキングの工程がハマらず、事業立ち上げできずに終わってしまったことがありました。
  私のチームでは、仕組み作りからみんながワクワクできないとうまくいきませんね。たとえば、デザインシステムとしてFigmaを導入したときは、みんな大変でした。

仕組みを作ろうとすると、一時的に稼働量が増えてしまうんですよね。ですが、仕組みができあがれば稼働量が減ってよさがわかっていく。そうした成功体験を持たないと、仕組みを作るモチベーションが保てませんね。

鳥居:平野さんはSaaSで仕組みを作ったり、導入した経験はありますか?

平野:これまで、自然発生的に流れができあがっていったものが、結果的に仕組みになっていますね。

たとえば、先ほどお話したUI朝会。これまで、1時間のコーヒータイムを週1回設けたり、夕会にしたり昼会にしたり、いろんなことを試したんです。その中で、朝10時30分からの朝会が一番ワークして残っています。

鳥居:NewsPicksでは朝に簡単な日報を書いていますが、一方の組織で機能したものが他方の組織で機能するとは限りませんよね。本当にジェネラルな仕組みであれば誰にでもハマるのでしょうが、人数規模、事業内容など組織や環境によってハマらない仕組みもあると思います。
そこで倉光さんにお聞きしたいのですが、前職のクックパッドだから動いていたけども、ほかでは動かなさそうな仕組みは何かありましたか?

倉光:クックパッドでは新規事業の立ち上げ時によくデザインスプリントをしていました。デザインスプリントは基本の型があり、それを解説した書籍や記事がたくさんありますが、実際に組織に広く浸透された要因はトップダウンでの意思決定であったことが大きいように思います。

平野:SPEEDAでも新規事業をするときにデザインスプリントをやろうとしたんですが、神(佐久間さん)から「こんなことやってる場合じゃないですよ」と(笑)。デザインスプリントをしなくてもできたので、結果的には神が正しかったのですが、人と状況が違ってトップがコミットすれば組織に落とし込めることもあるので、見極めが難しいですね。

鳥居:今日視聴している方も、私たちの話を鵜呑みにしないほうがいいですね。環境やカルチャーも違う中で、仕組みだけをそのままやろうとして再現できないことはありえると思います。


【パネルトーク】プロダクトオーナー(PO)やプロダクトマネージャー(PdM)と、プロダクトデザイナーの関係作りで気をつけることは?

はじめにお互いの期待値と熱量を交換しておくことが大切

鳥居:平野さんのプレゼンにあった「UXの神」の煙ですね。プロダクトデザイナー以外の非デザイナーの方と一緒にプロダクトを作るうえで気をつけるべきこととは何でしょうか。
 
倉光:お互いの期待値と熱量を交換しておくことが大事だと思っています。期待する役割が少しでもズレたまま進めていくと、あとからそこをチューニングするのにとても時間がかかります。
そして、ビジョンを自分に憑依させるくらいに煙を浴びることも大切です。それをしないままに作ると、作ってみたものがしっくりこないことが多いですね。
 

鳥居:期待値調整は大事ですね。とはいえ、たとえば新人の頃のように、POまでの距離が遠い場合はどうしたらいいのでしょうか。

倉光:神はビジョナリーなので、いかに目的と効果を狙ったデザインになっているか、ワイヤーを見た瞬間にすぐ見抜かれてしまいます。ですから、「いま神が隣に来たら、このデザインはどのような点で目的に沿っているか」をきちんと説明できるように考えることが大切だと思いますね。

平野:神はこちらがすべてわかっていると思って進めてくるので、わからないことは積極的に「わからない」と自己開示することは大事ですね。
プロダクト開発に限らず私がいつも大切にしているのは、自分を知ってもらうことですね。佐久間さんとは2年前から一緒に仕事をし始めたのですが、当時はお互い「遠くで見かけたことがある人」くらいでした。

ですから、信頼作りも含めて佐久間さんの趣味を調べてみたところ、漫画とゲームが好きだと。私も漫画とゲームは好きなので、神との対話が始まる前にゲームの話をするなどして、自分を知ってもらう努力をしました。
佐久間さん以外の人ともそういうところから関係作りをスタートすることが多いですね。

鳥居:私も同じですね。POやPdMとの関係性というよりも、人と付き合う上での話だと思うのですが、こちらが自己開示をしないと相手も開示してくれないと思っています。

平野:鳥居さんは前任のPOやPdMとはどんな関係性だったんですか?

鳥居:私はNewsPicksにチームリーダーとして入社する前に、3ヶ月ほど新規事業に業務委託で関わっていたんです。当時は構造設計と価値設計や、UIのワイヤーを作って起こしてもらう、PdMとデザイナーのあいだのような役割をしていました。

新規事業なのでPdMはおらず、現在のCPOとデザイナー、エンジニアリングのマネージャーと私とで取り組んでいたのですが、2021年の12月頃に組織図を見たら、2022年1月から「トピックスPdM鳥居」と書かれていて。ただそれだけで、そこに名前がプロットされていたからPdMになったという経緯があります。これはさすがに、SPEEDAのPdMとは成り立ちが違うのではないかと思いますね。

平野:PdMが違えばデザイナーの動き方、かかわり方は変わりますよね。

鳥居:そうですね。特に、プロダクトデザイナーはどこまでやるか、はじめに期待値を合わせておかなければ大変ですね。


神との対話に慣れていないメンバーをどうケアするか

鳥居:1つ質問がきています。「神との対話に慣れていないチームメンバーはどうケアしていくのでしょうか」。

平野:私は煙の中に放り込みますね。いま、SPEEDAでも新卒のプロダクトデザイナーの採用を始めていますが、とにかく打席に立とうと伝えています。

私もデザイナー1年生の頃は本当にしゃべれなくて、Webデザインの説明もできなかったんです。お茶の水にある外資系のPCメーカーの会社に説明しに行ったのが初めてでしたね。小さなバナーと文字カラーの説明を印刷して、震えながら説明したのを覚えています。
そんな経験からも、新卒の社員には「打席にたくさん立てばしゃべれるようになる」と言っています。
 
鳥居:ちなみに、倉光さんにとっての神はいらっしゃるんですか。
 
倉光:それぞれの事業責任者ですね。彼らは誰よりも強い「想い」を持っているので、この人の想いを具現化できるのは私しかいないという気持ちで臨みます。

平野:想いが乗っていないと、仕事はやりたくないですよね。想いを持った人には、こちらも本気で応えようという気になります。上にいる人たちが想いをどれだけ伝えられるかでデザイナーの動き方が変わってくるのだと思います。

鳥居:プロジェクトに一緒に取り組む人の熱量は大事ですね。「うまくいくかどうかはわからないけど、俺はこれだけやる。一緒にやりたいから付き合ってくれ」と本気で言われたら応えたくなります。

そこで出したアウトプットが相手の期待値を超えたものであったときはデザイナー冥利につきますね。POとPdMは、お互いに期待値を超えた関係性でいられるのが理想的だと思います。

倉光:その点で鳥居さんに聞きたいのですが、鳥居さんが所属するプロダクトデザインチームでは、ほかの部門からの依頼ベースのプロジェクトについてはどんなふうにコミュニケーションをしていますか?

鳥居:基本的にはSlackのワークフローで管理しています。要件を入れてもらうとその内容がClickUpというタスク管理ツールに反映されて。現在はGitHub issueに登録していく流れですね。そこで対話が必要であれば、対話をしながら作っていきます。

ただ、すべてにおいてかかわろうとするとリソース的に破綻してしまうので、いわゆるデザインプロセスの上流に巻き戻すことはありません。

NewsPicksのデザインチームは手前味噌ですがFigmaスキルが高いと思っていて、たとえばAutoLayoutやVariantsの構築も割と出来ている方だと思います。一から作るのは別として、改善プロセスを回すのはものすごく速いので、ギリギリのリソースでも回せているのかもしれません。
 


倉光:すごい仕組みですね。

鳥居:私が入社したときはすでにFigmaが使われていましたが、見ている感じだと旗を立てにいっているというより、楽しんでやっていると感じます。プラグインもたくさんあるし、コミュニティもある。チーム内の情報共有も自然発生的に出てきますし、それで作業が効率化されていく楽しみがあるようです。

平野:私はデザインチームを組成していくときに、自分自身にないものを持っている人に入ってほしいと思っているのですが、鳥居さんはどういった方にチームに参画してもらいたいと思っていますか?

鳥居:まずは会社のビジョンや文化に共感してくれる人ですね。そのうえで、私が一番大事にしているのは、素直さや、対話ができるかどうかといった点です。PdMやレビュワーとしてキツいことを言わなければいけない時もあると思っていて、それを素直に受け止め、建設的な議論ができる人。
チーム全体のバランスも考えています。たとえば、UIに強い人、マーケ寄りの視点を持っている人など、組織が大きくなればなるほど、組織のマスの穴が空いてきます。そこを埋めていくことで組織の機能が広がっていくと思うので、これから採用を進めていきたいですね。

 鳥居:対面でお会いして3人で話すのは久しぶりでしたね。こういう機会をもっと増やしていければと思うので、ぜひまたこうしたイベントを開催できればと思います。

倉光:お酒があったらこのままずっと喋れそうな居心地のいい空間でしたね。デザインプロセスは組織によってやり方が変わってくるので、みなさん今日お話したことを鵜呑みにせずに、何か新しい方法を編み出してもらえればと思います。

平野:本日スタジオ提供と配信をしていただいたシンフォニティー株式会社様、ありがとうございました。1時間半にわたってお付き合いいただいたみなさま、そして倉光さん鳥居さん、ありがとうございました。 


ご出演いただいた、KRAFTS&Co.倉光美和さんのnoteはこちら!

鳥居大氏の所属するニューズピックスのnoteはこちら!

平野友規氏の所属するDESIGN BASEのnoteはこちら!