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法則がつかめると予測ができる:未来予測の技法

これまで僕は新しい事業企画などに関わるときに「未来は予測できないものだ」という偏見を持たない姿勢には大切だと思っていたのですが、この本を読んで考え方が変わりました。といっても180度すべて変わったわけではなく、未来を完全に予測することは不可能という考えは同じですが、「こういう方向に行く確率が高い」というある程度の見込みを立てることは、リサーチスキルによって可能になる、ということをこの本から学びました。なので今回は、リサーチという視点からこの本を紹介したいと思います。

未来予測の技法
佐藤航陽
ディスカヴァー・トウェンティワン 2018.02

著者の佐藤さんはメタップスの代表であり、学生から起業家として活動してきており、ネット上でよく名前を見ることがあり、最近だと「お金2.0」の本が話題になってますね。(この本についてはまた近いうちに)そのような自ら新しい市場を切り開いてきた本人が、世の中をどう捉えて時代に適したサービスを提供してきたか、ということを知りうかがえる内容であります。

予測に必要なものは3つあります。それは、

1. 原理:何かしら必要性によって誕生した背景を知ること
2. パターン:歴史は繰り返す、その共通の法則性を見つけること
3. タイミング:それがいつ来るのかを見極めること

ということです。これを一言でまとめると「適切なときに適切な場にいること」が、未来を予測して新しいサービスを提供できる能力、ということになります。これだとちょっと難しいので、この3つを1つづつ、もう少し丁寧に掘り下げてみたいと思います。

1. 原理

原理とは、表層的な事象だけを捉えてはいけないことを意味しています。何かの流行や機運が高まるときには、ただの一時的なトレンドと片付けるのではなく、それが起こった背景と必然性を見つけることが大切です。例えばシェアリングの流行は、モノの飽和市場や、若者の経済的事情とか、モノよりも人とのつながりが重要になってきていることとか、起こるべくして起こる理由がそこにはあったと言えます。

こういったことを分析できるようになるためには、日ごろから社会の動きを感じ取るアンテナを張っておき、幅広い領域に興味を持ったり、マクロとミクロの視点でものごとを捉える視点を持つことが大切になります。

2. パターン

2つめのパターンに関しては本書では多くページ数を使っていて、9つの法則を紹介しています。例えば『②のあらゆるものに知性が宿る』という考え方は、手書きが自動変換に、電話がスマートフォンに、車が自動運転に、といったような事象のパターンとして当てはまります。

こういったような法則性を自分の中で持っておき、何か新しい変化が起こり始めたときに、それは何の法則性に当てはまるかが見つかれば、その先に起こることが見えてくるということです。この習得はなかなか難しそうですが、方法の1つとしては歴史や過去の事象から学習することが考えられます。(歴史は繰り返すという格言は、人間の変わらないパターンであるともいえます)

3. タイミング

タイミングについては意外と見落としされがちな観点かもしれません。たとえそれが予測できたとしても、それがいつなのか?を見誤ってしまうと社会には受け入れられないので、早すぎてもダメ、遅すぎてもダメです。早すぎて失敗した日本企業の取組みはたくさんありますが、(それがタイミングの問題なのか、訴求方法やサービス設計が失敗したのかは別問題です)やっぱり改めて思い返すと、iPhoneが始めに登場してから徐々に進化して普及していった過程は、タイミングをよく捉えていたと感心させられます。

そしてこのタイミングを見極めるためには、リソースを見極めることだといいます。技術がブレイクスルーするのはいつか?価格が民間レベルになるのはいつか?といったことです。傾向として、エンジニアに比べてデザイナーはこの見込みをやや軽視しがちなところがあると思います。新しい世界観をつくる段階では緻密なタイミング検討はまだ必要ないかもしれませんが、事業計画やサービス化のフェーズでデザイナーが関わる時には、こういった感覚を持つストラテジックなスキルが必要だといえるでしょう。

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このようなスキルを身に着けることによって、未来の方向性を予測することは十分にできるようになります。考えてみれば、もともと僕がテーマに掲げているデザインストラテジーも、この先の変化を見極めて適切な製品やサービスの方向性をつくることを目的としているので、未来を予測することは常に考えていたような気がします。予測できる/できない、と白黒つけるのではなく、ある程度予測できる範囲と、断定できない範囲を見極める整理ができること、が大事だと思うようになりました。

原理・パターン・タイミングの3つを捉えることで、未来に起こりうることをある程度の確度で予測できて、適切なときに適切な場にいて適切な事業やサービスが展開できるようになる、というのが本書を読んで僕なりに理解したことです。不確実性の高い社会において、どう事業企画の精度を高めたり関係者からの共感を得るかといった点で、デザインリサーチのスキルとして多くの学びになりました。

この本は内容もさることながら考え方や視座の高さが、今まで読んできた本のとはずいぶん違っていて衝撃を受けました。何となく、こういう考えを持つ人達が21世紀の社会を牽引していくんだろうな(自分は果たしてこういった考え方についていけるのか?)というような気がしました。

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デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。