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デザインを飛躍させるためのコンセプトメイキング

デザイン前の言語化

デザインの現場ではよく、「言語化」の重要性が語られます。
エルでもことばをとても大切にしており、デザインの前に「ことばづくり」の過程を設けています。ことばづくりとは、コンセプトメイキングのこと。つまり、「方向性をことばで定義する」ことです。

コンセプトメイキングをするうえで気をつけているのが、表現の可能性を狭めないこと。

「定義」というと、削ぎ落としたり絞り込んだりするイメージを持つかもしれません。しかしコンセプトを定めることで、表現の可能性を捨てることになっては本末転倒。コンセプトとなることばを探す際は、方向性を定めながらも、可能性に余白も残さなければなりません。難しい作業ですが、クライアントのことを深く理解できる、またとない機会です。

この記事では、「デザインの可能性を狭めず、かつ方向性を定義する」ためのコンセプトメイキングについて、普段意識していることをまとめてみました。


0→1なのか、1→∞なのかを見極める

クライアントによっては、コンセプトがまだ見つかっていない場合と、すでにある場合があります。前者と後者では、コンセプトメイキング〜表現の過程に違いが生じます。

・コンセプトがまだ見つかっていない場合(0→1)
この状態は、クライアントによってさまざまです。まだ探している最中だったり、なんとなく思いはあるけれど言語化されていなかったり、まだ社内の共通認識として浸透していなかったり。いずれにせよ、私たちが目指すのは「核となる思い」を見つけ出し、理想の未来に向かう軸となることばを導き出すことです。
そのために、ヒアリングや調査を通じて特徴や強みを洗い出し、対話を重ねるなかで、クライアントへの理解を深めていきます。主観的な意見と客観的な情報を両方鑑みながら、クライアントにしか言えない価値・らしさを言語化し、それをどう表現していくかを整理します。ここまでを資料化し、制作コンセプトとして共有します。
「そう、そういうことが言いたかった!」とクライアントに言ってもらったとき、ことばはコンセプトとしての役割を持ち始めます。ここで決めたことばが、制作の軸となっていきます。

・コンセプトがすでにある場合(1→∞)
この場合、私たちが1からコンセプトを開発することはしません。クライアントが大切につくりあげてきたコンセプトを、しっかり理解することから始めます。元々ある「1」を、できるだけ大きな数字にしていくイメージです。
コンセプトへの理解が深いほど、よりクライアントの思いやらしさを表現に落とし込むことができます。クライアントが抱いている思いと、こちらの思いの解像度が同じになるように、話を聞き、資料を拝見し、自分たちの中にコンセプトを落とし込んでいきます。

ただ理解しただけで終わりではありません。この場合先方の多くが求めているのは、「今あるコンセプトを、どう表現するか?」。そのため、コンセプトを理解したうえで、それを表現するための方法を提案する必要があります。たとえば「やさしい〇〇」というコンセプトだったら、ここでいう「やさしい」を表現するためのキーワードを抽出する、コンセプトを体現するための方向性を定義する、など。
「私たちはあなたたちのコンセプトをこのように理解した、それを伝えるために、こんな方向性の表現を考えている」。この認識を合わせておくことで、先方が抱いている潜在的なイメージからぶれることなく、「超える」アイデアを生み出すことにつながります。

※以下の内容では主に、0からコンセプトをつくる場合の話をします。


ことばづくりを目的化しない

ことばを大切にしすぎるあまり、ことばづくりをすることが目的にしてはいけません。コンセプトの言語化はゴールではなく、スタート地点に立つことだからです。

コンセプトからデザインをつくるのはデザイナーです。あまりに抽象的だと方向性が絞れないし、絞り込みすぎると可能性を狭めてしまいます。そのため、どんなコンセプトであればデザイナーがデザインしやすいか、という視点で考えるようにしています。

ことばとデザインがうまく掛け合わさると、「これだ!」という表現が見つかります。私たちが目指すのはここ。ことばづくりは大切だけれど、それを目的にはしない。最終的にいい表現につなげるために行う。この意識を忘れないようにしています。


ちょうどいい抽象度を見つける

先に述べたようにコンセプトの抽象度が高すぎると、どのデザインにも言えることになってしまい、コンセプトを定める意味がありません。
たとえば「安心」ということばだけだと、抽象度が高すぎます。安心、と一言に言っても、「身体にいい系」の安心なのか、「誠実・堅実系」の安心なのか、はたまた「ぬくもりを感じる・あたたかい系」の安心なのか…。たくさんの方向性があり、それぞれで表現が変わってきます。だから、もうすこし詳細に定義する必要があります。

考え方はいろいろありますが、たとえばこんなふうに考えることが多いです。

その安心を具体化すると、どんな安心?
→優しく包み込んでくれる、どっしり構えていてくれる、聞いたら何でも答えてくれる…etc

その安心を擬音語で表すと?

→ふわふわ、どっしり、しゃっきり、ほっこり…etc

その安心を、どんなふうに与えている?
→遠慮がちに、自信を持って、親しみを込めて、丁寧…etc

その安心を、キャラやもので例えると?
→ちょっとやそっとじゃ揺るがない柱、どんなときでもそばにいてくれるベイマックスのような存在、寝る前に飲むあたたかいハーブティー、困ったとき相談に乗ってくれるお医者さん…etc

このようにいろいろな切り口から、「安心」の輪郭をはっきりさせていきます。

抽象度が高すぎるとクライアントにとっても、合っているのかずれているのかのジャッジが難しくなってしまいます。コンセプトは今後の制作の軸となるものなので、最初にしっかり判断してもらうためにも「クライアントにしか言えない、かつ、表現方法の幅は広く持ったコンセプト」を言語化する必要があります。


アイデアの余白を残す

抽象度が高すぎてもいけませんが、絞りすぎるのもよくありません。ここで色やかたちを固定してしまうと、表現の可能性を狭めてしまいます。そのため、「青で」「直線的に」といった、表現方法までは決めません。あくまで表現の方向性を定めるのみで、その先の主導権はデザイナーに渡します。
ことばには力があるので、一言にとらわれて視野が狭くなってしまったり、あったかもしれない表現を切り捨ててしまったりすることがあります。それは、理想的なコンセプトメイキングとはいえません。

コンセプトはいわば、いい表現へ飛躍するために必要なジャンプ台。

あくまでコンセプトをつくる側は、デザイナーが安心してアイデアを探しに行けるような土台を整えることを意識しています。


コピーとの違いを理解する

エルでは、コンセプトとコピーをつくる人が同じである場合がほとんどです。そのため、両者の考え方と役割の違いを意識して、混在しないようにすることが必要になります。実際どちらも書いていると、使う頭の部分が全く違うなと感じます。

コンセプトが「方向性を定義するもの」だとすれば、コピーは「コンセプトを伝えるもの」。役割が混在すると、コンセプトもコピーも本領を発揮することができません。

コンセプトからコピーを考えるときは、すこし時間を置き、「土台」をつくるモードから「飛躍」させるモードに切り替えるようにしています。土台をつくるときは、制作側で目線を合わせることに重点を置きますが、飛躍するときはより関係性を広げ、それを目にする人たちの心理や生活状況まで考える必要があります。コンセプトからデザインへの飛躍と、コンセプトからコピーへの飛躍は似ています。手段は違えど、考え方の根底は同じなのかもしれません。そうして考えたコピーとデザインが組み合わさることで、クライアントらしさがしっかり伝わるようになるのだと思います。


ことばとデザインの掛け合わせで、表現はもっと高く飛べる

言語化は大切です。でも、その言語化はなんのために行うのか。それを考えることで、表現を後押しすることばが生まれるのではないかなと思います。

コンセプトを定義するときは、バランス感覚が必要です。ことばがデザインを支配してもいけないし、デザインがことばを無視してはいけない。デザインがことばを後押しし、ことばがデザインに立ち返らせる。そんな関係性であることが理想です。

エルのデザイナーがことばを大切にしてくれているように、私たちライターもデザインの可能性を大切にしたいと思っています。ことばとデザインが掛け合わさることで、より「クライアントらしさ」が表現された、クオリティの高いクリエイティブが生まれる。エルだからこそ提供できる価値を、これからも大切に届けていきたいです。


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デザインとことばで、もっと世の中に「らしさ」を増やしたい。そんな思いで、エルでは新たにフリーペーパーを制作することにしました!
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デザインスタジオ・エルは「超えるをつくる」を合言葉に「らしさ」をデザインするWeb制作会社です。
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