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踊りましょう 夢の中へ

《地下アイドルの記録④-五人から三人へ-》

五人で走り出したグループだったけれど、デビューして一、二か月もたたないうちに、続けて二人のメンバーが抜けた。
セクシーなお姉さんと気の強い年下の子だ。
私は辞める寸前にBeehiveのソファでぐったりしているところや、下で社長と何か言い合いをしているのを見たきりで、なんか不穏な感じだなと思ううちに、いつのまにか抜けることが決まっていたらしい。
Twitterで脱退のお知らせがツイートされて、グループのLINEからいなくなっていて、最後はお別れを言う機会もなかった気がする。
どんな事情があったかは聞かされなかったから、今でも私は二人がどんなことを感じていたのかよく知らない。メンバーだったはずなのに、なんだかとてもあっけなかった。


こうして、「二〇二〇の東京オリンピックを目指して」とつくられたはずのグループはすぐに解散した。
正直、本当にあっという間だったので、この頃の記憶はおぼろげだ。二人とはこれから仲が深まってゆくのかなという感じだったから、さみしさ以上に、周りから「マジ?!」と言われるようなうわさの渦中にいたな、という感じだ。ファンの人たちもびっくりしたのだろう、後になって、"幻のグループだったよね…"と言われたりした。


いきなりそんなことがあったけれど、すぐに、残った三人での新しいグループができあがった。
あらためて集まった私たちは、考えてみればかなりバラバラの個性だった。
衣装の着物の色で言えば、赤、緑、そして青の私。え、今書きながらはじめて気づいたけど、光の三原色だ!・・・まぁまぁそれはよくて。

それぞれが芸名で活動していたのだけれど、ここで名前をあてるなら、イメージ的には赤の子は”マナツ”。
モデル体型で手足が長い。とっても活発で、どんな年齢層のファンとも同い年の友達みたいに楽しく喋る。自主性があるので異論なく新グループのリーダーになった。
緑の子は”ミフユ”。
マイペースで一筋縄ではゆかない月のような魅力があって、彼女のファンは彼女にメロメロになってしまう。細いのに、食べ物が大好き。とくに、肉まんやラーメンなどの炭水化物。
二人とも"自分"というものをとてもしっかり持っていて、性格がはっきりしていて、この世界でやっていくにはきっと大切な強さがあった。「これが好き」「これはムリ」「こうしようよ」と、ちゃんと口に出せるところが、一歩引きがちな私にはないすてきなところだった。

私は、二人ともまた違う感じだったと思う。グループでの立ち位置を季節でたとえるなら、ナツでもフユでもない、”アキ”とかだろうか。
ちょうど最近の気温のように、街には半袖と長袖のファッションがまばらに歩いているような季節。その人次第でどうともとれるような、曖昧なひらめき。
思えば髪の長さにしても、マナツはロングでミフユはショート、私はセミロングだった。使うお化粧道具も、声の雰囲気もツイートの感じも、それぞれ違っていた。きっと出会う場所が学校とかもっと他の場所だったなら、みんなバラバラのグループに所属していたんじゃないかな。


とにかく、東京の片隅、こんな女の子たちがふたたび集まってグループを組んだ。
あたらしいグループ名をもらって、宣材写真も撮り直した。三人での活動が本格的にはじまると、解散を一度経験した反動なのか、ギアをあげるみたくどんどんライブが決まっていった。
ライブは、平日の夜と、週末は一日に多くて三本。渋谷や秋葉原、中野坂上など都内のいくつものライブハウスを回りながら、時には「ヤバい間に合わないよ!」と大荷物を背負って秋葉原の街をダッシュしたりしながら公演に出た。

移動中や楽屋ではよく喋った。
たいていミフユがめちゃざっくばらんに何か言って、私は「ねえ笑笑」とかツッコミを入れて、マナツがひゃはは!と長い手足をぶんぶん持て余して体全体をつかって大笑いする。時々ミフユのギリギリな発言が周りに聞こえていないか気にして少し話題をそらしたりした後で、またミフユとその話になると、「え、そんなこと言ってたっけミフユやばいやつじゃん笑笑」と自分で言っている。またげらげら笑える。
日を追うごとに私たちはお互いのキャラクターがわかってきて、仲が深まっていった。
こうしてようやく本当に、あわただしくてきらきらした日々が始まったのだ。

少し先の話になるが、私の地下アイドル人生は短く終わる。
‎この世界は人の入れ替わりが、代謝が早いという。 短い間にもいくつものグループを経験する子もいるのだけれど、私は、このグループでしか活動したことがない。‎デビュー当初のグループもあるけれど、とても短かったし。きっとこれから先も、またこんなふうな活動をすることはないと思う。

だから、私の地下アイドルとしての青春のすべては、この三人組で活動した期間だった。
着替えが入って膨らんだバッグを背負って、ライブハウスからライブハウスまでの道を三人並んでひらひらと笑いながら渡った、数か月のこと。次は、ライブがある日の一日のことを書こうと思います。夢の中へ。

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