2014年タイインディーズシーン総括

dessin the worldのFacebookページではすでに公開しているのですが、2015年初旬にまとめた「2014年タイインディーズシーン総括」を掲載します。

ここ数年、だいたい3~4年くらいですかね、タイのインディーズの質・量ともにだいぶグレードアップした感があります。ボクがタイに住み始めた10年前ほどは、バンド数、ジャンルの多様性、演者のスキルもまだまだでしたし(といっても、絶対的なオリジナリティーを確立していたバンドももちろんいて、そういうバンドは今でも伝説として語り継がれています)、情報の拡散・検索についても、SNSが今ほど発展しておらず、インディーズバンド・アーティスト・レーベルが、自ら情報発信をするのは一苦労でしたし、そういう情報を検索して入手するのも、これまた一苦労でした。

なんでいまさら2014年のタイインディーズシーン総括を掲載するかというと、数年後にタイのインディーズシーンを振り返った時、2014年は「タイのインディーズ基盤を強固にする環境が整った年」と位置付けることができるかな、と思っており、つまり、タイのインディーズシーンにとって重要な転機となった年だからです。
インディーズレーベルに所属していないバンドが脚光を浴びるようになったり、タイの尖ったラジオ局「Cat Radio」主催の「CAT EXPO」が開始されたり、タイインディーズ音楽のストリーミングサイト「Fungjai(ฟังใจ)」がサービスインしたり、インディーズアーティストの音源を扱っている老舗CDショップ「Nong taprachan」がインストアライブに力を入れ始めたり、タイのインディーズを支援するあれこれが整備されたと感じています。

以下、ちょっと長めですが、どんなもんだったか、垣間見てください。

Ginn

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今年のタイインディーズ(主に、ロック、ポップ、ポストロック、ドリームポップ、マスロック辺り)で起こったことについて。個人的な好みは脇に置き、かつ、自身のバンドはなるべく客観的に見て、所感を。忘れてることがあったり、時間軸が前後してたり、若干間違ってたりするかもしれませんが、まぁ、ざっくりまとめってことで。

まずは全体像。

年序盤から中盤にかけては、Octave(レーベル無所属バンドを数バンド集めたグループ)に所属するJelly RocketZweedz n' RollStoondio辺りが界隈を騒がせた。Jelly Rocket、Zweedz n' Rollについては、まだ単独音源がリリースされておらず、リリースされれば大きな話題となるだろう。Stoondioは来年2月にアルバムのリリースが予定されており、また、さらにその先の展開もあり、来年序盤はStoondio色に染まると思われる。

年中盤から終盤は老舗レーベルのPanda Recordsが気を吐いた。MonomaniaHariguem Zaboyといった若手実力派バンドのアルバムリリース、レコ発企画、プロモーションを成功させ、突風のような勢いがあった。
また、レーベル無所属のDegarudaaireLowFatは年を通じて大型野外音楽フェスに出場する機会があり、特に、Stone Free Music FestivalNoise Market、Cat T-shirts Festival、Grass Tone Sound Music Festival辺りのフェスでライブバンドとしての本領を発揮し話題をさらった。

リリース関連でいくと、年序盤にはSO::ON DRY FLOWER所属のTwo Million Thanks、無所属のDegaruda、年中盤は無所属のaire、LowFat、Panda RecordsのHariguem Zaboy、年終盤ではPanda RecordsのMonomaniaが話題となった。彼らのレコ発には多くの観客が詰めかけ、とあるレコ発では会場に入れなかったほど。
Two Million Thanksはシンガポールやマレーシアなどにも招聘され、彼らの才能・実力を周辺諸国にも見せつけてきた模様。
aireはアルバムリリース、日本ツアーを敢行し、タイ国内の主要フェスにあらかた出演するなど、成果を残した年となった。

ミュージックフェスでいくと、タイの尖ったラジオ局「Cat Radio」主催の「CAT EXPO」が開催されたのが、一番のニュースかと思われる。このCat Radio、前進はFat Radioという名前で、タイのメジャー・インディーズ問わず、今この瞬間に現場で鳴らされている音楽を真の音楽好きリスナーに届けるラジオ局だった。Cat Radioになった後もこの流れは踏襲されており、Fat時代に開催していたタイ最大級野外音楽フェスFatFesを継承したCAT EXPOの復活は、タイの真の音楽好きリスナーからすると、待ちに待った復活だったのではないだろうか。来場するお客さんも、「フェスの雰囲気を楽しめればいい」といった享楽的な態度でなく、音楽を求め、アーティストを支援し、自分もフェスの一部になりにきた真摯な観客ばかりであった。

ただでさえ少ない、インディーズがライブをできる場所(日本でいうライブハウスとは趣は異なる)が4つもなくなった年でもあった。
一つ目はクラブ密集地のRCAにあったライブバーComic Cafe。機材もあまりよくないし、ライブが見にくいステージ位置であったにも関わらず、数多くのライブが開催されており、数多くの日本からのアーティストもこのステージを踏んだ。
そしてNa Nakorn Mini Bar。カオサン近くにあり、あの古き良き雰囲気を携えた居心地のいい場所だった。
Fatty's Bar & Dinerについては、閉店はしていないのだが、諸事情によりライブ演奏ができなくなってしまった。
最後は、こちらはライブハウスとして経営されていたHarmonica。音をしっかり鳴らし聴くことができる手入れされた機材、清潔に保たれた店内、バンドが出したい音を理解してくれて受け入れてくれる自身もアーティストであるオーナー。タイインディーズ界にとって重要な音楽発信拠点がなくなってしまったのは大きな痛手だったと思われる。数年後には、「Harmonicaって知ってる?今活躍してるバンドって、だいたいあそこ出身なんだよ」って言われてるんじゃないかな。

現在、バンコクでインディーズが演奏できる場所は、PLAY YARD by Studio Bar、Rehab Bar RCA、Hemingway's Bangkok、Immortal Bar、Zoo、Moose Bangkokくらいかな。

他には、Spotify(のようなサービス)のタイインディーズ版「Fungjai(ฟังใจ)」がリリースされ、タイのインディーズを聴ける環境がまた一つ整った。この集団は、Web上で音楽を聴けるようにするだけでなく、インディーズアーティストに対して積極的にセミナーを開催しており、自作音楽への著作権に関することや、インディーズ音楽のマネタイズについてなど、基盤を強固にするための啓蒙活動をおこなっている。

また、インディーズアーティストの音源を大事に丁寧に扱ってくれる老舗CDショップの「Nong taprachan」は、今年中盤くらいからインストアライブに力を入れ始め、数多くの有名無名アーティストがライブをおこなった。終盤には、インストアライブの様子をストリーミング放送でも放映・アーカイブして後日でも閲覧できるようにしており、アーティストの作品を広めるため、試行錯誤しながら多大なる支援をしている。

個人的には来年の予想はしてみたものの、あっちとかこっちとかのアレがなんか色々あるので割愛。
来年も新たなバンドやリリース、フェス、ライブハウスが次々とでてきて、ボクの予想なんか覆る面白いシーンになることを期待。

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