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花や虫たち

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花の写真 時々花と虫たち
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初夏の花

 ちらほらと薔薇が咲き始めたこの時期、市内にある県営公園の花壇では初夏の花が一斉に咲き誇っている。  この公園は散歩がてら月に数回は来ている馴染みの場所。長い階段もしくは迂回路の坂道を登った丘の頂上にあるために訪れる人は少なく、とても静かなひとときを過ごせる。四季を通じてこの花壇を観察していると、いろいろと気付かされることがある。    1ブロック20平米ほどの花壇が10ブロック並び、それぞれ一人ずつボランティアの方々が自由気ままに管理している。人様の家の庭をじっくり

『オルハン・スヨルジュ記念園』

 関門海峡を見下ろす下関市の高台にある火の山公園では、5万株のトルコチューリップが満開となっている。 下関市とイスタンブール市とは「海峡」という地理的類似性があることから1972年姉妹友好都市となった。ここに植えられたチューリップはすべてイスタンブール市から寄贈され、下関市民ボランティアによって植栽されたものだ。  このチューリップ園の名称『オルハン・スヨルジュ記念園』とは、1985年3月、イラン・イラク戦争の最中にテヘランに取り残されていた日本人215名を救出した

庭に春時雨

 この一週間は北九州でも不安定な天候が続いた。暖かくなったと思えば急に気温が下がり、強風が吹き荒れ、雨が降る。晴れて静かになったと思ったら今度は黄砂。黄色く霞む空を見上げる度に自ずと呼吸も浅くなりがちだ。 それでも雨が降ると無性に草花の写真を撮りたくなるのは、目の前の光景が突然輝き始めるからだ。春時雨は庭の春色をいっそう際立たせてくれる。  我が家の庭は、とても全体をお見せできるような大層なものではないが、先月の梅の花を皮切りに所々春らしい花が一斉に咲き始めている。 12月

言い得て妙

 冬から春へと移りゆくこの時期、景色を春色に染めるのは河津桜や寒緋桜。市内にあるいつもの植物公園に出かけると、一本の河津桜の樹に数十羽のメジロ大集団が群がり、近くに人がいても逃げることなく、一心不乱に蜜を吸っていた。 花壇には色とりどりのクリスマスローズの他、カンザキアヤメ、スイセン、バイカオウレン、ヒマラヤユキノシタ。少し気温も暖かくなってきたせいか、春本番に向けて植物園もにわかに活気づいてきた。 来園者のために休憩室として使われている古い木造家屋の和室には雛人形も飾ら

大地に安らぐ

 早春の風物詩、梅の花がほぼ満開となった。先日配布された市の広報に、市内の公園にある枝垂れ梅の開花情報が載っていたので、早速雨の日に出かけることにした。 まだまだ冬色に染まる公園に、そこだけ春を先取りするかのような華やかな彩りの一角が遠くからも見て取れる。白、赤、ピンクと小さな花弁を無数に付けた細い枝が四方に広がり、こぼれ落ちるように咲いているその姿は、うっとりするほどの風情と、枝垂れ桜とはまた異なる落ち着いた趣きがある。 梅は中国原産で朝鮮半島経由で日本に渡ったとのこと

冬の花

 全国的に寒風吹きすさむ中、北九州では梅の花が咲き始めた。体感的にはまだまだ真冬。しかし梅の樹に住まう主は、微細な温度変化をしっかり感じ取っているようだ。 先日、雪が降りしきる朝にこの梅園を見て廻っていると、殆んど花を咲かせている樹の中にあって、蕾が少しだけだったり、既に枯れてしまった樹が数本あった。こうした樹の幹にはいずれも雪が付着して残っていた。ところが咲いている樹には雪が付着していない。つまり花を咲かせている樹の幹は温度が高い、ということになる。 外気温が低くても、

「春が来たよ」と思わせて

 二十四節気の小寒に入り、これからが寒さの本番。被災された方々にはどうか暖かな環境をできるだけ確保して、御自身の心と体を冷やさぬようお過ごし頂きたいと思う。  北九州の街の景色もすっかり冬枯れ色に包まれている。しかしながら春の訪れの中に夏の気配が隠れているように、秋の訪れの中に冬が潜んでいるように、冬の真只中にあっても、そこにはすでに春の息吹きが見え隠れしている。 先日、冷たい雨が降りしきる朝に、よく出かける市内の植物園に行ってみた。重く垂れこめた雨雲の下は光が乏しい。そ

秋薔薇と「ばら色の人生」

 秋薔薇のシーズン到来である。今年も晴れた朝と、雨の朝の2回、市内にある同じバラ園に出かけた。天候によって印象が大きく異なるところが花写真の面白さ。明るい陽射しの下では彩り豊かに輝き、雨に濡れると艶めかしく光る。 春薔薇に較べるとやや小ぶりに見え、花数も少ない。しかし、その分一つ一つの花の存在感が浮き出て、より輪郭がくっきりしてくる。夏に向かう薔薇は期待に胸を膨らませるように盛大に咲くが、冬に向かう薔薇は過去を懐かしむようにひっそり咲いているように見える。 薔薇と言えば、シ

秋風の通り道

10月の朝の光は柔らかい。 秋の薫りを含んだ風が木立をサラサラと通り抜けてゆく。 温かい光と冷たい空気が重ね合わせになって枯草の匂いを閉じ込めている。 風が吹くとふわっと舞い上がる。 草むらに潜んでいる虫たちが足音に驚き次から次へと飛び跳ねた。 四季の移ろいをいち早く敏感に嗅ぎ分けるのは桜の樹。 春にはまだ冬の寒さが残る時期に蕾を膨らませ、秋は夏の余韻が終わらないうちに葉を紅く染め上げる。 秋風の通り道に色づいた葉が舞い落ちた。 それを見た花や実をつけ忘れた草木たちは大慌

曼珠沙華の花咲く時

季節は秋彼岸の7日間を迎え、外の景色はすっかり秋の光に輝いている。 お彼岸と言えば「彼岸花」。気温20~25℃で開花時期を迎える。日陰は開花が早く、日当たりのいい所は遅くなるのはそのためだ。 先日の雨の朝、早速市内の植物園に出かけてみた。 最近は異常気象のために、桜や薔薇の開花時期が随分と早まっているが、彼岸花は今年も正確にこの時期に合わせて開花した。 どうやら他の種とは異なった秘密がありそうだ。 日本では別名として「曼珠沙華(マンジュシャゲ)」があまりにも有名。

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8月の我が家の庭

探すのをやめた

(文4100字 写真30枚)  「ブルービー」を初めて見たのは昨年7月のこと。青と黒のストライプに身を包んだ美しい蜂だ。正式名称はナミルリモンハナバチ(学名:Thyreus decorus)で、ハチ目・ミツバチ科の昆虫。 世間では「幸せを呼ぶ青い蜂」と呼ばれている。どうやら2004年に出版された葉山祥鼎氏の絵本「ブルー・ビー 」の中に、そのような記述があるらしい。 全国的にも個体数が極めて少なく、県によっては絶滅危惧種に指定されている。もし出会えたらそれは幸運なこと、とい

嵐の後の静けさ

 今月初旬、3日間断続的に続いた線状降水帯による嵐のような風雨は、九州北部に大きな被害をもたらした。ようやく過ぎ去った日の翌朝、市内にある公園の丘へ登ってみると、途中の上り坂や階段には大量の土砂が流れ込み、周辺の森の枝葉が散乱するなど、その激しさを物語る荒れ果てた光景が広がっていた。 丘の頂上にある花壇もまた、ついこの間まで咲き誇っていた夏の花たちが傷つき、へし折れ、枯れているのが見渡せる。所々残っている花も元気がなく、よれよれと立っていた。 そうした中、花壇の片隅に唯一

蓮の花の中の宝珠

(文3700字) 花菖蒲と紫陽花の季節が終ろうとしている。さて次に咲くのは何だろうと待っていると、市内にある植物園の案内に、今が蓮華の開花時期とあったので、出かけてみた。 前夜からの強い雨にぐっしょり濡れた赤や白の蓮や睡蓮が、木陰でひっそり咲いていた。水滴が重いのか、うなだれているように見える花もある。 それにしても不思議な花だ。 この世のものとは思えない異次元の空気感が漂う。 思わずじっと見入ってしまう。 そして昔聴いたことのある、チベット仏教のマントラ(真言