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はまゆう咲く丘

 北九州市のとなり福岡県芦屋町「夏井が浜」では、はまゆうの花が見頃を迎えている。
夕焼け色に染まる響灘を背景に、薄暗がりで咲き誇る姿は、決して艶やかなものではなく、むしろ控え目すぎるほどに慎ましい。
神奈川県三浦半島を北端とする温暖な海岸沿いなどに自生する常緑性のヒガンバナ科多年草で、浜の近くで咲くことや、神事に使う木綿(ゆう)に花が似ていることから「浜木綿(はまゆう)」と名づけられた。
7~9月には白い線状の花を咲かせる。
そしてこの花は夕方~深夜に満開になるという。

受粉が成立すると、花被筒と融合した子房が肥大して歪な球形の果実となり、熟すと裂開して丸くコルク質の厚い種皮に覆われた種子を数個落とす。この種子は海上を何ヶ月も生きたまま漂流する能力があり、海流によって現在の分布域に広がったと考えられている。種子は水がなくても発芽し、机の上などに放置した状態で発芽するのを観察できる。自然状態では海岸に漂着してから潮上帯の砂や砂礫の上で発芽し、雨が降って周囲に水が供給されたときに速やかに根を伸ばすものと考えられている。

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つまり東アジアから南アジアにかけての温暖な地域に自生していたはまゆうの種が、黒潮にのって日本列島に辿り着き、亜種となったのだ。
それほどの強靭な資質を持ちながら、開花するその慎ましい姿は妙に矛盾を感じる。他の夏に咲く花々が派手な色や形をした種が多い中で、何故はまゆうは質素な白い花を、しかも夕暮れから夜にかけての、浜には一段と闇が深まる時間帯に咲くという生き方を選んだのだろう。
花言葉『どこか遠くへ、汚れがない、あきらめない気持ち』はまさにぴったりな表現だ。
花に「汚れがある」種はないと思うが、ならばはまゆうには「よりいっそう汚れがない」とでも言うべきか。温暖な地での生存競争に打ち勝つ能力を高める道を選ばず、遠い見知らぬ海辺でのささやかな生存を夢見て冒険の旅を選んだDNAには、純粋な祈りが宿っているということか。
人類が世界各地で生存競争を激化する中、同時代にあってはまゆうのような生存の在り方に触れると、そこに静謐な祈りを感じるような想いがふっと込み上げてくる。










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