見出し画像

ウィスキーボンボン、母と決別の日。

2024年2月14日。
目の前にあるのは、日本酒ボンボン。
バレンタインに母へ渡すために買ったものだ。
百貨店を通りがかった時、即買いしたものだ。

子との対話で、よく「あなたの好きな○○はなぁに?」という話になる。
たとえば、『好きな食べ物』。
私が『嫌いな食べ物』は、らっきょう。
それ以外は、よほど極端な特徴がなければ食べられると思う。
そもそも、私はそんなに食に興味がない。
私は自分の『好きな食べ物』が分からない。
だから子に『好きな食べ物』を聞かれると、毎回答えに困っている。

ちなみに子の『好きな食べ物』は、なんとなくわかる。
いつも、堂々と教えてくれるし、主張してくれるから。
ついでに子の『嫌いな食べ物』は、なんとなく知っている。
いつも、申し訳なさそうに、お皿にちょこっと残しているから。
育児は基本的に子が優先だ。
私は、自分のことが後回しの後回しになっていることにも気付いた。

育児ってそういうものか?
人生ってそういうものか?
自分の『好きな食べ物』も分からないほどに?

数年前、実家で母の『好きな食べ物』を知った。
初めて知った。
初めて、母の口から、母が『好きな食べ物』を、聞いた。
今の私はアラフォー。実家にいたのは10年ちょっと前まで。
両親には30年近く実家でお世話になっていたのに。
そんなことも知らなかった自分に、少しショックを受けた。

ふと、自分の子との会話を思い出す。
「私、子に自分の『好きな食べ物』言ってなかったよな。
 意外と親のことを知らないことが普通なのかも」とも思った。
でも、親の『好きな食べ物』を知らなかった私。たった今、知った私。

「ウィスキーボンボン、昔から好きなんだよね。美味しいよねー。」
と無邪気に、嬉しそうに言う母がかなり新鮮だった。
会社員時代に誰かにもらったらしく、いたく感激したらしい。
世の中、こんなに美味しいものがあるとは!と。

『へー、私って母のこと、意外に何も知らないんだな。』
だって、他人だもの。母といえども他人。
ショックだったのは、私が嫌いなウィスキーボンボンを母が好きだった。
それもあるかもしれない。

美味しいチョコと思っていた。
口に入れてかんだ瞬間、正体不明の冷たい何かが口に広がった。
全部固形物のはずが、中から液体出てきたことに、まず驚いた。
鼻に癖のある冷気。
液体に触れた舌が一瞬ひるんだ。
レモンを丸かじりしたような酸味で、唾が大量に出てくる、あの感じ。
まさかお酒が入っているとは知らなかった。
小学生の私にはゲロマズだった。

「なにこれっ!?チョコじゃ無いの?まっず!!!」
「チョコよ。ウィスキーボンボンっていうチョコ。」
私のウィスキーボンボンの第一印象は最悪だった。
私の反応を横で手を叩いて鼻で笑っている母も最悪だった。

目の前にある日本酒ボンボン。
母のためにと思って買ったものだ。
母と会うのをやめようと決めて早半年。
母のLINEは私に届くが、生存確認的に捉えて既読スルー歴4ヶ月。
母にバレンタインチョコを渡す必要、ないんじゃない?
渡すべきは、夫と子達と…私、でいいんじゃない?

母が好きなのはウィスキーボンボン。
私が用意したのは日本酒ボンボン。
変わり種も良いんじゃないかと。
同じアルコールだしと。
でも、ウィスキーと日本酒は全然違う。
お酒という大分類では、同じくくりのウィスキーと日本酒。
製造法:蒸留と醸造では、全く違うウィスキーと日本酒。
まるで、母と私が違うように。
母は、昔からウィスキーが好き。家でもよくウィスキーのボトルを見た。ちなみに母は日本酒、あんま好かないみたい。
私、ウィスキーより日本酒の方が好きなんだよね。ウィスキーも飲むけど、嫌いじゃないけど。
まるで、母と私のお酒の好みを象徴しているように。

これまでの感謝を込めて、シールを剥がし、ひと粒。
私が食べた日本酒ボンボンは、昔のウィスキーボンボンほど驚かなかった。
でも、少し美味しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?