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建築のこと

私自身の話を少しすると、学生時代は建築を専攻していました。一応大学院まで行っています。仕事に何か役に立っているかというとほぼ役に立っていません。笑

専攻の中で更に専門ということになると建築の「歴史」になります。
「西洋・近代建築史研究室」に所属していました。

建築学科というと製図板に向かって図面を引く姿を思い浮かべるかも知れませんが、それは数ある科目の一部に過ぎません。研究室は様々に細分化されています。

大きくは「意匠」「構造」「環境」に分かれるのですが、「意匠」は「デザイン」「都市計画」「歴史」「建築計画」等に分かれ「構造」は「鉄筋コンクリート」「鉄骨」「振動学」「構造計算」等に分かれ、「環境」は「空調設備」「温熱環境」等々に分かれます。

同じ建築の学生でも鉄骨に力を加えて変形具合を観察している学生もいれば、学校中の空調機器に温度計を仕込んで温度変化を確かめている学生もいれば、コンクリートを練って強度を確かめている学生もいれば、一日中パソコンに向かって図面を描いている学生もいます。

私はというと、ゼミの時間=読書の時間でした。「建築史研究室」というのは建築の歴史を、建築家の理論を、ひたすら読んで勉強するのです。一応理系なのに・・・ちなみに建築学科は欧米ではほとんど文系に分類されるそうです。

デザイン力のある学生はそういった理論を自分のものにして自分の設計デザインに活かすのですが、1年生のデッサンの授業でセンスのなさを自覚し、建築家になることを諦めた私は消去法で建築史という分野を選んだだけでした。今思えばこの選択は良かった。大学院で学んだことは仕事の役には立っていませんが、人生の糧になっているという実感があります。

建築の大学教育は「実際に設計して建てられるようになること」ではなく「どのような建築が世の中に存在するべきか」という理論をかなり重視します。面白くないビルが立ち並ぶ日本の都市の風景を見慣れている皆さんは「本当かよ」と思うかもしれませんが、少なくとも私の大学はそうでした。

建築の理論というのは何かと言うと、ざっくり言うと「なぜその形にしたのか」という理由付けです。

例えばイギリスの大英博物館

どう見ても紀元前のギリシアの神殿の建築様式ですね。
なぜイギリスで1800年代に建てられた博物館がパルテノン神殿のパクりになっているかと言うと、この頃西洋では「新古典主義」という古代の建築の直線的、比例的なプロポーションを見直そうという動きが盛んだったからです。

これは中世に絶大な力を持っていたキリスト教会建築に多用されているバロックロココと呼ばれる装飾華美な様式に対する批判からきている主義です。下の写真はバロック様式の礼拝堂の例です。

では何故古代ギリシアの神殿が改めて見直されるほどの価値があるのか。それは「オーダー」と呼ばれる比例関係で各部材が構成されているからです。見え方が美しくなるように「計算」されており、そこに建築の理論があります。「適当」ではないのです。
「オーダー」については興味のある方は「オーダー 建築」で検索。

紀元前の建物ですら、ある「理論」に従って設計されている訳です。では、現代の日本の面白くない街の風景は何の「理論」に従って設計されているかと言うと、それは「経済」理論です。

行政によって定められた容積率一杯に床を作ることでその建物があげる収益を最大化する。それがビルなら広いほどテナントから賃料はとれるし、マンションなら広いほど分譲価格が上がるわけです。
また、形は単純であればあるほど建築費は安上がりです。

この様にして、日本のみならず世界中のほとんどの過密都市は四角いビルが立ち並ぶ風景になった訳ですね。それも資本主義社会が生み出した立派な建築理論な訳です。

ちなみにサムネイル画像は1960年代にイギリスで活動した「アーキグラム」という実際に施工しない(できない)建築の絵を描くという「絵に描いた餅」を地でいく建築家集団が考えた「ウォーキングシティ」という「理論」です。「ウォーキングシティ」は足が生えていて居住者が希望する場所へ自ら歩いていくというなかなか思い切った絵です。馬鹿げていると思われるかも知れませんが、ノマドな現代人のライフスタイルを50年以上前に的確に予言していると思いませんか?実際には建物を建てない建築家が現れるほど建築は理論が重要なのです。

残念ながら建築的センス(≒美術的、造形的センス)が皆無だった私もこの建築理論の勉強は楽しかった。ただこの手の本はあえてなのかなんなのか、難解に書かれていることがほとんどです。一般の方が読んで面白いと思えることは稀でしょう。そして専門書コーナーに置いてあり、値段が高い・・・

建築は造形物であるが故に芸術作品としての側面も少なからずあるため、建築家のエゴの部分はどうしても出てきます。ですが、建築は人に使われて初めて価値が出てくるものです。人が使うために造っているものです。だから、どうしてそのような形になったのかという「理論」は一般の方々に知ってもらわないと意味がない。

なので、たまに建築に関することも書いていきたいなと思います。【能動的三分間】で専門書等を取り扱う時はがっつりと、【雑感】で書くときは適当に。うんちく程度に建築に関する知識を皆さんと共有できたら面白いかなと思います。

講釈垂れましたが現在の私は建築の専門家でも何でもないので悪しからず。


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