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実力も運のうち(運も実力のうち、ではなくて)

6月の対話会のテーマ本は『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)です。

5,6年前でしょうか、知人と歩いていたら、ひょんなことからこんな話になりました。その方がおっしゃったことを乱暴に要約すると、貧困層は学習する機会が少ないと言われるが、日本においては、図書館だってあるし、学ぼうと思えばいくらでも学べるはずでは、ということでした。

その当時は、私も今よりさらに知識が少なかったものですから、大して反論もしませんでした。でも、歩きながらの会話だったことも覚えていて、なぜ、そんなささやかなタイミングの会話をずっと覚えているのか、それは少しは違和感があったからなのかも、などと振り返ります。

そこから今の私は、知人を擁護するならば、その方は自分の力でここまでやってきた、という自負があるからなのかも、と思いますが、上記の考えには賛同しかねるな、と考えています。

というのも「非認知能力」ということを知ったからです。

▼「認知能力」と「非認知能力」

認知能力とは、学力テストなどで測定することが可能な能力です。一方、非認知能力とは、集中する力や人間関係を築くのに大切な人の心や相手の立場を想う力、やり抜く力、自分の力を信じられる力、自制心、忍耐力、創造する力…などといったものを指します。

ちなみに、この非認知能力が、認知能力に影響を与えます。(*1)「成功のカギは、やり抜く力」というtedの動画が多くの人に観られているようで、端的で分かりやすいと思います。(*2)将来の成功に影響している能力は、IQや見た目などではなく、上記のような、「非認知能力」なのです。

しかも、この非認知能力は幼児期に育まれます。つまり、小学校からの教育で習得していくものではなく、就学以前にどんな「環境」に身をおいているかで育まれ方が変わってくるのです。(*3)

▼ 「能力主義」に洗脳されている自分に愕然…

世間では一般的に、稼いでいる人が、偉いし素晴らしいといった評価を得ています。そして、自分たちは稼いでるから素晴らしいと言うだけならまだしも、ホームレスの人や生活保護を受けている人たちを蔑んだりする出来事があったりする中でものすごく疑問に思うわけです。

もちろん、あなた方が頑張ったこと、頑張っていることは分かるのだけれど、
でもスタートが違うかもしれないじゃない?もしも同じ環境で幼少期を過ごしたら、今のあなたとまったく同じ地位などを手に入れられていただろうか?

その疑問をズバッと「実力も運のうち」と、その実力も結局運がよかったからだと言っているくれていることに胸のすく思いでした。

と同時に、この本を読んで、自分自身が、めちゃくちゃ「能力主義」に洗脳されていることに愕然としたのです。

能力主義、つまりは、人種や性別、出自によらずに能力の高い者が成功を手にすることができる、という考えが及ぼす影響を私はまったく考えられていなかったのです。それが当たり前で、それを否定するという考えを思いついていませんでした。いかに、その中でうまく生きるか、それから影響を受けずに生きるか、ということは考えていたけれど、抜け出すことを考えられていなかったとでも言いましょうか。

自由と平等…能力主義はこれを与えてくれているように感じているが、果たしてそれは本当だろうか?

能力主義社会における、負の影響とはなんだろうか?

「自分の運命に自分で責任を負っている」
「自分が値するものを手に入れている」
・・・そんな世界は、果たして幸せなのだろうか?

「たまたま」「幸運なことに」今の状況があることを認めることはこれまでの自分の努力を否定することではない。「たまたま」だからこそ、世界は不平等であり、不平等であるからこそ、支え合うという視点も必要なのでは。

「たまたま」「幸運なことに」などの運のもとに今があることを認識した上でより一層、飛躍をしたいならば飛躍することも可能だし、豊かな、つまり一人ひとりが自らと他人の存在を認められること、不平等を前提に支え合うことができるような世界が広がるのではないだろうか。

いつものことですが、当たり前で疑問に思うことすらなかったこの前提を疑うことで、社会を批判したいわけでも、政治を批判したいわけでも、誰かを批判したいわけでも、現実から逃避するわけでもなく、自分にとって最適な、生きていきやすい道を見つけられるのではないかと思っています。

今月も、大きなテーマですが、どうでしょうか・・・・?笑
どう思われますか・・・?

(文責:森本)

いつも通り、本は読まなくても大丈夫ですがご参考までに。


*1)「ペリー就学前計画」で調査されているので関心があれば調べてみてください

(*2)アンジェラ・リー・ダックワース 「成功のカギは、やり抜く力」

コンサル業界の高評価な仕事を辞めて、アンジェラ・リー・ダックワースは、ニューヨークの公立中学校1年生に数学を教え始めました。彼女がすぐに気付いたのは、IQだけが学業での成否を決めるわけではないということ。ここで、彼女は、成功のカギとなる「やり抜き力」理論について語ります。

You Tube概要欄より

(*3)
『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』 (文春新書)

貧困の連鎖の正体とは(p.130〜)もとても分かりやすいです!


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