日本とアメリカの教育の違いが教える「自分の頭で考える」ということ
『世界一やさしい問題解決の授業』著者・渡辺健介氏に聞く
問題解決本ブームの火付け役
この本が出た頃から、「問題解決」「ロジカルシンキング」をテーマにした本が、どっと世の中に送り出されることになった。言ってみれば、「問題解決」本のブームの火付け役になったと言っても過言ではない。それが2007年に刊行された『世界一やさしい問題解決の授業』だ。
著者の渡辺健介氏は、親の転勤によって中学2年からアメリカで教育を受けることになり、1999年にイェール大学を卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社した。
本の原点には、アメリカに渡り、日本とはまったく異なる教育を受けることになった渡辺氏の原体験がある。
問題解決力の重要性を感じた原体験
「最も衝撃的だったのは、高校時代の米国史の授業でした。当時の日本はどちらかというと年号を覚えたり、知識偏重型のところがありましたが、アメリカではまるで違ったんです」
例えば、公民権運動を取り上げるときには、黒人差別の映像を、あらゆる人種が混在するクラスメイト全員で見た。一方で弾圧する側の資料や関連する小説も読んだ。その上で全員で議論し、論文を書く。この授業スタイルに渡辺氏は驚きを隠せなかったと言う。
「授業では先生に『Ken、君はどう思う?』と意見を聞かれてびっくりしました。『えっ!? 答えは先生が知っているんじゃないの? なんで生徒の僕に聞くの!?』と。まさに自分の頭で考え、意見を述べるためのクリティカルシンキングであり、ロジカルシンキングを学んでいたんです」
そして渡辺氏はマッキンゼーに入社し、ビジネスの現場でも、クライアントの問題を解決するためにこのロジカルシンキングが活用されていることを知った。
インタビューでは、渡辺氏はこう語っていた。
「なんでこういう考え方をもっと若い時に学校で教えてくれなかったんだろう。これが日本の教育の課題の1つではないか、と強く思ったんです」
そしてその思いは留学を経て、実際に自ら「仕掛ける」ことに至った。
『世界一やさしい問題解決の授業』誕生のきっかけ
渡辺氏は26歳から、ビジネススクールに通った。そこでは教授陣から、まっすぐな問いかけを日々受けたという。“What is it you plan to do with your one wild and precious life?” つまり、一度しかない人生、何がしたいのか、ということだ。
渡辺氏は「教育」であれば人生を賭ける意義があるのではないかと思い、留学後すぐさま社内で教育プロジェクトの提案をした。それが「本を通じて問題解決教育の必要性を啓蒙し、実際に若手が学校に教えにいくプロジェクト」だった。
「社会にとっては教育に革新を起こす機会になり、マッキンゼーにとってはブランディングの機会になり、自分のような若手たちにとっては意義ある挑戦をする機会となる、三方よしではないか、と提案したんです」
マッキンゼーには“Create your own Mckinsey”という言葉があるという。アントレプレナーシップマインドを持って、マッキンゼーのプラットフォームをうまく生かせ、という意味だ。その結果生まれたのが、『世界一やさしい問題解決の授業』だった。
「提案すると、日本支社長は当時30歳の若造に記事や書籍を書く貴重な機会をくれました。そして、全世界のトップや米国支社長と話したら『Great initiative! それは重要な課題だ。そこまでパッションがあるのであれば、マッキンゼーを飛び出して仕掛けてみなよ!』と後押しをしてくれたんです」
そして30歳のとき、渡辺氏は教育界に新たな風を吹かせるべく会社を飛び出した。
(次回に続く)