成功の明暗を分ける「真似されてもコピーできないもの」とは?
『ニュータイプの時代』著者・山口周氏に聞く
構想や妄想ができない。だから、予測に頼ろうとする
新しい時代を生き抜くための24の思考・行動様式が説かれている『ニュータイプの時代』だが、日本人がとりわけ苦手としているものがあるという。未来を「予測」するのではなく、未来を「構想」することだ。
「構想や妄想ができない。だから、予測に頼ろうとする。一つのボトルネックは、構想したことができたとしても、堂々と人に語ったり示したりする勇気がない、ということでしょうね」
本書では、こんな記述が並んでいる。
人工知能の登場によって「人間の仕事が奪われてしまうのではないか」という不安が取りざたされてきたが、この問題についてもこう記述する。
「真似する力」すらも衰えてきている
日本の構想力の弱さの背景には、経済成長期に欧米のキャッチアップだけを目指してきたことが挙げられると山口氏はいう。自分でビジョンを作る必要はなかったのだ。しかし、「真似する力」すらも衰えてきているのではないかと語る。
「例えば、昭和の名経営者は、みんな海外に行って視察し、謙虚に学んでいたんですよ。トヨタ自動車の大野耐一さんもそうだし、ヤマト運輸の小倉昌男さんもそう。もっといえば、東郷平八郎はイギリス海軍に留学したし、伊藤博文も海外に学んだ。その上で、ビジョンを作っていったわけです。今はビジョンも作れない上に、ちゃんと真似もできない。これでは厳しいですよね」
もちろん、日本にも良さや強みはある。例えば、モノづくりの精密さや仕事の律儀さ、丁寧さなどもそうだ。それは各方面から高い評価を得ている。だが、こうした力も、残念ながら価格に転嫁できていない、と語る。これも日本人が苦手とするものだが、「意味のポジション」を市場で取れないのだ。
本書でも自動車メーカーのブランド比較で、なぜイタリアやドイツの車が高い価格で勝負できるのかが紹介されていたが、インタビューではこんな話をしていた。
「やっぱり意味づけが苦手なんですよ。今、シンガー・ポルシェが世界中で大人気になっています。10年前なら300万円ほどで買えた古いポルシェを仕入れてきて、エンジンをチューンしたり、外装を飾り付けたりして、シンガー・ポルシェで売り出したら、最も安いものでも4000万円ほどする。高いものになると億を超える。それでも、ウエイティングになっていて、買えないわけです」
デザインはコピーされるが、「意味」はコピーできない
日本では、ポルシェはオリジナル至上主義で、手を加えると価値が下がると考えている人が多いのだという。
「でも、新しい時代の文脈に合わせて意味づくりと価値づくりをしてビジネスをすると、とてつもなく利益率が高くなり、しかも世界中で求められるようなことが起きるわけです。新車のアストンマーチンよりも、高いわけですからね」
テクノロジーやデザインは、コピーされやすい。しかし、「意味」は簡単にコピーできない。本書にあったこの記述は、極めて説得力がある。
個人の思考・行動様式のみならず、ビジネスも「ニュータイプ」への移行が求められているのだ。最終回は、刊行後に驚いた意外な反響について聞く。
(次回に続く)