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冬の物語(短編集)〜アフリカの日々、バベットの晩餐会の作家が書いた11の物語。

20ページから40ページ超の11話で成り立つ一冊。
自然の描写が美しい。
決して簡単にスラスラ読めるわけではないが、
最後は投げ出さずに良かったと思える一冊。

⭐︎ 少年水夫の話
自分のことは自分ですること。誰も助けてはくれない。
これが、少年シモンが今までの人生で学んだこと。
船のマストの先に絡まり必死にもがくハヤブサを助けたのは何故? 

休暇の町で少女に恋をした。
会いたかっただけなのに人殺しをしたシモン。
ファンタジー? それとも現実? こんなことあったらいいな。


⭐︎女の英雄
1870年代の普仏戦争下、フレデリックは国境の町で逃げ遅れた。
同じく足止めにあった人々の中に、正統派フランスの貴婦人がいた。
雌ライオンの如く振る舞い
ドイツ兵の横暴な要求に、毅然と立ち向かう
「女の英雄」エイローズ〜連想するのはレディ・ゴディバ

5、6年経った後、再び出会えたエイローズが語る
女の性質は今もありか。二人の空気感が素敵。


⭐︎ペーターとローサ
教会は生と死が身近な場所であり、
ローサは牧師の娘、ペーターは、牧師の妹の子だ。
ペーターはローサに自分の秘密を打ち明けた。
「外の世界へ行きたいんだ。」

本のジャケットは、この物語を表している。
美しく厳しい冬、北欧の自然の中を歩いていく二人。
その先に待ち受けるものは、切なく避けられそうもない。
怖さがわかるほど大人になっていなかった。


⭐︎悲しみの畑
老領主の治めている土地で放火が起きた。
無実を主張する男は証拠もなく、男の母親は助けたかった。

「日の出から日没までに、一人で
すべてのライ麦を刈り終えたら放火の訴えは出さない」
老領主の言葉どおり、命と引き換えに事を成し遂げた母親。

老領主と若い甥の会話は、厳かな舞台劇のようだ。
人生で守り続けてきたものの重さを知る老領主と
若い甥の正義感のぶつかり合い
歴史とは 運命とは 人生の奥深さとは、なんなのだろう。

わが甥よ、偉大なるおこないは、たとえそれで涙と血を流すとしても、力の源となり、後の世代に受け継がれる宝となる。それは、苦難のとき、欠乏のとき、民にとってのパンとなるのだ。

冬の物語・イサクディネセン



他に「カーネーションの若者」「真珠」「無敵の奴隷所有者たち」 
「夢を見る子」「アルクメーネ」「魚」「心を慰める話」

「いい装丁の本に間違いはない」
あとがきには、作家自身が一番好きな本であると書かれてあった。

映画「愛と哀しみの果て」の原作〜
アフリカの日々(out of Africa)で心を奪われ、
映画「バベットの晩餐会」で汚い心が洗われ、11の物語に心を寄せた。


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