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匂い付きの空気砲を自動発射させるデバイスを作った時の話 【実践篇】

今回は企画篇(リンク)からの続きです。

企画篇までをざっとおさらい

企画篇ではどういうとこから着想を得て、どういうふうに企画して、どうなればいいかの青写真を描くところまでを書きました。

  • ある程度強力な風圧

  • 匂いを簡単に交換できる

  • 普通にボタンで撃つのではなくエンタメ性のあるインタラクション

​この3つの条件を絶対条件として出して、あとは作りながら足したり引いたりしていくというものです。
では、どういうふうにこの条件を達成しながら作っていったかを書いていきたいと思います。

風圧を極める

まず取りかかったのは風圧を極めることでした。この企画の意図として直線的に匂いを飛ばせるかというのが主題ですので風圧が強くなくてはまず成り立ちません。で、企画篇の記事で「でんじろう方式」か「空気銃方式」のいずれかのうち、圧倒的に風圧の強い「空気銃方式」を採用しました。
ここで極める上でポイントが2つ浮上します。

  • より風圧の出る形状

  • 風船を引っ張って離す部分をどうするか

まず、より風圧が出る形状から取り掛かりました。とりあえずペットボトルの形状を測ったりしてそれっぽい形状を3Dプリンターで出しながら風船を1/3ぐらいに切って括る方を筐体に取り付け試し、少しづつ形状を変えながらは試しを繰り返しました。

画像1
空気砲の進化図

※画像真ん中から右側のデベソみたいなやつはこの時点で匂いのマガジンが装着できるよう設計して作っていました。

上図のように首の太さや長さ、胴の太さや長さなどを少しづつ変化させて試していきました。物理とか科学に別に詳しいわけではないので試していくしかないからです。
結論から言うと試しまくったところそこまで違いはありませんでした。なので想像で匂いをより多く蓄えられて強そうなやつでいこうと思い、上図一番右の形状を採用しました。しかしながら、もう少し首(銃身)を伸ばしたほうが真っ直ぐ強く飛ぶのではないかと予想しましたが、3Dプリンターの出力範囲上これ以上は無理。なので銃身を取り外し可能なように再設計しました。

画像2
空気砲の固定と銃身の延長アタッチメント
画像3
ネジ式になっていて簡単に取り外し可能

上図のように空気砲を固定しつつ砲身を簡単に取り外し可能なようにアタッチメントと銃身を新たに作成しました。
銃身も色々な空気の出方をしたら遊べるかなと思い、いろんなパターンを作成しました。↓

いろいろ遊んだ結果

この時点では風圧を確認するのに風船を取り付けて空気銃方式で確認していました。というのも「引っ張って離す」という行為をどうやってデジタルで落とし込むかを悩んでいました。で、とうとうここの部分に取り掛かります。
まず実装的に難しくなく動きをシンプルにしたかったのでプッシュ / プルソレノイド を使って、風船のヘソをソレノイド の先にくくりつけ引っ張って押す方式を考えて試してみたところ「全く」と言っていいほど風圧を感じませんでした。動き的には風船を引っ張って離すとなんら変わらないのですが、予想するに「引っ張って離す」のと「引っ張って押す」のとでは風船の可動域と速度が違うのではないかと言う結論に至りました。↓

なるほど

で、これを受けて次に考えたのは、風船をテンション高く貼ってプッシュ / プルソレノイドで強く叩く「タイコ式」です。実際にソレノイド で叩く前に手で叩いてみたところまぁまぁの風圧を感じたので、これはいけるんじゃないかとソレノイド でやってみましたがもっと風圧が欲しくなるぐらいの威力でした。↓

タイコ方式

もっと風圧が欲しくなり、次は風船膜は取り払って底面より気持ち小さめの蓋のようなものをプッシュ / プルソレノイド の先端に取り付け一気に空気を押し出す「空気注射方式」を試してみました。これも風圧的にはまぁまぁで少しタイコ方式よりかは強いかなというぐらいな感じでした。採用しそうになりそうでしたが当たる空気の質的に空気の弾というよりかはシャワーな感じだったのでもう少し試行錯誤することにしました。

空気注射方式

飛んでくる空気の質的にはタイコ方式のほうが理想だったので、タイコ方式を軸に何かできないか試行錯誤を重ねました。結局完成ギリギリまで試行錯誤を重ねた結果、ある答えを導き出しました。それは今まで風船に囚われてしまっていたのですが風船ではない素材を使ってみてはどうか?ということでいろいろ素材を試してみた結果、シリコンが風圧を強めるのに最適でした。
※余談かもしれませんがシリコンを円形に加工してテンション高く貼るのが難しかったので底面の口径に合いそうな市販のシリコンラップを買って代用しています。
人間には欲が出てくるもので、もっと強くより強くとシリコンラップを叩く部分をスタディしました。↓

バチ(シリコンラップを叩くパーツ)の進化図

スタディした結果、最も風圧が出た上図一番右側の形状を採用しました。
これでひとまず「ある程度強力な風圧」をクリアしました。

匂いの素を簡単に交換する方法

この課題はある程度、頭の中でカタチにできていたので実現は楽でした。
空気砲本体に取り付けできるところを設け、ネジ式で取り付け取り外しを可能なようにするといったものでした。

空気砲のヘソ
ネジ式で取り付け取り外し可能

形は空気砲本体とトンマナが合うようにと強そうな感じが出ればいいなと思ってデザイン・設計しました。

マガジン内部。蓋もネジ式で開閉可能なように

マガジン内部も匂いの素を交換できるようにネジ式で蓋を開け閉めできる構造を採用、マガジンごと交換してもいいし、マガジンの内部の匂いの素を交換できる都合の良い機構にしました。
しかしこれだけでは発射される空気に匂いがつがず、マガジン内部を通って空気砲本体に匂い付きの空気を送り込む必要がありました。そこで以前作った「シーンにあわせた香りを噴射するデモ」でも使った圧電マイクロブロワでマガジン外部からマガジン側面に穴を開けチューブで内部に空気を送り込む構造を追加しました。あと、内部で匂いの素が空気砲本体に繋がる穴を塞いでしまっては匂いを送り込めないので手前で止めておくアミアミを追加しました。↓

側面から空気を送り込み、アミアミで詰まりを防止する

これで「匂いを簡単に交換できる」はクリアできました。
実際に空気を流し込んでみたところしっかりコーヒーの香りがついていたのでほっとしました。

エンタメ性の模索

この項目に関しては企画段階では決めていませんでした。まあ作りながら思いつくだろうと思っていて油断しまくっていた結果、ギリギリまで決まらなかったので焦ったのを覚えています。最終的に思いついたのは以下の2案。

  1. 視線で砲台をコントロール。声「バンっ!」で発射

  2. 顔の向きで砲台をコントロール。口を開けて発射

1案目の視線と声は以前から思いついていて、射撃のインタラクション的には理にかなっているし、ドラえもんに出てくる空気砲は「ドカン」が発射トリガーだった気がするので有力候補でしたが、いざ実装するとなるとかなり懸念点がありました。それは視線入力にしてもいろいろ視線入力用のデバイスは出回っていたのですが、個人差でキャリブレーションが必要だったり、精度の問題もありました。音声入力に関しても精度や誤認識、環境音などの雑音問題もありかつ、『視線と音声』で入力デバイスが『カメラとマイク』の2つになることがネックで気軽に体験できないなと思い、一旦この案は見送りにしました。
2案目はパッと思いついたけど、誰でも思いつきそうだなとか考えたり、1案目と比べるとインタラクションにあまり納得感がないかなーとか、コロナ禍だしマスク外すのはなーとか考えたりして腰重だったのですが、1案目より体験もシステムもシンプルだったのでとりあえずこの案を採用し、作ってみることにしました。

どうやって作ったか

まず、口を開けたかの検出をしないといけません。
以前検証で作った(記録には残っていない)「目を瞑ったかどうかを検出」するアルゴリズムを応用すればいけそうだなと思い、実装を進めていきました。まず、顔認証AIなどにも使われるフェイスランドマーク検出技術を使い目や鼻・口といったパーツの特徴点を取得します。それで、そのポイントを目の開閉で使った数式に口のポイントを入れていきました。

フェイスランドマーク検出
目の開閉で使った数式はいつもモニター横に付箋で貼ってある

EARで得た(口の開きの)数値が一定(閾値)以上大きくなったら口が開いたと判断し、発射の信号をソレノイド に送り、ソレノイド が勢いよくプッシュ・プルすることで匂い付き空気が発射されます。
また、顔の向きによって銃口の方向を変えるパートに関しては、以前作った「チェケラッチェア」で使ったKeiganMotorというすごく便利なモーターが一個余っていたので、それに空気砲をのせ制御しようと考えました。顔の向きの検出は先ほどのフェイスランドマーク検出で同時に取れたので、そこから左右方向の回転だけ取得し、左右方向だけの制御を行いました。割と手こずることなくすんなりといけたので安心しました。

エンタメ性の検証

これで一通り体験ができる形になったので、体験して自分的に面白いかを1日の半分ぐらい使って遊び倒してみました。

結果、威力もいいし、匂いも出てたし、口と首の動きだけで制御できるのはなかなか面白い体験だなと感じたので最終的にこの形でいくことにしました。あとは、体験検証での気づきをもとに人が検出されなかったら正面に銃身が自動で戻るという少し気の利いた実装を入れて完成としました。8888

成果発表!

おかげさまで、TV番組に2本取材いただき(他のプロダクトと抱き合わせ&1本は全カットでしたが、、、)有名芸能人に体験いただけたことは弊社の宣伝にもなるし、個人的にもとても嬉しい体験でした。

終わりに

今回のプロトタイプではなんか久しぶりにプロトタイピングしたなという感想を持ったのを思い出しました。形をいくつも考えて作ったり、どうやったら風圧が強くなるかを根気強く粘ってみたり、本編の流れ上、書きませんでしたがソレノイド のパワーがかなり強くデバイスの強度を上げる工夫をしてみたりと、悪戦苦闘しながらも楽しめたのが良かったです。完。


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